第71話 「あれが、古代兵器……?」
Side.勇者時代
「殲滅って、どういうことだよ……」
レックスは、喉から搾り出したような声で呟く。
レックスの表情が可笑しかったのか、マリカは鼻で笑ってあしらう。
「言葉通りの意味よ。人間以外の種族は存在する価値もないわ」
「つまり、人間至上主義ということかのう」
「そうよ。よく分かっているじゃない」
マリカは指で髪を弄びながら話を続ける。
「スフェーンでレックスが私を助けようと魔法を使ったときから確信していたわ。レックスは魔族だと。魔族だからすぐに殺しても良かったのだけれど、せっかくだから泳がせることにしたの。観察と監視の対象よね」
レックスの中にスフェーンでの出来事が蘇る。うっかり魔法を使ってマリカを助けたこと。そこから兵士に追われ、旅を始めたこと。
マリカが魔法を使っても偏見を持たなかったこと、ついてきたのは縁と言っていたこと、それらは純粋な感情ではなく監視のためだったなんて。
愕然としたレックスは耐えきれずに膝をつく。
「旅を始めたら、精霊に魔族に天使族が仲間になった。人間以外の種族がこうも集まるなんて思わなかったわ」
マリカは鋭い瞳でセレナたちを一瞥する。
「それに、レックスが魔族の王族と知ったときは驚いたわ。少しでも早くレックスを殺さなければ、レックスが先導して魔族が反旗を翻してしまう。それだけはどうしても避けなければと決意したの。魔族の王の血を引いている人物なんて、真っ先に殺さないといけないじゃない」
ふぅと呆れたようにため息をつくマリカ。
「マリカ、ジャスパーさんに聞かれて答えていたじゃないか……叛逆なんてしないって……」
「えぇ、言ったわ。人間が上に立つ存在なのだから、元から叛逆なんてする必要がないわ」
掠れた声で尋ねるレックスに、マリカは当然と言った風に答える。
叛逆はしないが、裏切らないとは言っていない。マリカの言葉の真意をレックスはようやく理解した。
「私はアズライトで古代兵器の存在を教えてもらったの。古代兵器があれば人間以外の種族を殲滅するなんて簡単なことよ」
マリカはレックスの血に濡れた剣を躊躇なく自身の手に突き立てる。血がぽたぽたと垂れる中で、マリカは笑顔で歯車に触れる。
「さぁ、目覚めなさい。古代兵器よ」
そのとき、ギギ、と歯車が音を立てる。すると黒い影が手のような形を持って勢いよく噴き出し、マリカの全身を包み込む。
「さようなら、下等種族の皆様」
笑顔のままのマリカを取り込んだ影は歯車の中に消えていく。次の瞬間、遺跡から地鳴りのような音が響き、天井や床が崩れ始める。
「一旦外に逃げなきゃ!」
「セレナ、僕が連れて行きます」
サファエルはセレナをひょいと抱え、翼をはためかせて入り口に向かって飛んでいく。
「レックス、わしらも行くぞ」
「待て、まだマリカが……!」
「年寄りの言うことは聞いておくものじゃぞ」
マリカのいた場所に向かおうとするレックス。
痺れを切らしたポーラは召喚魔法と降霊魔法で鎧を纏った兵士を数体呼び出し、自身とレックスを抱えさせる。
レックスは抜け出そうと暴れるが、力のある兵士の前では無力で、レックスは遺跡の入り口まで連れて行かれた。
レックスたちが出た瞬間に遺跡は崩れ、代わりに巨大な石を纏った怪物が現れた。
「あれが、古代兵器……?」
古代兵器を見上げて呆然とするレックスたち。
レックスたちが全てを理解する前に古代兵器は拳を振り上げてレックスたちに襲いかかる。レックスたちは拳を躱し、それぞれ体勢を立て直す。
間髪入れずに、古代兵器の目が妖しく光ったかと思うと、熱線が発射される。熱線はレックスたちを超えて果てを燃やした。
「マリカ、やめてくれ!」
レックスが叫ぶが、古代兵器は止まらなかった。遺跡を纏った巨体は一歩踏み出すだけで地震を引き起こし、地面を破壊していった。
「な、なにこれ……!」
セレナは足元を見つめて目を見開く。
地面から黒い影が湧き出てきた。影はそこら中から現れ、意思を持ち、レックスたちにじりじりとにじり寄る。レックスたちはそれぞれ魔法で薙ぎ払うが、影は次々と現れて一向に減る様子は見せなかった。
「まるで古代兵器の配下じゃな。キリがない」
「やっぱり古代兵器自体を止めなければならないようですね」
影を倒しながらポーラたちが歯噛みする。
大元である古代兵器をどうにかしなければ、この副産物のような影を完全に倒すことはできないのだとレックスたちはなんとなく理解していた。
天気も崩れ始め、空には暗雲が立ち込める。
「でも、どうする? 古代兵器の中にはマリカがいるよ」
セレナの言葉にレックスたちは立ち止まる。このまま古代兵器を倒してしまっては、取り込まれたマリカも無事では済まないだろう。
古代兵器を見上げたあと、レックスはセレナたちに視線を移す。
「まずマリカを助けよう」
レックスは近くに現れた影を倒しながら言う。
「マリカは俺たちの仲間だ。たとえ裏切られたとしても、俺はマリカを信じる」
マリカとはスフェーンでの出会いから始まり、これまで一緒に旅をしてきた。観察や監視と言われても、マリカと過ごしてきた時間は本物で、なににも代えられない。マリカは誰よりも大事な仲間だった。
「レックスならそう言うと思ってたよ」
セレナがレックスの横に立って小さく微笑む。
「あたしもマリカは助けたい。助けたあとでたっぷり話をしようよ!」
「セレナに賛成じゃな。魔族の良さをとくと語ってやろう」
「僕もです。天使族と悪魔族はいい種族であると伝えたいです」
ポーラとサファエルも並び、レックスに微笑みかけた。
どれだけ複雑な感情を抱いていようと、全員がマリカを救いたいという気持ちは同じだった。




