第58話 「決まり次第作戦を開始するぞ」
スピネルからクォーツまでは遠い道のりだったものの、クォーツからアズライトまではそれなりに早く辿り着いた。道中早足だったのも、レックスたちが少しでも早く古代兵器の残骸を破壊したいという強い意思からかもしれない。
「着いたわね」
レックスたちの視線の先には、巨大な扉と石造りの塀。神聖なスピネルとは違い、レックスたちの前に敵として立ちはだかるような感覚がした。
入り口には衛兵が立っていて、レックスたちを遠くから見張っていた。
思わず身構えるレックスたちだったが、そんな中でマリカが笑顔でレックスの手を引く。
「セレナたちはそこで待っていて。レックス、行くわよ」
「あ、あぁ」
マリカにはきっとなにかしらの策があるのだろう。レックスは手を引かれて大人しくマリカについていった。
「ご機嫌よう」
衛兵の元に辿り着いたマリカは、衛兵に向けて頭を下げる。
「スフェーンの第一王女、マリカ・ユーディアです。こちらはスフェーンの復興大臣のレックス。本日はアズライトの領主であるユークレース・クリオテ殿にお会いしたく参上しました」
マリカの優雅な所作につられ、レックスも頭を下げる。特に作戦などは聞かされていないため、その場でマリカに合わせることになるのだろう。
衛兵たちはマリカの挨拶で肩書きを理解したようで、すぐに居住まいを正す。
「マリカ王女殿下でしたか。もちろん歓迎いたします。……あちらの方々は?」
衛兵の一人が、遠くで見守っているセレナたちを見やる。不審げな表情の衛兵に、マリカはニコリと微笑みかける。
「私たちの付き人と、天使族の彼は天界の外交官です。種族は異なりますが、敵意は一切ありません」
マリカの説明に衛兵たちは顔を見合わせる。
その間にレックスはなにも喋らず、静かにことの成り行きを見守った。
(やっぱりマリカって頭の回転早いよな……)
スピネルのときも、マリカの機転によって天界に向かうことができた。やはり王女だから知識があって、それを活かすときが多いのかもしれない。
なんてことを考えながら、レックスは手を強く握った。頼む、許可してくれと。
「……承知いたしました。中へお入りください」
衛兵の言葉にレックスとマリカは安堵する。
どうやら衛兵の観点からは問題ないようだ。マリカは衛兵たちに「ありがとうございます」といつになく輝いた笑顔を向けて、セレナたちに目配せする。
「お邪魔しまーす」
「失礼します」
許可されたのだから堂々と入ろうというのが、セレナたちの挨拶から伝わった。鋭い視線の衛兵をものともせず、扉をくぐってアズライトの中に入る。
アズライトの人々は特にレックスたちに冷たい視線を向けることもなく、アズライトに訪れた人々としてレックスたちを迎えていた。
「第一関門は乗り越えたのう。マリカに感謝じゃな」
「このくらいなんてことないわ。次はユークレースに会うことね」
レックスたちは普通の空気感を装いながら小声で会話をする。こそこそとしていたら怪しまれるため、自然な流れで会話を続けるしかなかった。
「仮にユークレースって人に会ったとしてさ、どうやって古代兵器を壊す? 派手にやったら絶対面倒なことになるよね」
「しかも簡単には壊せないでしょうからね。やはり魔法は不可欠だと思います」
セレナとサファエルが難しい顔をして呟く。
なるべく迅速に古代兵器を破壊したい。しかし、破壊という行動をする以上、目立つのは避けて通れない。どうすれば穏便にことを済ませられるか。
「私がいれば古代兵器のある場所へは行けるはずだから、そのあとの流れよね」
「強奪するのも一つの案じゃが、それだとマリカやレックスの復興大臣としての今後の信用に関わるからのう。隠れて持ち去るか、その場で破壊する流れを作るべきじゃな」
マリカとポーラも頭を悩ませる。頭が回るマリカやポーラでも簡単に作戦は思いつかないらしい。
(持ち出しても目立つだろうし、やっぱりその場で破壊する方がいいよな。ただ、魔法を使ってるところを見られたら面倒だ。でも、魔法を使わなければ恐らく破壊はできない……)
レックスも頭の中で必死に作戦を考える。誰からもいい案が出てこないまま、レックスたちは街中をぐるぐると歩いていた。
(全員で破壊しようとしなければいいのか? 誰かに見張っててもらって、その間に破壊するとか――)
♪〜
そのとき、街の一角から音楽が聴こえた。レックスたちは足を止めて音の流れる場所を辿る。そこでは一人の男性が楽器を持って演奏をしていた。
既に大勢の聴衆がいて、男性の演奏に聴き惚れていた。
「素敵。いい音色だね」
「音楽は人の心を穏やかにしますからね」
頭を悩ませていたレックスたちは、男性の穏やかで心地よい演奏に聴き入っていた。
「やはりこういった催しは目を引くのう」
「そうね。みんなが注目するもの」
演奏を聴いていたレックスは男性を無言で見つめる。楽しそうに演奏する様子を見て、レックスの口角が上がる。
そうだ。これならいけるのでは。
「あのさ、みんな」
レックスが呼びかけると、マリカたちは演奏を聴くのをやめてレックスの方を見る。
「どうしたの? 随分と嬉しそうね」
「あぁ。作戦を思いついたんだ」
レックスはマリカたちを集めてそっと耳打ちする。
レックスの作戦を聞いたマリカたちは目を丸くする。驚愕したままレックスから離れ、マリカが息を吐いた。
「レックス、よく思いついたわね」
「それ、とってもいいと思う!」
セレナたちもすぐに同意した。まるでレックスの案が名案だと言うように。
「それなら成功しそうじゃな。早速作戦を固めよう」
「あぁ。それから役割を決めよう。決まり次第作戦を開始するぞ」
レックスの言葉にマリカたちは深く頷いた。
聴衆から離れて街の隅で作戦を練り、レックスは行動を開始した。




