第56話 「……古代兵器の鍵とか?」
見ると、玉座の下の床が少し歪んでいた。ただの凹みかと思ったが、少し違う気がする。
「どうしたの、レックス」
「あぁ、ここの床、ちょっと歪んでる気がして……」
レックスに言われ、マリカたちも玉座の裏に回って床を覗き込む。
「言われてみればそうだけど、争いの拍子で歪んだだけじゃないかしら」
「もしかして、隠し部屋とかじゃない!? 見てみようよ!」
わくわくした様子で、セレナはレックスとサファエルを見る。
「……動かせってことか?」
「うん!」
当然のように言っているが、期待のこもった眼差しのセレナに言われては仕方ない。レックスとサファエルは顔を見合わせて苦笑し、持ち上げて玉座を動かす。
玉座を避けたところで、「わしが壊してやろう」とポーラが風属性の魔法を使って床を破壊する。
次の瞬間、蓋を開けたように勢いよく魔力が溢れ出した。レックスとポーラは目を見開いて思わず後ずさる。
「なんだ、この魔力……」
ただの魔族が持つ魔力ではない。禍々しい、邪悪を詰め込んだような魔力だった。
「嫌な空気だね。魔力感知はできないけど、あたしにも嫌な感じは伝わってくるよ」
レックスの横で、セレナが神妙な面持ちで呟く。精霊だから多少なりとも感知はできるらしい。
「例えるなら、あのとき戦った古代兵器と同じ魔力の感覚じゃな」
ポーラの言葉にマリカたちは目を瞠る。かつて世界を襲った災厄と同じ魔力を感じるなんて、マリカたちは俄かには信じ難い話だった。
レックスはポーラに言われて思い出した。古代兵器も禍々しく嫌な魔力を持っていたことを。
「この下になにかあるんでしょうか」
サファエルが覗き込む先には階段があり、地下に続く道ができていた。しかし先は見えず、深淵が広がっているように見えた。
踏み出すのを躊躇するような景色だが、溢れ出した魔力の原因も気になる。
「気をつけて行ってみよう」
意見が一致し、レックスたちは階段を降りていくことにした。
「まさか、王宮にこんな場所があるなんて思わなかったわ」
マリカは信じられないといった様子で呟く。
階段は暗かったが、火を灯す台がそこかしこに置かれていたため、レックスたちは火属性で火を灯しながら階段を降りていく。
「一体なんの部屋でしょうね」
「隠し部屋っぽいし、やっぱりお宝かなぁ」
どこか弾んだ調子のセレナ。
もしかしたらお宝が置かれている可能性もある。王宮内を回っても宝石やそれに値する物はほとんど置かれていなかったから、それを隠すための場所かもしれない。王宮内にある目で見て分かる高級な品は、根こそぎ人間に奪われてしまったようだから。
「もしくは祭祀のためじゃないかしら。こういう隠れたところで祈りを捧げそうよね」
マリカが顎に手を置きながら思案する。
確かにマリカの考えも有り得るが、レックスは玉座の下というのがどうしても引っかかっていた。祭祀が目的ならもう少し目立つ場所にあったり、専用の部屋が用意されていたりするはずだ。
(なにがあるんだろう……)
レックスも一人考えながら、階段を降りていった。
階段を降りるにつれて、魔力もどんどん濃くなっていく。体調が悪くなるほどではないが、気分は決していいものではなかった。
ようやく階段を降り切ると、中はなにも見えないほど暗かった。
松明代わりに火属性の魔法で火を灯すと、そこにあったのは巨大な歯車の塊だった。見上げても全てを見渡すことはできず、レックスたちの視界に映るのはほんの一部分だった。
「これって……」
レックスは唖然として、巨大な歯車を見つめていた。
「魔力の源はこれじゃな」
「この歯車から、そんなに嫌な魔力を感じるのですか?」
サファエルの疑問にポーラが頷く。
「魔力の流れが同じってことは、古代兵器と関わってるのかな?」
「どうじゃろうか。ただ魔力の流れが同じと言う可能性もある。同じというのはあまりいい予感はしないがのう」
ポーラは腕を組んで眉を顰める。
「……古代兵器の鍵とか?」
ふと、口をついて出た言葉。マリカたちの視線が集中する中、レックスは歯車を見上げながら呟く。
「鍵? これが?」
「俺も推測なんだけどさ、魔力の流れが同じってことは古代兵器と繋がってる可能性が高いだろ。だから、鍵がこれだとしてもおかしくないと思うんだ」
そこまで口にしてレックスは気がつく。
「そうか……あのときはマリカが古代兵器を動かしていたけど、本来は別の方法で動かすのかも」
「なるほど、仮にこれが古代兵器の鍵だとしたなら、人間がクォーツに攻めてきた理由も納得がいくのう」
そう考えると全てが繋がる気がする。人間が血眼になって探し回っていたものが、こんなところにあるなんて思わなかった。
テヴァスは昔から管理してきたといっていた。つまり、王族が代々この鍵を管理していたのだ。そして、これを守ったせいで両親が殺されてしまった。
(そこまでして管理する必要があるのかよ……)
レックスは唇を噛み、耐えきれずに歯車に手をつく。
そのとき、レックスが手をついたところから歯車が妖しく光る。
「……っ」
歯車の光に呼応するように、マリカが胸を押さえて蹲った。
「マリカ、大丈夫か?」
「……大丈夫。胸の奥がざわざわする感覚がしただけ」
マリカの背中をさするレックスの横で、セレナたちは歯車を観察していた。
「今、これが光ったね」
「レックスが触れたせいかのう」
ポーラの何気ない一言にレックスは急激に青ざめる。
「俺が、なにかやらかしたか?」
レックスは冷や汗をかきながらマリカたちを一瞥する。マリカたちは顔を見合わせ、無言の時間が訪れる。
そんな中で「恐らくですが」とサファエルが手を挙げる。
「レックスのお父上である王が、この地に封印魔法を施していましたよね。ですから、血縁であるレックスが触れたことで封印が解けかけた……と考えてみました」
「やっぱり俺がやらかしてるじゃないか!」
マリカから離れ、レックスは頭を抱えてしゃがみ込む。
自分の些細な行動が、大きな被害を生みそうになるなんて。
「でも、古代兵器はあのとき破壊したよね。鍵だけなら問題ないんじゃないかな?」
「良くないじゃろう。古代兵器じゃぞ。鍵だけでもなにが起こるか分からんというのに」
「んー、まぁ本体はないしいいんじゃないかな――」
言いかけたセレナだが、マリカが「いいえ」と遮ったことで口を閉じる。
「恐らく、まだ古代兵器は破壊できていないわ」
マリカの発言にレックスたちは目を見開く。
「どうしてそう思うのですか?」
「私、古代兵器の残骸の在処が分かる気がするの」
サファエルの問いかけに、マリカは歯車を見つめながら答える。マリカの瞳は揺るぎのないものだった。
「あのとき古代兵器と一体化したときの名残が、きっと体の中に残っているんだわ」
「共鳴か。だから古代兵器の場所が分かるということじゃな」
「原理はそういうことだと思うわ」
マリカは立ち上がり、レックスたちを一瞥する。
「私たちで、古代兵器の残骸を一つ残らず破壊しましょう」
マリカはレックスたちに向けて力強く微笑む。
文字通り、マリカが古代兵器を破壊するための鍵になるのだ。マリカには既に覚悟が表れていた。
「私たちならやれるわ」
「……そうだな。マリカが言うならできる気がするよ」
こんなに頼もしい仲間がいるのだから、きっとできるはずだ。できないことなんてない。
レックスは立ち上がり、ついた砂埃を払う。
「こうなったら、早速行くしかないね。早くしなきゃ大変なことになるかもしれないし!」
「そうじゃな。早めに片付けて宴を開こうじゃないか」
あれこれと盛り上がりながらマリカたちは階段を早足で登り始めた。古代兵器の残骸の破壊に向かおうとしているが、誰もが気負いしていないのがなによりの救いだった。
「……」
レックスは一人その場に残り、無言で歯車を見つめていた。次にぼんやりと手のひらに視線を落とす。
歯車から感じる嫌な魔力とは違う、暗闇で灯された蝋燭のように温かい感覚がレックスの中に生まれていた。自分の中にある魔力とも違う。これは一体なんなのか。
「レックス、行くわよ」
「あ、あぁ」
階段を登っていたマリカに呼び止められ、我に返ったレックスは急いでマリカたちを追いかけた。
(もう復興大臣どころじゃなくなったな……)
王宮を歩きながらレックスは考える。
これまでは復興大臣として各地を巡り、仲間と再会し、復興への道を開いてきた。
しかし、今から行うのは都市の復興ではない。これは世界を救うための復興だと。
古代兵器の残骸を破壊して世界を救い、もう一度世界を平和にするのだ。




