第65話 「やはり、レックスには浄化魔法の才能があるようじゃの」
Side.復興大臣時代
アズライトを出発したレックスたちは迷うことなく歩き続け、スピネルへと到着した。スピネルに戻ってきたが、今回はシエロやヘレに挨拶をするためではない。古代兵器の残骸を破壊しに来たのだ。
「間違いないわ。この近くに古代兵器の残骸があるわ」
マリカの言葉にレックスたちの間に緊張が走る。
以前はなにも気にしていなかったが、まさかこんなところに古代兵器の残骸が眠っているとは思わなかった。
これまで来たときに気がつくことができれば良かったのに、とレックスは悔しさが込み上げてきた。しかし今さら悔やんでも仕方ない。すぐに破壊してスピネルに平和をもたらそう。
「こうして見ると、スピネルの周りには神殿が多いよね」
「スピネルには敬虔な信徒が多いですからね。信じる者の数だけ神殿があると思えばいいでしょうか」
サファエルの説明にセレナが感心する。
それだけならスピネルの人々を讃える平和な会話だが、レックスの心の中ではざわざわとした感覚が強くなっていた。ざらついた、胸に残る嫌悪感。
「こんなに神殿があると分からないかもしれん……と言いたいが、すぐに分かるのう」
ポーラが神妙な面持ちで呟く。
大小様々な神殿が並ぶ中で、一際大きな神殿が目につく。その神殿からは邪悪な魔力が溢れ出しているのかと思うほど、どす黒い気配がした。
「……あそこだな」
レックスたちはしっかりと地面を踏みしめながら神殿へと近づく。
「レックスとポーラは近づいたら魔力感知で分かる感じ?」
「そうだな。マリカみたいに遠くからは分からないけど、近くなれば魔力でなんとなく分かるな」
レックスの発言にポーラも頷く。
「私が古代兵器の残骸限定で魔力感知ができるようになったと言えばいいのかしら」
「確かに、そっちの方が分かりやすいね」
「二人は元から魔力感知ができるのだし、私が成長したのかもしれないわね」
マリカはくすりと笑う。
そんな成長の仕方は嫌だと思いながらも、マリカなりに場を和ませようとしてくれたのだとレックスたちには伝わった。
そして、神殿の入り口に辿り着いた。
「……行くか」
逃げ出せるなら逃げ出したいほど嫌な気配を受け止め、神殿へと足を踏み入れた。
神殿の中は薄暗く、火属性の魔法を松明代わりにして中を進んでいく。以前探索した一本道の神殿とは異なり、多少道が入り組んでいた。
「探索してる感じするけど、今じゃないんだよなぁ」
セレナが唇を尖らせながら呟く。やはりセレナは地上を冒険したいらしい。
「全てを壊したら思う存分探索できるぞ。わしもついていくぞ」
「やったぁ。ポーラがいてくれるなら安心だね」
ポーラの言葉で満足したのか、セレナは意気揚々と歩き出した。元気に歩くセレナを微笑ましく見守りながら、サファエルはマリカに視線を向ける。
「マリカ、方向は分かりそうですか?」
「えぇ。まるで道標のように示してくれているわ」
マリカは歩みを止めずに神殿内を進んでいく。
レックスとポーラもおおよそ魔力は辿れるが、ここはマリカに頼った方がいいだろうと判断し、マリカについていった。
狭い道を下り、階段を登り降りし、レックスたちは薄暗い神殿を歩き続ける。
しばらく歩いていると、神殿の最奥らしい部屋に辿り着いた。部屋の奥の祭壇には、小さな歯車がぽつんと祀られていた。
「あの小さなものが古代兵器の残骸ですか……?」
サファエルの呟きにレックスは頷く。
残骸を目にしたのはレックスとポーラだけだったため、マリカたちは信じられない様子で祀られている残骸を見つめていた。
「ここにあるってことは、スピネルの人も古代兵器を崇めてたのかな?」
「いえ、これが古代兵器の残骸なんて知らないはずよ。偶然ここに現れた、なにかしらの遺物だと思っていたんじゃないかしら。私はそうだと信じているわ」
マリカの言う通りだとレックスは思った。ユークレースのような人間至上主義者ならまだしも、中立的なスピネルの人々が古代兵器を崇め奉るとは到底思えなかったから。
「とにかく、早く壊そう。スピネルの人たちが危険な目に遭う前に」
「そうですね。レックスとポーラはアズライトのときは、どうやって残骸を破壊したのですか?」
サファエルに尋ねられ、レックスとポーラは顔を見合わせる。
「あのときは魔法で壊したのう」
「なるほど、魔法で壊れるのですね。それなら協力すればなんとかなりそうですね」
「じゃが、そのまま魔法を使うのでは壊れんかった」
ポーラの言葉にマリカたちは首を傾げる。魔法を使えないなら、どうやって魔法を使ったのか。
マリカたちの疑問が伝わっていたようで、ポーラは古代兵器の残骸に視線を移す。
「駄目かと思っていたら、レックスが触れたことで古代兵器の魔力が収まったのじゃ」
「……はぁ」
ポーラの言うことが飲み込めず、サファエルは首を傾げる。
「俺たちもよく分かってないんだよ。俺が触っただけで魔力が収まるなんて変な話だろ」
「浄化魔法の類を無意識に覚えたとか?」
「そういう魔法は無意識で使えるようになるとは思わないけどな……」
レックスは自分の手のひらを見つめる。
魔力感知や属性魔法もポーラの下で訓練を重ねてようやく形になってきているのに、そんな簡単に上級魔法が使えるようになるとは到底思えない。
マリカが「それなら」と手を挙げる。
「もう一度触れてみたら分かるんじゃないかしら。それで魔力が収まれば、レックスには浄化魔法の才能があるということになるわ」
「それいいね! やってみようよ!」
マリカたちに強く勧められ、レックスは仕方なく古代兵器の残骸に歩みを進める。
嫌な魔力がひしひしと伝わる。やはり叶うことなら近づきたくない。
「危なくなったらわしらが守るぞ。安心せい」
ポーラの言葉が最後のひと押しとなり、レックスはようやく残骸の前に立つ。ゆっくりと手を伸ばし、残骸にそっと触れた。
次の瞬間、レックスは自身の手に魔力が吸い込まれていく感覚がした。まるで邪悪なものを祓うかのように、魔力が吸い込まれて霧散していく。魔力を吸い込まれた残骸は変わらず、静かにぽつんと置かれていた。
「……本当ね。嫌な気配が落ち着いたわ」
マリカが残骸を見つめながら呆然と呟いた。見守っていたセレナとサファエルは驚いて声が出なかった。
「やはり、レックスには浄化魔法の才能があるようじゃの」
「そう、なのか」
弾んだ声のポーラに言われるが、レックスはどうにも実感が湧かなかった。特にそういった魔法を訓練した覚えがなかったから。それでも、魔力が弱まってくれたのならやることは一つだ。
レックスは残骸をじっと観察しているセレナに目がいく。
「セレナ、水圧で壊すことってできるか?」
「水圧で? 硬そうだし壊れないんじゃないかな」
「大丈夫だ。アズライトのときも残骸は脆くなってた。セレナならできるはずだ」
「そうだったんだ。じゃあやってみるね!」
セレナは手を重ね、残骸に手のひらを向ける。
目を閉じてふぅと息を吐き、意識を集中させているのがレックスたちにも伝わった。レックスたちは息を呑んでセレナを見守った。
「はぁっ!」
空気が張り詰めた瞬間、セレナは勢いよく水を噴射させる。一点に集中した水流は残骸に打ちつけられ、残骸を中心から真っ二つに砕いた。
砕けた残骸はさらさらと崩れていき、最終的に砂となって散っていった。
「壊せちゃった……」
セレナはまさか壊せると思っていなかったのか、驚いた様子で砂の山となった残骸を見つめた。
「セレナ、よくやったよ!」
レックスは駆け寄り、セレナの頭を力強く撫で回す。マリカたちもセレナを囲んでセレナを讃えた。
「……へへ、海の精霊にかかれば古代兵器を壊すなんて簡単だよ」
褒められたセレナは当然と言った風に――だが、どこか恥ずかしそうに笑った。
「これでもう二つも古代兵器の残骸を破壊できましたね」
「順調ね。この調子で頑張りましょう」
レックスたちはスピネルの神殿群を発ち、次はルチル地方へと向かった。
本来ならこれまで出会った人々とゆっくり語り合いたい。だが、いつ古代兵器が復活してもおかしくない。できうる限り早く破壊し、それから語り合ってもいいのでは。
レックスたちは心に決め、次の目的地であるルチル地方へと向かった。




