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第36話 「全部が終わったら、俺と――」

Side.復興大臣時代

 レックスがふと目を開けると、まだ夜明け前で空は暗かった。星がちらほらと輝いていて、朝と呼ぶにはまだ少し早い時間帯だった。

 それでも目が覚めてしまったから、散歩でもして気を紛らわそう。

 レックスはヒスイの家に泊まっていた。ヒスイが目を覚まさないように静かに外に出た。

 すると、外にはマリカがいて、空を一人で見上げていた。


「おはよう、マリカ。早いな」

「おはよう。ぐっすり寝ていたはずなのに、自然と目が覚めたの」


 挨拶(あいさつ)を交わしたマリカの身だしなみはしっかりと整っていた。

 そういえば、マリカが寝ぼけた姿や身だしなみが崩れた姿は見たことがないとレックスは思い返す。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。少し散歩でもしないか」

「いいわね。そうしましょう」


 森の中に入ると多少の霧が立ち込めていて、月の光も(あい)まって神秘的な雰囲気が(かも)し出されていた。

 木々が(しげ)る森を見上げ、レックスは過去の記憶を掘り返す。


「前に火事があったのが嘘みたいだよな」

「そうね。回復力も自然のすごいところよね」


 冒険者によって予期しない火事が起こり、それを協力して鎮火した。共に危機を乗り越えたことで、ヒスイたちとの絆ができたと言っても過言(かごん)ではない。


「俺、これまで旅をしたときのことをよく夢に見るんだ。みんなとの出会いや色んな事件をもう一度体験してる気分になるんだよな」

「私もときどき夢に見るわよ。一生忘れることができない出来事だもの」


 (なつ)かしい記憶がレックスたちの間を駆け巡る。長い時間だったのか、それとも短いあっという間の時間だったのか。レックスたちにはどちらとも(とら)えられる旅だった。


「マリカは、この仕事が終わったらなにをしたい?」


 レックスから、ふと口をついて出た質問だった。

 自分でもなぜそんな質問をしたのか、レックスには分からなかった。興味本位か、それとも全く別の理由か。


「そうね……変わらず王宮で公務(こうむ)をすることになるだろうけれど、私としてはこういう落ち着いたところでのんびりと過ごしたいわ」


 マリカは穏やかな笑みを(たずさ)えて答える。

 まさかマリカも同じ考えを持っていたなんて。心の底で嬉しくなったレックスから思わず笑みがこぼれる。


「俺も田舎暮らしをしたいって思ってたんだけど、それより先に復興大臣を任されたんだよな」

「そうだったの? それならそうと言って良かったのに」

「王様を前にして田舎暮らしがしたいからなんて言えないだろ。それに、この仕事は俺にしかできない」

「……そうね。ただの冒険者じゃできない。これはレックスだからできる仕事よ」


 重圧になりかねない言葉だったが、レックスは重みには感じていなかった。


「マリカ」


 レックスは立ち止まり、マリカに正面から向き合う。

 マリカの(つや)のある髪、ぱっちりとした(ひとみ)、薄い桜色の(くちびる)。いざ真正面にするとマリカの可憐(かれん)さが伝わり、レックスの心臓が高鳴る。


「もし叶うなら、全部が終わったら、俺と――」

「お二人さん」


 二人の間に割って入ったのは、ニコニコと笑うヒスイだった。

 いつの間に現れていたのか。油断していたレックスとマリカの肩がびくりと跳ねる。


「いい感じのところ悪いけど、夜の森は危ないと伝えたよね」

「す、すみません……」

「話したいなら僕の家でゆっくりしなさい」


 森の中には結界魔法が張られているために、ヒスイが二人の存在に気がつかない理由がなかった。

 ヒスイを先頭にして森を出るレックスたち。


「レックス、さっきはなにを言おうとしていたの?」


 小声で尋ねるマリカ。声には少しの期待がこもっているような気がした。


「……なんでもない」


 レックスは肩を落としたが、まだこの言葉を言うには早いのかもしれないと実感した。

 いつか、あの言葉の続きが言える日が来るといい。

 そんな期待を込めながら、レックスたちは森を出た。

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