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第64話 「この調子でどんどんいこー!」

 地上に出ると、外は嵐が吹き荒れていた。暗雲(あんうん)と叩きつけるような雨。突風も吹いていて、手で凌いでもなんとかなる強さではなかった。


「レックス!」


 聖堂の前にはマリカとユークレースがいて、レックスの姿を確認するなりマリカが駆け寄ってきた。


「……やったのね?」


 マリカは二人にしか聞こえない小さな声で(たず)ねる。マリカに(こた)えるように、レックスは笑って(うなず)いた。

 レックスの言葉を聞いて、マリカは安心したようにほっと息を吐いた。

 ここからは自分の出番だ。レックスは表情を引き締め、マリカからユークレースに視線を移す。


「ユークレース様」


 レックスに呼ばれたことで、聖堂の陰に避難していたユークレースが反応する。

 古代兵器の残骸(ざんがい)の破壊をどう伝えるべきか、レックスは必死に考える。ユークレースの視線もレックスに向いている。悩む時間はない。早く考えてマリカのように演技をしなければ。


「えっと、霊を(しず)めたことで暴走は食い止められ、アズライトは守られました。ですが、霊がいなくなると古代兵器の残骸も連動するように破壊されてしまい……」


 そこまで言ってレックスは言葉を詰まらせる。それっぽい演技をしたのもあるが、これ以上いい言葉が思い浮かばなかったというのもある。

 不安になりながらユークレースの言葉を待った。不安から急に心臓が高鳴り、手が汗ばんでくる。マリカのような演技力がないせいで、ユークレースは納得しない可能性もある。


「……そうか」


 構えるレックスに届いたユークレースの第一声は、レックスの予想に反して非常に落ち着いていた。

 てっきり信仰対象である古代兵器の残骸がなくなったことで、怒り狂ってもおかしくないと思っていたが。


「ユークレース様、よろしいのですか?」

「あぁ。信仰するべきものがなくなったのは悲しむべきだが、街の人々が無事なら良いのだ」


 今のユークレースは落胆しているというのが近いのかもしれない。

 ユークレースはアズライトの人々を思っているのだと知り、レックスはほんの少しだけユークレースを見直した。冷酷な見た目のせいで、人の心があると思っていなかったから。


「それじゃあ、セレナとサファエルに作戦を終わらせていいと伝えましょうか」

「そうだな」


 レックスは頷いて、空を飛んでいるサファエルを探す。

 サファエルの足元には人だかりができていたために、サファエルはすぐに見つかった。


「天使が俺たちを守ってくれている……!」

「天使って本当にいたんだ!」


 サファエルは防護魔法で嵐から人々を守っていた。この嵐を前にしては魔法を使っていることなど関係ないのだろう。誰もがサファエルを尊敬の眼差(まなざ)しで見つめていた。


(サファエルはあとにするかな……)


 レックスは苦笑しながら、雨の中街を走ってセレナを探す。

 セレナは人気のない街の(はし)にいた。セレナは空に手を(かざ)していて、まるで雨乞(あまご)いをしているようだった。


「あ、レックス! 無事に終わった?」


 真剣な表情で祈っていたセレナはレックスの姿を確認すると、いつもの花が咲いたような笑顔でレックスを迎えた。


「残骸は破壊できたよ。だから嵐も終わらせていいぞ」

「分かった!」


 セレナが翳す手を弱めると、比例して嵐も弱まっていく。


「嵐を作れるなんて、流石セレナだな」

「へへ、このくらい簡単だよ」


 嵐はセレナの水属性の魔法を駆使して作ったものだった。水を自在に操れる海の精霊だからこそできる芸当だ。


「全部上手くいったみたいだね」

「あぁ。みんなのおかげだよ。街の人も古代兵器のせいで天気が荒れたと思ってくれたみたいだし」


 少しくらいは手こずると思っていたため、作戦がここまで上手くいくのはある意味予想外だった。


(古代兵器も意外と簡単に壊れたし、滑り出しとしては順調だよな)


 マリカたちと合流したレックスは、すぐにアズライトの街を出た。これ以上長居をして作戦が知られてしまうわけにはいかない。


「上手くいったが、緊張したのう」


 アズライトを出ると、ポーラが軽く伸びをしながら言った。ポーラはほとんど姿を消して行動していたから、誰よりも緊張していたのかもしれない。


「ポーラも緊張することあるんだ。ネフラで姿を隠して生活してたのに」

「それとこれとは話が別じゃ。ネフラでは姿を知られても構わんが、ここで知られてしまったら作戦が水の泡じゃろう」

「確かにそれはそう。お互い頑張ったね」


 セレナはポーラを子供のように()でた。ポーラは「子供扱いするでない」と息を吐いてセレナの手を払う。


「セレナも頑張りましたからね。街を覆い尽くす雨雲を作り出すなんて、精霊にしかできませんよ」

「ふふん、海の精霊にかかれば街一つくらいなんてことないよ!」


 セレナは指先をくるりと回しながら不敵に笑う。セレナの得意分野を存分に活かした作戦になったと、レックスは作戦を思い返していた。


「僕はセレナの作った嵐を守っていましたから、なんだか不思議な気分です」

「サファエルも、天使族が防護魔法を使うのが得意とはいえすごいよね。おかげでアズライトの人から英雄扱いされてたし」

「嵐から守っただけなので、少し気恥ずかしいですけどね」


 サファエルは顔を赤くしながら頭をかく。サファエルの反応が面白かったのか、セレナはサファエルを(ひじ)小突(こづ)く。


「これも全部、レックスが作戦を考えたおかげよね」

「その通りじゃな。わしらには思いつかない思い切った作戦じゃ」


 マリカとポーラがレックスを褒めるから、次はレックスが恥ずかしそうに頰をかいた。


「始まりは順調! この調子でどんどんいこー!」


 レックスたちはアズライトを出発し、次の行き先であるスピネルの神殿群へと向かった。

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