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第66話 「これで森も守られたね」

「久しぶりという感覚はあまりしないのう」


 ポーラは目の前に広がる森を見上げる。

 レックスたちは迷うことなくルチル地方に辿(たど)り着き、広大(こうだい)な森の前に到着した。

 森全体にヒスイの結界魔法は張られているが、集落に繋がる場所からはそれなりに離れている。そのためヒスイたちと会うことは叶わないかもしれない。

 少しの物悲しさを覚えながら、レックスたちは森の中に足を踏み入れた。


「僕は初めて来たので新鮮な気持ちです」

「そういえばそうだったな。残骸(ざんがい)を全部破壊したらヒスイさんたちのことも紹介するよ」

(うれ)しい提案ですね。そのためには早く破壊しなければなりませんね」


 レックスたちは会話をしながら同時に歩みも進めていく。


「落ちてるってことはなさそうだし、もしかして地面に埋まってるとか?」


 セレナが立ち止まり、しゃがんで軽く土をかく。


「下手に掘り起こすと森をいじることになるよな」

「ヒスイさんが管理しているし、なにも言わずに進めるのは避けたいわね」


 しかし、この広大な森の中で地上になければ、地面を掘り起こすのはどうしても候補に入ってしまう。

 どうするべきかと、レックスたちは頭を悩ませる。


「レックスくん?」


 すると、どこからかレックスを呼ぶ声がした。声のした方を向くと、そこにはヒスイが立っていた。


「ヒスイさん!」

「こんなところでどうしたんだい?」


 ヒスイは不思議そうにレックスたちを見つめる。まさかレックスたちがいると思わなかったのだから、そんな反応になるのも納得だった。


「ヒスイさんは今日も森の整備ですか?」

「そうだよ。今日はこの(あた)りを整備しようと思っていたからね」


 偶然が重なったことで思わぬ再会できたが、今は手放しに喜べる状態ではなかった。

 レックスはマリカたちを呼び、ヒスイから離れて顔を突き合わせる。


「みんな、ヒスイさんに古代兵器の話をしてもいいと思うか?」

「私は賛成よ。地中(ちちゅう)()まっている可能性があるなら、掘り起こさなければならないもの」


 レックスの問いかけにマリカがすぐに答えた。やはりそうかとレックスは(うな)る。


「話した方が話は早いけど、混乱させちゃうかもしれないよね」


 セレナが(けわ)しい顔で(つぶや)く。

 それも間違いない。世界を震撼(しんかん)させた古代兵器の話なんて、もし自分が話されたとしたら混乱しかしない。

 なにが最適解かと、レックスたちは答えが見つからなかった。


「こんな早く訪ねてくるってことはなにかあったんだね」


 悩んでいるところに、ヒスイが笑顔で輪の中に入ってきた。ヒスイは非常ににこやかな笑顔でレックスたちに微笑みかける。レックスたちは引きつった笑顔でヒスイの微笑(ほほえ)みに(こた)えた。

 偶然でも会ってしまった以上――しかも森に関わることだから、ヒスイに黙っておくことはできない。レックスたちは無言で(うなず)き合い、ヒスイの方を向く。


「俺たちは、ある目的でここに来ました」


 レックスの表情からすぐに(さと)ったのか、ヒスイの表情が引き締まる。


「一度世界を(おびや)かした古代兵器の残骸が、この森にあるかもしれないんです」


 レックスの言葉にヒスイは静かに瞠目(どうもく)する。驚くヒスイに向けてレックスは続ける。


「俺たちは残骸を破壊するためにここに来ました。ですが、残骸を探して破壊するとなると、地面を掘り起こしたりする可能性もあります。だから、ヒスイさんの許可を得るというか……それは大丈夫なのか聞きたいです」


 レックスの声が段々と小さくなっていく。

 当人(とうにん)に話をするというのはこんなにも緊張するのか。大事に管理している森を変えると宣言しているから、レックスの手が汗ばむのも仕方ないことだった。

 ヒスイは黙って話を聞いていたが、息を吐いてレックスたちを見据(みす)える。


「僕たちが管理してきた森の一部が書き換えられるかもしれないとなると、簡単には頷けない」

「そう、ですよね――」

「でも、世界を守るとなると別だ」


 ヒスイは()()ぐな(ひとみ)でレックスたちを見つめる。


「世界を救えるのなら、少しくらい森が変わったって構わない。僕はそう思っているよ」

「ヒスイさん……」


 呟くレックスに向けてヒスイは優しく微笑む。

 森を管理しているヒスイが言うのは言葉の重みが違う。レックスはヒスイの言う言葉を真摯(しんし)に受け止めた。


「僕は古代兵器の在処(ありか)は分からないからね。存分に探すといいよ」

「ありがとうございます……!」


 ヒスイに深く頭を下げ、レックスたちは歩き出した。

 ヒスイの許可を得たなら、気兼ねなく探すことができる。しかし、できるだけこの森を(たも)ったまま残骸を素早く破壊しよう。

 レックスとマリカ、ポーラを頼りに魔力を確認しながら森の奥深くへと進んでいく。しばらく歩いていると、まるで樹海のような神秘的な場所にやってきた。


「こんな場所があったんだな」

「この森は広いからのう。様々な環境があってもおかしくないじゃろう」


 ポーラの解説にレックスは納得する。

 この森はきっと、太陽が昇って沈んでも、端から端まで歩くのは厳しいほど広いのだろう。だからこそ様々な植物が生えた環境ができあがるのかもしれない。


「残骸の感覚を頼りにするならこの辺りね」


 マリカが言うと、セレナは周りをキョロキョロと見回す。


「見当たらないし、やっぱり地面の中に埋もれてそうだね」

「そうみたいじゃな。まずは近くの植物を守るとするかの」


 ポーラが防護魔法を展開すると、周囲の植物たちが淡い光に包まれた。「これで大丈夫じゃろう」とポーラはレックスたちに微笑む。


「レックスにポーラ、セレナと来たので、今回は僕に任せてください」

「分かったわ。早速残骸を探しましょう」


 レックスたちは魔法を行使(こうし)して土を掘り起こしていく。ポーラの魔法で守られているおかげで、近くの植物たちは無闇に掘り起こされずにそのままの形を保っていた。

 しばらく掘り起こしていると、本来ならそこにあるはずがないものの一部が見えた。それは歯車の形をしていて――つまり、古代兵器の残骸だった。

 残骸を見つけたレックスたちは息を()む。ここにあると分かっていたが、いざ目にするとその異質さと異様さが浮き彫りになった。


「では、始めますね。……と、その前に。レックス、残骸に触れてもらえますか」

「あぁ、分かった」


 息を吐き、レックスは手を伸ばして残骸に触れる。魔力は段々と落ち着いていき、レックスはサファエルに目で合図する。


「天使族は光属性の魔法しか使えませんが、こういった武器は作ることはできます」


 サファエルが手を宙に(かざ)すと、手元に(まばゆ)い光を(まと)った光の(やり)が現れた。

 そういえば、天界の衛兵も似たようなものを持っていた気がするとレックスは思い出す。あれは天使族だけが使える魔法だったのか。

 サファエルは光の槍をしっかりと握り、残骸に向かって勢いよく振り下ろした。槍は残骸の中心に突き刺さり、ひびが入る。やがてひびが広がり、残骸はバラバラに砕け散った。

 砕け散った残骸を見下ろし、サファエルは安堵したように息を吐いた。


「サファエル、よくやったよ」

「ありがとうございます。レックスの浄化魔法のおかげでもありますよ」


 レックスとサファエルは笑顔で手を合わせる。


「そうしたら、掘り返した部分は元に戻してヒスイさんに報告しましょう」

「そうだな」


 掘り起こした土を元に戻し、防護魔法を解除してヒスイを探しに行く。


「ヒスイさん!」


 広大な森だったが、想定より早くヒスイは見つかった。森の整備をしていたようで、レックスの呼びかけに笑顔で応えた。

 すぐに出会えたのは、もしかしたらレックスたちを心配して近くにいたのかもしれない。


「ヒスイさん、無事に残骸は破壊できました」


 レックスの報告に、ヒスイは安心したように息を吐いた。


「それは良かったよ。これで森も守られたね」

「ヒスイさんが許可を出してくれたおかげです」

「こちらこそ。まだ古代兵器の残骸は残っているのかい?」


 ヒスイの問いかけに、レックスたちの視線がマリカに向く。マリカは重々(おもおも)しい表情で首を縦に振る。


「はい。まだこの世界に残っています」


 マリカの返答にヒスイは目を伏せる。


「……そうか。でも、僕にできることはきっとない。あとはレックスくんたちに(たく)したよ」


 レックスたちは表情を引き締めて頷いた。託されたのならやるしかないと。

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