第37話 「皆様に天使様のご加護がありますように」
Side.復興大臣時代
「それじゃあ、いい仕事ができるよう祈っているよ」
ヒスイたちに見送られ、集落をあとにしたレックスたち。歩き出しながらこれからのことを話し始めた。
「まず港町に戻って、そこからスピネルに向かおうか」
「あのときもそうしていたし、それが一番いいわね」
ルチル地方を抜け、歩いているうちに段々と活気のある港町が近づいてきた。一度港町で身支度を整え、レックスたちはスピネルへ向かう馬車を探した。
「スピネルなら、ちょうどあの馬車が向かうはずだよ」
レックスたちが視線を向けると、荷物を積んでいる馬車が目に入った。スピネルに行きたいと声をかけると、商人は二つ返事で了承してくれた。
お礼と言える代物かは分からないが、積み荷を運ぶのを手伝い、レックスたちは馬車に乗り込んだ。
そして、馬車はスピネルへ向けて出発した。
「君たちはなんでスピネルに行くんだい?」
港町を出て少しした頃、雑談のように商人から話を振られる。
「お祈りかい? あそこは信心深い人がよく向かうからね」
「以前旅をした仲間がいるんです。その人に会いに行こうと思っています」
「なるほど、冒険者か。そういえば、勇者が世界を救ったと噂が立ってから冒険者が増えたね。港町でも冒険者と結構すれ違ったよ」
そうだったのか。新しい情報にレックスたちは感心する。自分たちは未来の人々を動かすほどの影響力があったなんて。
「わしらのやったことは、未来の人々にきちんと受け継がれておるな」
ポーラは嬉しそうに言う。レックスたちも同意するように頷き返した。
スピネルまでは山をいくつか越える必要があり、尚且つ距離があるため、レックスたちは馬車の荷物を運ぶ手伝いを何度かした。ただし、手作業ではなく魔法をいくつか行使して。
主にポーラの召喚魔法と降霊魔法で人形や兵士を呼び出して人手を増やし、セレナが水属性の魔法と浮力を操って荷物を軽々と運び、レックスとマリカは風属性の魔法で馬や馬車を支えた。
商人はレックスたちが魔法を使うことに最初こそ驚いたものの、「スピネルに向かうくらいだからね」と次第に納得してくれた。
「もうすぐ到着するよ。ほら、大聖堂が見えてきたよ」
レックスたちが馬車から少し身を乗り出すと、塀に囲まれた街が視界に入った。塀の外からでも分かる巨大な大聖堂がやけに眩しく写った。
聖都スピネル。
独立宗教国家で、種族に対する偏見を持たない者が暮らす、珍しい中立都市。人間からすれば異端の地だが、他の種族からすれば奇跡のような土地だった。
スピネルに住む者たちは信仰に厚く、中でも天使族と悪魔族を等しく崇拝している。
スピネルの入り口に着くと、レックスたちは商人と別れて塀の中へと入っていった。
塀に囲まれているものの、スピネルの街並みは栄えた街と同様の賑わいを見せていた。時折司祭服を着た人々とすれ違い、ここが宗教国家であると再認識できた。
「ふむ、相変わらず魔力の流れがある。魔族も変わらず暮らしているようじゃな」
ポーラは安心したように息を吐く。
「じゃあ、早速大聖堂に行こうか」
「そうしましょう」
レックスたちは大聖堂へと向かう。
歩きながら、レックスはスピネルでの復興大臣の仕事を考える。
(特に大きな被害は被っていなさそうだな。中立都市だから、外交もある程度は問題なさそうだし……やっぱり人間以外の種族がどう思うかだよな……)
難しい顔をするレックスに気がついたマリカが、レックスの顔を覗き込む。
「どうしたの? 難しい顔をして」
「あ、あぁ。スピネルで俺がなにをできるかなって考えてたんだ。でも特に思いつかなくてさ」
「スピネルは変わった街だけど、閉鎖的ではないものね。差別意識がないし、信仰する人なら誰でも受け入れているし、そう言われると大きくやることはないのかもしれないわね」
マリカに言われ、そうだよなとレックスは納得する。
ただ、復興大臣として来ている以上、なにかしらの成果を上げなければならない。
「天界と魔界の方で仕事すればいいんじゃない? 平和なところで無理する必要はないよ!」
セレナの言葉にレックスは自然と同意した。確かに、無理に成果を上げるより自然と生まれた仕事を行う方がいい。
大聖堂に到着すると、白と黒を基調とした司祭服を纏った人々が多く行き交っていた。
「……ただ、どうやって天界に行くかだよな」
「そうじゃな。今はサファエルがいないからのう」
あのときはサファエルがいたから特別に天界に向かうことができた。しかし、サファエルがいないなら、正面から話をして天界に行く許可を得なければならない。
「レックスが復興大臣ってことを伝えたら行けそうな気がするけどなぁ」
「じゃが、レックスも場所が変われば一介の魔族じゃからな。厳しいかもしれん」
頭を悩ませるレックスたち。そんな中、「そうだわ」とマリカが閃いたような声を上げる。
「私に考えがあるわ」
マリカを先頭にして、二人の衛兵がいる扉の元へ向かう。
予想通り衛兵に止められるが、マリカはレックスたちの一歩前に出た。
「王都スフェーンの第一王女、マリカ・ユーディアです。今回はこちらのレックス・ダイヤモンド、セレナ・ディーヴァ、ポーラ・バストネスと共に天界で復興についてのお話をしたく参上しました」
自信に溢れたマリカの言葉に衛兵たちは戸惑う。
レックスたちは顔を見合わせるが、今はマリカに話を合わせようと黙ってマリカを見守った。
「天使族の長であるシエロ様と、サファエル殿から訪問の許可は得ています」
「そ、そうでしたか。それでは中にお入りください」
衛兵は道を開け、扉を開ける。
マリカは悠然と先頭を歩き、レックスたちもあとに続く。
「たまには王女の権力を使ってもいいわよね。あとは少しの嘘も必要よ」
小声でレックスたちに告げるマリカは、なによりも楽しそうな表情をしていた。
中に入ると数人の神官が待ち構えていた。衛兵と同じようにマリカが言葉を並べると、神官たちはすぐに準備を進めた。
(マリカってこういうところは強かだよな……)
レックスがぼんやりと考える間に、魔法陣の転送準備が整った。
「では、お気をつけて。皆様に天使様のご加護がありますように」
レックスたちが魔法陣の上に立つと、眩しい光がレックスたちを包み込む。
足元からふわりと宙に浮き、レックスたちはまるで天に昇るかのような感覚になった。




