第68話 「あなたには死んでもらわないといけないの」
Side.勇者時代
「マリカ、マリカの言う遺跡はどこにあるんだ?」
マリカの提案により、レックスたちは遺跡に向かっていた。ただし、行き先は一切伝えられていなかったため、レックスたちはマリカについていくしかなかった。
「ここからは少しかかるわね。場所は分かっているから、行ってからのお楽しみよ」
マリカは鼻歌を歌いそうなくらい軽い足取りで先頭を歩く。
「マリカも遺跡探索とか興味あるんだね」
「えぇ。旅をしているのだから、そういう楽しみ方もいいわよね」
マリカの言うことも一理あった。目的もなく思うがままに旅をするのもいいが、行き先がある方が明確な目標ができる。
「遺跡には一体なにがあるんでしょうね」
「なにもない場合がほとんどじゃろう。お宝なぞ夢のまた夢じゃ」
「そんな夢のないことを言わないでください。夢を見るのも一つの楽しみですよ」
冷静なポーラにサファエルが苦笑する。
アズライトを出てからしばらく歩き続け、レックスたちが辿り着いたのは巨大な古代遺跡だった。外見からいかにもといった雰囲気の遺跡は、レックスたちを空から見下ろしているようだった。
「こんな遺跡があったんだな……」
「早速行ってみましょう」
再びマリカを先頭にして歩き出す。中は薄暗く、火属性の魔法を松明代わりにして進んでいった。
「結構奥深くまで進むんだな」
「途中にきっとなにか罠がありそうだよね」
セレナは真剣な表情で呟く。セレナはセレナで遺跡探索を楽しんでいるようだった。
「おや、道が分かれているのう」
歩みを止めたポーラの視線の先には左右に分かれた道。どちらも道の先は暗く、どこに繋がっているかは見えなかった。
「二手に分かれるのはあまり良くないよな」
「合流できないかもしれないですからね。一緒に行動するのがいいと思います」
サファエルの言葉によって、レックスは深く頷いた。
「それじゃあ、行きたい方向をそれぞれ指差そう」
レックスの声を合図にすると、全員が右の道を指した。
まさか全員が同じ方向を指し示すとは思わず、レックスたちは顔を見合わせて笑う。
「みんな、気が合うね!」
「薄々気がついていたが、ここまで合うとは思わなかったのう」
「あは、嬉しいくせにぃ」
セレナがポーラを肘でぐりぐりと押す。二人のじゃれあいを見ながら、レックスも微笑ましい気持ちになる。
レックスたちは右の道へと方向を変えて歩き出した。さらに奥深くへ進もうとした、そのとき。
「っ、危ない!」
レックスは叫び、マリカを抱えるように押す。
レックスがマリカを抱えたと同時に、ガラガラと音を立てて天井が崩落した。
「マリカ、大丈夫か?」
崩落した天井の真下にマリカがいたため、レックスはすんでのところでマリカを救った。
「怪我はないわ、ありがとう。でも……」
マリカが振り返ると、崩落して塞がれた道。そしてレックスとマリカしかこの場にいない。つまり、セレナたちは崩落した道の向こう側にいることになる。
「セレナ、ポーラ、サファエル! 無事か!?」
「大丈夫ー! レックスたちは大丈夫ー?」
声は遠いが、セレナの明るい声が聞こえてきたことでレックスは安堵する。
しかし、このままでは合流できない。しかも崩落した大岩は簡単には動かなさそうだった。
「それぞれ道を探して、そこでまた合流しよう」
思いついた案をレックスが伝えると、セレナから「分かったー!」と返事が来た。
「ということで、俺たちも合流できる道を探そう」
「そうね。探索はそれからでも遅くはないわよね」
頷き合い、レックスとマリカは道なりに歩き始めた。
しばらく歩いていると道が段々と開けていった。やがて祭壇のような場所に繋がり、レックスとマリカは足を止める。
「これは……」
レックスたちの目の前には心臓のような形をした歯車の塊が浮いていた。歯車はゆっくりと動いていて、まるで命が灯されているかのようだった。
「なんだ、これ……」
レックスは理解が追いつかないまま、覚束ない足取りで歯車に近づく。
「きゃっ」
後ろから声がしてレックスは我に返る。振り向くと、マリカが後方に視線を落としていた。
「ごめんなさい、床が突然抜けたの」
マリカの数歩後ろを見ると、マリカの言う通り地面が抜け落ち、ぽっかりと穴が空いていた。
おそるおそる穴を覗いてみると、落ちたらどこに続いているのか分からないほど暗く深い穴だった。
「マリカが無事で良かったよ。ごめんな、気づかなくて」
「いいえ、大丈夫よ。私もちょうど良かったわ」
ちょうど良いとはなんだろうか。レックスが尋ねようとしたそのとき。
突然、レックスの腹部を熱と痛みが襲った。
「……え?」
マリカが腰に据えていた護身用の剣を、レックスの腹部に突き立てていた。
じわじわと訪れる痛み。レックスは痛みに悶えるより、脳の理解が追いついていなかった。なぜ。なんでマリカに刺されている?
「二人きりになれて都合が良かったわ。じゃないとどうにもできなかった」
マリカはぐり、と剣をさらに深く突き立てる。レックスの口から血がこぽりと溢れ、服を伝って地面に落ちていく。
痛い。どうして。言葉にしたいのに、口から出てくるのは掠れた息だけ。
「マリ、カ……」
辛うじて伸ばした手は、マリカに軽くあしらわれてしまう。マリカがレックスを見つめる視線は、いつになく冷たい瞳。
「あなたには死んでもらわないといけないの」
剣が抜かれ、支えをなくしたレックスはその場に崩れ落ちる。
朧げな瞳でマリカを見上げると、マリカはくしゃりと歪んだ表情でレックスを見下ろしていた。
「……さようなら」
マリカはレックスを突き飛ばす。抵抗する力がなかったレックスは、なにもできずに穴に落ちていった。




