第74話 「私たちは仲間、なのね」
Side.勇者時代
「マリカ、大丈夫か?」
レックスが問いかけると、マリカはぼんやりとした瞳で辺りを見回していた。
少しして意識がはっきりしてきたのか、マリカは目を見開きながら飛び起きた。
「古代兵器は俺たちが倒したよ」
「……そう、終わったのね」
レックスに告げられたマリカは呆然としていたが、不敵に笑い、諦めたように息を吐いた。
「倒したのなら、私の計画は終わりよ。もうどうにでもしてちょうだい」
全てを投げ出しているかのようなマリカは、レックスたちの目からは非常に痛々しく、辛そうに見えた。
「マリカが無事で良かった」
レックスの言葉に、マリカは信じられないといった表情を見せる。
「どういうこと? 私はあなたたちを裏切ったのに、無事で良かったなんて言えるわけないでしょう」
「……確かに、裏切られたときは衝撃だったし悲しかった。でも、それだけでマリカを責めるつもりはない」
「私はあなたを殺そうとしたのよ? 甘すぎるわよ」
マリカの突き刺すような正論に、レックスはなにも言えずに黙り込んでしまう。
だが、マリカは一緒に旅をして苦楽を共にしてきた仲間で、レックスは簡単に突き放すことなんてできなかった。
「正直言えば、まだ整理はできてない。まさかマリカが裏切るとは思ってなかったから。それでも、俺はマリカを心から救いたいと思った。俺はマリカを仲間だと思ってるから」
「……そうよね、レックスは優しいもの。裏切り者の私にも優しくしてくれるのよね」
マリカは目を伏せて呟く。切なく消えてしまいそうな表情で、レックスは苦い顔をする。
「わしらもレックスと同じ思いじゃぞ」
そんな中、レックスの後ろからひょこっとポーラが姿を現す。
「これまでわしらを欺き続けたのは賞賛に値するぞ。やはり根性があると思ったのは間違ってなかったわい」
ポーラはニヤリと笑う。
屋敷でポーラがレックスたちを試したときのことが頭に蘇る。たとえあれが演技だったとしても、ポーラの関心を引くにはちょうど良かったのかもしれない。
「そうそう、償いとかそういうのはあとでいくらでもできるよ。今はあたしたちのことを信じる時間だよ!」
ポーラに続いてセレナがニコリと笑う。
「その通りです。まだマリカはやり直せますよ」
「セレナたちの言う通りだ。俺たちはマリカを信じてる」
レックスの眩しい笑顔がマリカに届き、眩しさにマリカの目が思わず細くなる。
「私は人間こそが至高で、魔族や他の種族がいないことこそが正しいと思って育てられたわ。だから植えつけられた私の思想は簡単には変わらない。それでもいいの?」
「もちろんだ」
「あなたたちはそれでいいの? 私がそういった考えを抱いているのに」
マリカの問いにレックスたちは顔を見合わせる。しかし、すぐに笑顔を見せてマリカに向き直る。
「誰がどんな考えを抱いてるかなんて自由だよ。俺たちは平和主義だし、争いごとは嫌いだから喧嘩はしてないけど、考えていることはそれぞれ違う。自分の意見を押しつけることをしなければいいんじゃないか?」
「そうそう。マリカがどんなことを思ってても、あたしたちは受け入れるつもりだよ!」
レックスとセレナの言葉にポーラとサファエルは頷く。
「マリカも、これまでと同じように接してくれたらそれでいいよ。あ、また刺すのだけはやめてくれよな」
レックスは腹を撫でながら苦笑する。
静かに話を聞いていたマリカはふっと笑う。
「私たちは仲間、なのね」
「当たり前だよ」
「最悪、自害も考えていたけど、そんな必要はなかったみたいね」
物騒な言葉に思わず一歩後ずさるレックスたち。そんなことは気にしないとマリカは立ち上がり、レックスに手を差し出す。
「こんな私だけど、まだみんなと一緒にいてもいいかしら」
マリカの晴れやかな笑顔と差し出された手を交互に見て、レックスはマリカに負けないくらいの笑顔を向ける。
「もちろん」
レックスは迷わず手を差し出して、二人は固く握手を交わした。
その後は一度スフェーンに戻る流れになり、レックスたちは古代遺跡をあとにした。
「でもさ、人間以外がスフェーンに来たって言われたらどうする? アズライトみたいなことはもう勘弁だよ」
「大丈夫よ。私がいるわ」
しょぼくれるセレナに、マリカが力強く応える。その言葉にレックスたちは自然と安心した。
野を越え山を越え、レックスたちはスフェーンに辿り着いた。活気づいたスフェーンは、これまで旅をしてきたレックスたちにとっては懐かしくもあり、新鮮な場所だった。
「ここがマリカの生まれ育った都なのですね」
「栄えているのう。流石王都じゃ」
ポーラとサファエルは新鮮なのか、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回す。
(あ、あそこ……)
大通りを歩いているところで、レックスはとある場所が目につく。それはほんの少しの幸せな時間を過ごした宿屋だった。そして、マリカが働いていた場所。
「私は素性を隠して働いていたわ」
レックスの視線に気がついていたのか、マリカがレックスの横で微笑む。
「平民の生活を知ることも大事だと思って、小さい頃お父様にお願いしたの。私は元々表舞台にはあまり出ていなかったから、私を王女だと思う人はいなかったわ」
マリカが人々に愛されていた裏では、そんなことが起こっていたのか。レックスはマリカの説明を聞いて納得した。
「へぇ、ちゃんと王女らしいことはしてたんだね」
「ちゃんととは失礼ね。王女としての務めは果たしていたわよ」
セレナの揶揄いの言葉に、マリカは不満そうに唇を尖らせる。
王宮の入り口に着くと、マリカは衛兵に向けて微笑む。
「マリカ・ユーディア。ただいま戻りました」
名前を出したことで、衛兵たちは居住まいを正して「お帰りなさいませ」と表情を切り替える。
「こちらは私の友人たちです。ご安心ください」
と言って、マリカは先頭に立って王宮の中へ入っていく。王宮の中は静かで厳かで、レックスたちは思わず背筋が伸びる。
王宮の中でも一際大きな扉を目の前にして、レックスは息を呑む。
「入るわね」
マリカが扉を開くと、部屋は絢爛な装飾が施されていた。その奥には一人、壮年の男性が玉座に腰掛けていた。




