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第77話 「そのときはずっと一緒に暮らそう」

 すっかり日は落ち、レックスは王宮の入り口に向かった。


「レックスー!」


 しばらく立っていると、レックスを呼ぶ声がした。声のした方を見ると、セレナが駆け足でレックスに近づいてきていた。


「セレナ、元気だったか?」

「いつも元気いっぱいだよ! レックスは背伸びた?」

「子供扱いするなって」


 後ろからはゆっくりとポーラとサファエル――さらにその後ろからはトールが歩いてきていた。


「トールじゃないか! 久しぶりだな!」


 思わぬ人物の登場に、レックスは驚いてトールに駆け寄る。


「ポーラ、どういうことだ?」

「わしが誘ったんじゃ。いつも寂しそうに見送っておるからな、たまには来なさいと引っ張ってきたんじゃよ」


 ポーラはニコリと笑ってトールを(ひじ)でつつく。


「俺は邪魔しちゃいけないからいいって言ったのに、師匠が無理やり連れてくるから……邪魔だったら追い返していいからな」

「そんなわけあるかよ。もちろん歓迎するよ」

「……じゃあ、()(がた)く参加させてもらおうかな」


 トールは照れくさそうに鼻をかく。


「きっとセレナの介抱担当になるわよ」

「げ。それなら帰ろうかな」


 トールはくるりと身を(ひるがえ)すが、ときすでに遅し。レックスに首根っこを掴まれ、トールは王宮へと連れ込まれた。


「さて、みんな揃ったことだし、乾杯!」


 レックスの掛け声に合わせ、レックスたちへグラスを突き合わせる。

 王宮の一室。クロスが敷かれた机には花が飾られ、様々な料理と酒が並んでいた。レックスたちは思い思いの料理を手に取り、それぞれ食事を始めた。


「ぷはぁ、お酒最高!」


 セレナが早速一杯目の酒を飲み干し、二杯目に入る。見慣れたレックスたちはなにも言わなかったが、料理を食べていたトールが一歩後ろに下がる。


「セレナ、やっぱやべぇな……」

「だってお酒が美味しいんだもーん!」


 酔いが回っているのかいないのか、セレナはトールの周りをぐるぐると回りながら揶揄(からか)う。


「こうしてみんなで集まるのも何度目でしょうか。すっかり定期開催になりましたね」


 サファエルが感慨深そうに(つぶや)く。


「言い出したレックスも寂しがり屋じゃからのう」

「とか言って、ポーラも私たちに会いたかったんでしょう?」


 マリカがニコニコと笑うと、ポーラは酒を片手に(ほお)を膨らませて「そんなことないぞ」と誤魔化した。


「今日は俺たちだけの時間だ。ゆっくり楽しもう」


 レックスはすっかり好物になった王宮特製の肉料理を口にした。


「……はぁ」

「なんとか逃げ切れたわね……」


 レックスとマリカはバルコニーで休憩していた。

 あれからセレナが案の定暴走し、トールも酒を飲まされ、ポーラも悪ノリをして飲み、酒が得意ではないはずのサファエルも参加して、部屋は非常に盛り上がった。

 レックスとマリカも危うく飲まされそうになったが、なんとか逃げ切って今に至る。セレナたちはバルコニーまで追ってくることはなく、二人は落ち着いた時間を過ごしていた。


「騒がしいけど、こうして盛り上がるのも悪くないわよね」

「そうだな。みんなが元気だって分かるいい機会だよな」

「まぁ、ちょっと元気すぎるかもしれないけれど」


 確かに、とレックスは苦笑する。


「……そういえばレックス。前に田舎暮らしをしたいって言っていたわよね」


 マリカは柵に手を置いて星空を見上げる。

 紺碧(こんぺき)の空には星が(またた)いていて、どこを見ても星が輝く綺麗な空だった。


「私も、段々と田舎暮らしに(あこが)れてきたわ」

「そうなのか?」

「だって、王宮の中って(せま)苦しいじゃない。もっと広くて自由な場所で過ごしたいって思うときもあるわよ」


 マリカの言うことはもっともだった。レックスも王宮内で過ごすことが多いが、窮屈(きゅうくつ)な感覚はあった。よく訪れる中庭こそ手入れされているものの、やはり(へい)に囲まれていては開放感はあまり感じられなかった。


「そこでね、私(ひらめ)いたの。二人で王宮を飛び出して、どこかで田舎暮らしをするのも悪くないんじゃないかしら」

「え?」


 思わぬ提案に、レックスから気の抜けた声が出る。

 そこで二人で田舎暮らしをする想像をしてみた。マリカに起こされてのんびり過ごし、二人で自給自足をした物を食べて、畑仕事をして、日が暮れたらゆったりと過ごす。その繰り返し。疲れた体を(いや)すにはもってこいの日々だ。


「……なんて、冗談よ」


 マリカは口元に手を当てて笑う。

 冗談か。レックスは脱力して塀にもたれかかる。マリカと過ごすのは自分だけの願望だったのかもしれない。だが、それが現実でも悪くない。

 レックスはマリカに向き合い、微笑みかける。


「いつか本当に叶えてみせるよ。そのときはずっと一緒に暮らそう」


 レックスの言葉に、マリカは少しずつ顔が赤くなっていく。


「どうした?」

「い、いえ、レックスってそんなに素直に気持ちを伝える人なのね……」


 最後の方は(かす)れて聞こえなかったが、マリカが照れているということだけはレックスに伝わった。

 するとマリカが一歩を踏み出し、レックスに近づこうとする。そのとき。


「なになに、結婚の申し込み!?」

「なんじゃ、こんなところで水臭(みずくさ)いのう。わしらが盛大に祝ってやると言うのに」

「師匠、今いい感じのところだから……」

「早速お祝いの準備をしなければならないですね」


 部屋の中からセレナたちが飛び出し、バルコニーに雪崩(なだ)れ込んできた。


「もう、みんな空気読みなさいよね!」


 マリカはどんどん顔が赤くなっていき、セレナたちの輪に混ざっていく。一瞬でてんやわんやになり、レックスは呆れて大きなため息をつく。


(でも、こういうのも悪くないよな)


 あれやこれやと盛り上がるマリカたちを見ながらレックスは一人でくすりと笑う。

 今でこそ一緒にいるが、この関係はいつまで続くか分からない。一生続いて欲しいと願うが、決まった未来ではない。それならば、このときを全力で楽しもう。それから、未来のことを考えて夢見てもいいのではないか。

 だから、田舎暮らしのことは少しだけ置いておこう。いつか、考えるときが来るはずだから。


「そうだろ、みんな」


 レックスは小さく笑うと、騒がしい輪の中へゆっくりと入っていった。


 ―完―

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