第72話 「レックスが世界を救ったんだよ」
「それじゃあ、みんなでマリカを助けよう」
「まずはあの硬そうな体をどうにかするのが先決ですね」
レックスたちは古代兵器を見上げる。サファエルの言う通り、硬そうな外殻はそう簡単には剥がせないだろう。どうすればいいか、とレックスは影の猛攻を躱しながら考える。
(――そうだ。俺にはあれがあるじゃないか)
古代兵器の復活ですっかり忘れていたが、今の自分の中には力を分け与えてくれた精霊がいる。
「精霊のみんな、力を貸してくれ」
レックスは自分自身の中にいる、力を分け与えてくれた精霊に呼びかける。すると、ふわりと自分の体が軽くなったような気がした。
「え、あたし?」
レックスの呼びかけにセレナも反応する。セレナはきょとんとした顔でレックスを見つめた。
「えっと、セレナじゃなくて……遺跡で精霊に会って、そのときに精霊に力を借りたんだ」
これまでの状況を細かく説明している暇はない。ポーラとサファエルはレックスの話を飲み込めずに驚いていたが、セレナは唯一納得した表情でレックスに微笑みかける。
「きっとみんな、あたしの友達だよ。あたしに地上のことを託して、みんなは精霊の役目を果たしてくれてたんだと思う」
やはり精霊たちの言うことは正しかったのか。セレナは精霊の中でも地上を託された特別な存在なのだと改めて気がついた。
「雑談はそれくらいにするのじゃ。わしらが外殻を破壊する。その隙にお主がマリカを助けるのじゃよ」
ポーラは何体もの兵士を召喚しながらレックスに言う。いつになく頼もしいポーラに、レックスは「ありがとう」と返すばかりだった。
「空中からの攻撃は僕に任せてください。引きつけることも可能ですから」
「あたしはレックスが危なくなったら支える担当で!」
セレナとサファエルが力強い笑顔をレックスに向ける。
「あぁ。二人とも頼んだよ」
そして一斉に攻撃が始まった。
セレナは水属性の魔法を使い、サファエルは光属性の魔法、ポーラは召喚魔法の他に属性魔法を使いながら、古代兵器の外殻を剥がしにいく。レックスも前線に立って魔法を行使する。
最初は欠片程度だったが、少しずつ外殻が剥がれてきて、黒い影が剥き出しになっていった。剥がれた外殻は再度補強されることはなく、地面に散らばっていく。
時間はかかるが、時間をかけるわけにはいかない。レックスたちが地道に削っているうちに、心臓部分の黒い影が外殻の端から見えた。
「みんな、少しの間引きつけてくれ!」
「任せて!」
レックスは古代兵器に飛び乗って腕を駆け上がり、古代兵器の心臓部分へと向かう。
そこには影に取り込まれたマリカがいた。
「マリカ!」
レックスは飛び出し、必死にマリカへ手を伸ばす。影が纏わりついてくるが、レックスは止まらなかった。影をかき分けるようにマリカに近づいていく。
(届いた……!)
マリカに手が届いた瞬間、レックスはマリカを抱きとめ、風属性の魔法を噴射して古代兵器から引き剥がした。
マリカと古代兵器が離れたが、レックスはマリカを抱きしめたまま落下していく。勢いよく地面に叩きつけられるのを覚悟したレックスは強く目を閉じる。
「間に合ったのう」
しかし、それより早くポーラの召喚した兵士の一体がレックスとマリカを受け止めた。
「レックス、よくやったぞ」
ポーラがマリカを預かり、マリカを優しく寝かせる。マリカの意識はないようだったが、小さく呼吸はしていた。
無事に生きていて良かったと、レックスは一気に訪れた安心から気が緩みそうになった。
すると、古代兵器が咆哮を上げながら苦しみ始めた。なにが起きたのかと、レックスたちは訝しげに古代兵器を見上げる。
「鍵となったマリカがいなくなったために、本来の力を発揮できなくなったのではないでしょうか」
地上に降りてきたサファエルが推測する。
それなら好都合だと、レックスは小さく笑う。今が倒す絶好の機会だ。
「マリカを頼んだ。俺があいつを倒してくる」
「一人で大丈夫かえ?」
「精霊の力があるから大丈夫だよ」
レックスは自信に溢れた笑顔で告げる。根拠はないが、今の自分にはそうだと言える自信が湧き出ていた。
「では、これを持っていってください」
サファエルは光属性の魔法を使って光の剣を作り出し、レックスに手渡す。
「ありがとう、サファエル」
「あたしたちも後ろから支援するから、困ったらすぐに言ってね」
「あぁ、そうするよ」
レックスは走り出し、再び心臓部へと向かう。足を伝って登り、剣を支えにして腕に飛び移る。襲いくる影を斬り捨てて再び心臓部分へと飛んでいく。
属性魔法は使えるものの、こういった戦闘で立ち向かえるほど強力な魔法は使えない。セレナのような強大な水属性魔法も、ポーラのような召喚魔法も、サファエルのような光属性も使えない。だからこそ、己の身体能力のみを信じるしかなかった。
そして、手を伸ばせば心臓に手が届きそうなところまで辿り着いた。
レックスは剣をしっかりと握り、古代兵器の心臓へ向けて剣を突き立てた。剣を通して全力で精霊の力を流し込み、古代兵器が倒れる想像を頭の中で繰り広げる。
「いい判断だね」
「古代兵器は厄介だもんね」
「私たちが封印してあげる」
そのとき、レックスの頭の中に声が響いた。それは精霊たちの声。精霊の力が強まり、周囲が光り輝いていく。
すると、古代兵器は悶え苦しみ、暴れ出した。レックスは振り払われそうになるのを必死に堪える。古代兵器は外殻から崩れていき、黒い影もドロドロになって溶けていく。レックスは足場が悪くなると判断して、すぐに体勢を変えて地面に着地する。
「レックス!」
着地すると、すぐにセレナが駆け寄ってきた。
「倒した、のかな」
セレナが視線を向けると、形を失って徐々に崩壊していく古代兵器の姿があった。
「多分そうだ。精霊たちが古代兵器を封印してくれた」
次第に古代兵器は姿が崩れ、最終的に跡形もなくなった。立ち込めていた暗雲も晴れ、雲間から光が射し込んできた。
「……やったんだな」
「レックスのおかげだよ。レックスが世界を救ったんだよ」
セレナはレックスの手を取る。セレナの表情は嬉しそうだけど泣きそうな、そんな複雑な表情をしていた。
「そうだ、マリカは……!」
レックスは思い出し、マリカに駆け寄る。寝かされたマリカは目を閉じて浅い呼吸を繰り返していた。
「まだ目覚めぬ。古代兵器に取り込まれた影響じゃろうか」
ポーラが心配そうに、マリカの頭を優しく撫でながら呟く。
「……俺が助ける」
「どうするのですか?」
「俺の中にある精霊の力を全て使う。これならマリカを助けられるはずだ」
レックスはマリカの横に膝をつき、マリカにそっと触れる。
「頼む、マリカを助けてくれ」
まるで祈るようにレックスは呟く。すると、レックスからいくつもの光が溢れ出し、マリカを囲うように現れた。
「この子のことが大好きなんだね」
「いいよ、あなたの願いなら叶えてあげる」
「私たちの力を全て使うね」
光たちは一つの光となり、マリカの中にそっと入っていく。
「ん……」
静寂ののち、マリカがゆっくりと目を開けた。




