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第47話 「さぁ、今こそ一つになるべきです」

 視界が元に戻ると、レックスの足元にはなにも感覚がなかった。

 降り立ったのはスピネルが見渡せる上空。自分のいる場所を理解したレックスは懸命(けんめい)にもがくが、重力に逆らえずに地面に落ちていく。

 ――寸前のところで、サファエルがレックスを抱え、レックスは空中に(とど)まった。


「ありがとう、サファエル……生きた心地がしなかったよ……」

「いえいえ」


 レックスを軽々と抱えながら微笑(ほほえ)むサファエル。助けてくれたが、やはり男として(しゃく)だとレックスは顔を歪める。


「そうか。地上の者は飛べないのだったな。失礼した」


 翼を羽ばたかせながら平然と言うヘレと、その横でくすくすと笑うシエロ。


「地上に来たはいいが、このあとはどうするつもりだ」


 ヘレはスピネルの都市を悠然(ゆうぜん)と見下ろす。

 上空からでも分かる、スピネルを飛び交う人々の騒ぎ声や魔法。魔法に関してはマリカたちが暴徒(ぼうと)を食い止めている証拠だろう。

 マリカたちが頑張(がんば)っているなら、自分もなんとかしなければとレックスは自分を(ふる)い立たせる。


「みんなの前で語る……とかですかね」

「争いはやめろと演説するのか。その程度で止まるとは思えんがな」


 民衆に語りかけるのは悪くないと思ったが、駄目(だめ)だったか。


「し、信仰対象が演説をするのも悪くないとは思います」

「確かに、私たちを信仰しているなら絶対的な部分はあるわよね」


 シエロがレックスの言葉に反応する。シエロとしては演説をするのは悪くないようだ。


「なんかこう、注意を引きつけて派手に登場できないですかね……?」

「どこまでも他人頼りな男だな」

「す、すみません……」

「まぁいい。シエロ、俺は闇魔法で一時的にあの街にいる者の動きを止める。その間にシエロが光魔法でどうにかできないだろうか」


 ヘレが尋ねると、シエロは笑顔で(うなず)く。


「なんでもできますわよ。全力で派手に登場しましょう」


 頷きあったシエロとヘレは、少し高度を落としてスピネルの街へ近づく。大聖堂の先端まで降りると、動く人々の様子がよく見えた。

 ヘレが杖を振ると、それまで動いていた人の粒が残らず動きを止めた。「なんだ」「動けないぞ」「どういうことだ」と動揺している声がレックスたちの耳に届く。

 次にシエロが杖を(かか)げると、光の柱がシエロたちを包み込む。雲間(くもま)から光が()し込み、シエロたちを照らした。

 光に導かれたスピネルにいた人々は、自然とシエロたちを見上げることになる。


「聞け。地上の者ども」


 ヘレは堂々した(たたず)まいでスピネルの人々を見下ろす。


「俺は魔界に住む悪魔族の(おさ)、ヘレだ」

「私は天界に住む天使族の長、シエロです」


 ヘレの横で、シエロも威厳を持った微笑みで続く。

 それまで荒れていたスピネルの人々を一瞬で引きつけた手腕(しゅわん)に、レックスは驚くばかりだった。


「僕たちは今のうちに暴徒を止めに行きましょう」

「分かった、そうしよう」


 レックスたちは地上に降り、まずはマリカたちを探すことにした。ヘレはまとめて闇魔法を使ったから、敵味方関係なく足止めをされているはずだと。

 魔力感知をして、降り立ったすぐ近くにポーラがいるのを確認した。レックスたちが向かうと、ポーラがヘレたちを見上げていた。


「ポーラ、大丈夫か?」

「おや、レックス。あの様子だと上手くいっているようじゃの。なぜか動けなくなったがのう」

「ヘレ様がやったんだ。今スピネルにいる人たちはその場から動けなくなっているらしいんだ」

「なるほど、それは仕方ないな」


 ポーラは納得したようで、シエロたちを見上げる。


「この間に俺たちは暴徒を片付けに行くよ」

「あい分かった。この近くは片付いて、残りは入り口付近に固まっておる。今はマリカとセレナが最前に立ってなんとかしてくれているはずじゃ」


 レックスたちは入り口を見据(みす)える。


 今スピネルで動けるのは自分たちしかいない。今のうちにサファエルと協力して終わらせなければ。


「そろそろシエロ様たちの演説が始まると思うんだ。ポーラは聞いていて大丈夫だよ」

「なかなか興味深い試みじゃな。では、お言葉に甘えて楽しませてもらうぞ」


 ポーラの元を去り、レックスたちはスピネルの入り口に向かう。


「お前たちは我々を巡って争いを起こしていると聞いた。そんなくだらない争いは今すぐやめろ」

「私たちはあなた方が争う姿は見たくありません」


 入り口に向かう途中で二人の演説が始まった。

 近くにいた信徒が「この世界に現れるなんて……」と驚嘆(きょうたん)する声が聞こえた。

 入り口に向かう間にも、「我々を見てくださっている……」「()(がた)い……」「我々の神だ……」と呟く人々が散見(さんけん)された。


「まさかシエロ様たちが現れると思っていなかったのでしょうね」

「互いに信仰する一番上の存在だもんな」


 スピネルの入り口に着くと、そこではポーラの言う通り、マリカとセレナの姿があった。


「マリカ、セレナ」


 レックスの姿を見てマリカたちは安堵(あんど)の息を漏らす。


「レックス、どうしよう。あたしたち動けないよ!」

「ヘレ様がやったことだから大丈夫だ。それより、今はどんな状況だ?」


 (あせ)るセレナを横目に、レックスはマリカに尋ねる。


「見ての通りよ。そのあたりに転がっているのは片付けた暴徒。残りは私たちの前にいる程度よ」

「分かった。ありがとう」


 レックスとサファエルはマリカの視線を追う。そこには動けずにもがいている暴徒たちがいた。


「下手に怪我(けが)をさせるわけにはいかないよな」

「そうですね。気絶させるくらいに留めておきましょう」


 レックスとサファエルは暴徒たちの元へ向かう。レックスは雷属性を使って、サファエルは光魔法を使って流れるように暴徒たちを鎮静(ちんせい)していく。


「私たちは互いを高め合い、種族を超えて共に生きる存在です。天界と魔界、住む場所は違えど元を辿(たど)れば同じなのです」

「その通りだ。どちらが優位などと争いを起こしている暇はない」


 二人の演説が繰り広げられる中で、レックスとサファエルは着実に暴徒の数を減らしていく。


「シエロ様は分かってたけど、ヘレ様も結構演説に乗り気だな」

「本当に思っているのかもしれませんが、どちらかといえば楽しんでいるのかもしれませんね」


 レックスたちは演説を聞きながら(まゆ)を下げて笑う。


「さぁ、今こそ一つになるべきです。祈りなさい。私たち天使族を崇拝(すうはい)するのならば、悪魔族を崇拝するもまた同義(どうぎ)なのです」


 語るシエロからは誠実さが(にじ)み出ていた。口に出す言葉は心の底から願っていることなのだろう。


「悪魔族を信仰する者も同じだ。どちらかのみを信仰して我々は成り立たない」


 ヘレからも真摯(しんし)さが感じられる。ヘレ自身もシエロと同じことを考えているに違いない。

 演説を聞いているうちに暴徒は全て気絶し、暴徒の侵攻は収まった。

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