第55話 「レックス、様になっておるぞ」
Side.復興大臣時代
マリカたちはクォーツを見て言葉を失った。想像を絶する光景に、誰も次の言葉が出てこなかった。レックスの話には聞いていたものの、実際に目にするとまた違った。
「……これが、当時のままの姿だよ」
「そういえばそうだったのう。わしらは復興する元気などなく、この地を離れて行ったのじゃ」
ポーラが遠い目をしながら呟く。ポーラには当時のクォーツの光景が映っているのかもしれない。
「王がいなくなった土地は、誰も住む価値がないと踏んだのじゃよ。亡くなった者を荼毘に伏し、次第にクォーツは廃れていった」
「そうだったのね……」
「わしも来たのは久しぶり以来じゃが、なにも変わってなくて逆に安心したぞ」
はは、と軽い笑みを見せてポーラは言う。少し声が震えているように聞こえたのはレックスの気のせいだったかもしれない。
「探索、する?」
「レックスやポーラの気持ち次第です。同意自体はしましたが、実際目にすると気持ちが落ち着かないかもしれないですから」
セレナの不安げな問いかけに、サファエルは落ち着いた様子で返す。マリカたちの視線がレックスとポーラに向く。
「俺は平気。来たからにはみんなにクォーツを知ってもらいたい。ポーラは?」
「わしも平気じゃぞ。レックスの言う通り、無駄足にはしたくない」
二人の言葉に、マリカたちは安堵の息を漏らした。
そうして、レックスたちは静寂に満ちるクォーツを歩き出した。
「――それでな、こっちが巷で有名な商店だったのじゃ」
ポーラは大通りから少し外れた軒先を指差す。レックスたちはただのボロ屋と成り果ててしまった商店を覗き込む。外観やどんなものが売っていたかを想像して、レックスたちはさらに歩き出す。
ポーラの道案内を聞きながらレックスたちはクォーツを探索していた。人のいない都市だからと、気分を暗くする必要はない。口に出さずとも理解し合っていたレックスたちの気分は、少しずつ明るくなっていった。
当時の光景を見ることは叶わないが、実際に住んでいたポーラの話で少しでも当時のことを理解しようとしていた。
先頭に立って案内をしていたポーラは、一角で足を止める。
「さて、ここまで来たのじゃが。レックス、どうする?」
問いかけたポーラの視線の先には、王宮がそびえ立っていた。絢爛さをなくした王宮は、ただの石の建造物のようにも見えた。
ポーラがレックスに尋ねたのはレックスが一番関わりのある場所で、断りもなく勝手に入ってはいけないと思っているからか。
だが、ここは自分の家ではない。王の血筋なだけで城に住んでいたわけでもない。
「俺のものじゃないし、別にいいよ」
「確かに、正式に王位を継承したわけではないからのう。レックスが言うなら有り難く入らせてもらおうぞ」
ポーラはレックスの後ろに回り、背中をとんと押す。
「ここからは王子の仕事じゃな」
「えぇ、俺は分からないって」
「封印魔法で一応王宮内は巡ったのじゃろう。迷ったとて誰も責めん」
巡ったわけではないが、王宮の中に入ったのは確かで。ポーラは一度も入ったことはないだろうし、朧げでも自分が案内する方がいいのかもしれない。
「……じゃあ、俺がやるよ」
それが良い、とポーラはニコリと笑う。押しつけられたに近いが、レックスは王宮内を案内をすることになった。次はレックスを先頭にして王宮の中へと入っていく。
街と同様に王宮も復興されていないからか、王宮内は当時の記憶をそのまま残した光景だった。
「中は普通の王宮と同じだね」
「変わり者ならさておき、テヴァス王は真っ当な王じゃったからな」
セレナが廊下をぐるりと見渡す。壁や床はボロボロになっているものの、過去の気品さは残されているように見えた。
「襲撃されたとレックスは言っていましたが、金品の類はそこまで奪われていないようですね」
「そう言われたらそうね。攻め込んだなら全て盗まれていてもおかしくはないわよね」
廊下に並ぶ絵画は傷ついているものの、物自体はそこ残っていた。並ぶランプも傷ついたせいで点いてはいないが、盗まれてはいない。つまり、金目のものを奪うために王宮に攻め込んだわけではないとおおよそ推測できた。
「そもそも、なんで人間がクォーツに攻め込んだんだろうね」
「理由は分からん。やはり人間至上主義がもたらした結果だったのじゃろう」
ポーラはふぅと息を吐く。
他種族を下等生物だと扱い、徹底的に排除する人間至上主義。昔から人間の間で人間至上主義は根づいていたのかと、レックスたちの表情が曇る。
「……もしかしたら、他の理由があったのかもしれないわね」
「他の理由?」
「いえ、私の根拠のない推測よ。人間至上主義というだけで、魔族をわざわざ攻め立てる理由がしっくり来なくて」
人間ならではのマリカの意見だろうと、レックスはマリカの話を黙って聞いていた。
「魔法が使える、武器も効かない相手の巣に自ら飛び込むようなんて、よっぽど王を討ちたかったのかしら。でも、それだけのために危険を背負う必要も私はないと思うわ」
なるほど、とレックスたちは納得する。
ただ、疑問も生まれる。魔族の王を討ち取ったなら、それだけで人間の士気を上げる可能性だってある。やはり王を討ち取るためにクォーツに攻め込んだのではないか。
「なにかを奪われて、それを取り返しに来たとかかな?」
「魔族は略奪なんかせん。特にテヴァス王はそんな姑息なことをする王ではない。必要なら人間と話し合い、きちんと返したはずじゃ」
「じゃあ逆に、大事なものがあったとか? それを奪いに来たなら有り得るかも?」
「……ふむ、それは可能性としては有り得るのう。じゃが、それが正しいとしてもなにを守っていたのか我々市民は知らない。恐らく限られた者だけの秘密だったじゃっただろう」
話しているうちに謁見の間に辿り着いた。そこには切り裂かれたカーペットや砕けたシャンデリアなどが散らばっていた。しかしその中でも、置かれた玉座は威厳のある姿だった。
「レックス、玉座に座ってみてよ」
セレナが楽しそうに提案する。思いもよらない提案にレックスは「えぇ」と顔を歪める。
決して使われていない古い玉座が嫌だからではない。父親が座るべき場所に自分が勝手に座っていいのかという躊躇からだった。
「大丈夫だって。怒る人は誰もいないし、レックスだって実質今は王様みたいなものだよ!」
セレナの展開した理論は分からないが、期待の眼差しで見つめられてしまえばなにも言い返せない。
「じゃあ、そこまで言うなら……」
レックスは玉座に近づき、ゆっくりと腰掛ける。玉座の座り心地は思ったより悪くなかった。レックスは座りながら自分が王になった未来を想像してみた。衛兵が並び、臣下が目の前に跪いている。マリカたち仲間がレックスに微笑みかける。
そんな未来があったのかもしれないと、レックスは複雑な気持ちで部屋を見渡す。
「レックス、様になっておるぞ」
「はい、王様みたいですね」
ポーラとサファエルも楽しそうにレックスを見つめる。そうして褒められたら悪い気はしないと、レックスは少しだけ得意げになる。
しかし、これ以上のんびりしている場合ではない。街中の探索は満足していないし、王宮内もまだまだ歩けるところはたくさんある。
(……ん?)
レックスは玉座から立ち上がったところで、ある違和感に気がつく。




