第73話 「今度こそ世界に平和が訪れたんだよ!」
Side.復興大臣時代
「とーうっ!」
セレナの水属性の魔法が古代兵器を押し出す。体勢を崩した古代兵器はよろけて膝をつく。それを見逃さなかったポーラが召喚魔法と降霊魔法を組み合わせ、いくつもの兵士を呼び出す。兵士たちは古代兵器の足元で武器を構えて、古代兵器の動きを止めていた。
その隙にサファエルが上空から槍で心臓部分を狙うが、古代兵器の巨大な手で簡単に払い除けられてしまう。
「やはり簡単にはいかないですね」
レックスたちの近くに着地したサファエルは、悔しそうに唇を噛む。
「前回の戦いで古代兵器も戦い方を学んだのかもしれないな」
「そうなるとなかなか不利ね。学習されるほど面倒なものはないわ」
マリカは古代兵器を見上げながら剣を握り直す。
レックスはどうするべきか頭を働かせる。
あのときは精霊の力があったからなんとか倒すことができた。しかし、今自分の中に精霊の力は宿っていない。封印魔法でどうにか力を弱められたらいいが、そんな簡単にいくものなのか。
「考えていても状況は良くならん。やり方は荒いが、できうる限りの攻撃をしてみるのじゃ」
ポーラはさらに召喚魔法を使って兵士を出現させながら言う。セレナも水の檻を作って古代兵器を足止めし、サファエルも光の剣をいくつも作り出して生み出されていく影を倒していく。
しかし、心臓部分には届かなかった。むしろあの頃より防御が固くなっている気がする。
どうすればいい。レックスたちの間に焦りが生まれていく。このままではまた世界が危機に陥ってしまう。
「私に任せて」
そのとき、マリカは剣を納めて古代兵器に向けて手を翳す。すると、古代兵器の一部分が溶けるように落ちていった。
どういうことかと驚くレックスたちに、マリカは確信を得たように頷く。
「あのとき古代兵器と一体化したことで、私の中に古代兵器の一部が残っていたのだと思うわ。微力だけど、それを制御できるかもしれないの」
マリカだからこそできる作戦に、レックスたちの中に希望が生まれていく。
「それじゃあ、俺がマリカの動きに合わせて古代兵器に近づく。俺がまたあいつを倒す」
「分かりました。では、僕はレックスを後方から支援します」
レックスは「任せたよ」とサファエルと笑顔で手を交わす。
「そしたら、あたしはマリカを古代兵器から守るよ。もしかしたらマリカに襲いかかってくるかもしれないし!」
「わしは周りの雑魚どもを片付けることにするぞ。その方が皆動きやすいじゃろう」
レックスたちは顔を見合わせて頷き、それぞれ行動を開始した。
マリカが祈るように手を合わせ、古代兵器の動きを止める。迫り来る影はセレナとポーラが蹴散らし、マリカが集中できるような環境を作り出した。
その間にレックスとサファエルは古代兵器に向かい、レックスは動きが鈍くなった古代兵器に軽い身のこなしで登っていく。古代兵器はレックスを振り払おうとするが、サファエルが光の鎖を作り出して動きを制限する。
レックスは道ができたことで心臓部分にすぐに辿り着いた。持っていた剣をしっかりと握り、心臓に向けて全力で突き刺す。
「二度と、この世界に姿を現すな……!」
そのとき、レックスの中に眠っていた――父から受け継いだ封印魔法が解放された。レックスもそれは体感で分かっていたようで、次第に古代兵器の動きと魔力が収まっていく。
(違う、封印じゃ駄目だ。完全に倒さなければ……!)
封印をしても、またいつか蘇ってきてしまうかもしれない。それは自分たちが生きている間か、もしくはさらに未来かもしれない。それだけは決して避けたい状況だった。
(――そうだ、これならいけるかもしれない)
一つ、思いついたことがある。だが、それで上手くいく確証はない。もしかしたら失敗してしまう可能性だってある。
しかし、迷っている暇はない。今このときだからこそ成功できるかもしれない。
(やってみよう。もし失敗してもみんなでやり直せばいいんだ)
魔力が収まって封印されようとする古代兵器に向けて、レックスは――己の魔力を注ぎ込んだ。
収まったところに魔力を流し込むことで敢えて魔力の流れを逆流させて決壊させるという、あまりにも手荒い作戦だった。
「はあああぁっ!」
全身全霊をかけて、レックスは魔力を注ぎ込み続ける。
封印魔法と突然流し込まれる魔力に耐えきれず、古代兵器はパラパラと体にひびが入っていく。次第に崩れていき、影は溶け、姿形はどこにもなくなった。
「やった、のか……」
雲間から光が射し込み、まるで祝福のような天気がレックスたちを迎えた。
呆然とするレックスに、マリカたちが駆け寄ってくる。
「レックス、やったわね」
「流石レックスだよ!」
「見応えのあるいい戦いじゃったぞ」
「レックスならやってくれると信じていました」
マリカたちがレックスを次々と讃える。
「俺、本当にやったのか……?」
「えぇ。私の中の影もすっかりなくなったわ。それがなによりの証拠よ」
未だに信じられないレックスが呟くと、マリカが泣きそうな顔で微笑む。
そこでようやく、レックスは自分が古代兵器を倒したのだと理解した。大袈裟に喜ぶより、心の奥にじんわりと広がる暖かさが、今のレックスにはなによりも嬉しかった。
「また、世界を救ったんだな」
「今度こそ世界に平和が訪れたんだよ!」
セレナがレックスたちに飛びついた。ポーラもサファエルも巻き込み、レックスたちは団子になって喜びを分かち合った。
「レックスは世界を救った復興大臣として讃えられる必要があるわね」
「その通りですね。今回は盛大にパレードも開催しましょう」
マリカたちの喜びは伝染し、あれやこれやとこれからのことについて盛り上がり始めた。
「……レックス、一つ聞きたいのじゃが」
「どうした?」
ひとしきり喜びを共有したところで、ポーラがレックスに尋ねる。
不思議そうな、加えてどこか神妙な面持ちで、レックスだけでなくマリカたちも首を傾げる。
「お主から魔力を感じなくなっておるのは、なぜじゃ?」
「……え?」
ポーラの質問にマリカたちは唖然とした。
レックスも呆然とポーラの疑問を受け止めた。




