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第35話 「みんな、私に魔法を教えてくれないかしら」

「急いで鎮火しなきゃ!」


 セレナが水を生み出しながら叫ぶ。

 目の前では木々が燃え、火事が起こっていた。


「みんなを呼んできて一斉(いっせい)に鎮火しなきゃ……!」

「応援を呼んでいたら間に合わない。僕たちでなんとかしなければ」


 ヒスイが(くちびる)を噛みながら燃える木々を見上げる。

 セレナを中心にレックスとヒスイが援護するようにして、水属性の魔法を木々に向けて繰り出す。

 しかし、勢いは火が燃え広がる方が早く、一度燃えた火はなかなか鎮火しなかった。


「どうすれば……」


 鎮火作業をしていたレックスの視界の端に、マリカが腕輪をつけているところが目についた。

 なにをするのかと思いきや、マリカは火元に向けて手を(かざ)して水属性の魔法を使った。セレナやヒスイは鎮火に必死になっていて、その光景を目にしたのはレックスだけだった。


「マリカ、今魔法を――」

「みんな、濡れるけど我慢して!」


 レックスが声をかけようとした途端、セレナが叫んだ。

 セレナの頭上から巨大な渦が現れ、森を包み込む。渦は燃え盛る火を消し飛ばし、水流となってレックスたちに雨のように降り注いだ。


「あはは、ちょっと本気出しすぎたかも」


 濡れた髪を絞りながらセレナは苦笑する。

 レックスたちは全身びしょ濡れになったが、代わりに火は全て鎮火した。規格の違う鎮火に、レックスたちは顔を見合わせて笑った。

 ヒスイは笑って涙を拭いながら、レックスたちの方を向く。


「きちんとした自己紹介がまだだったね。改めて、僕はヒスイ」

「俺はレックスです」


 差し出された手を、レックスは笑顔で握り返した。


 びしょ濡れのまま集落に戻ると、ポーラやジャスパーが驚きながらレックスたちを迎えた。

 経緯を説明すると、集落の人々は感激した様子でレックスたちを讃えた。


「私たちのことを守ってくれてありがとう……!」

「森も無事で良かった!」


 誰もがレックスたちを尊敬の眼差(まなざ)しで見つめ、レックスたちは少し気恥ずかしくなる。


「風邪を引く。すぐに着替えなさい」


 ジャスパーに言われ、レックスたちはすぐに新しい服に着替えた。


「豪華なものは用意できないが、お礼として最大限のもてなしをさせてもらうよ」


 そう言われ、レックスたちは(うたげ)と称してヒスイたちに出来る限りのもてなしをされた。

 宴が終わると、レックスたちはそれぞれ部屋を案内され眠りについた。


「では、気をつけてね」


 翌朝。

 レックスたちは集落を()つことにした。食料などももらい、出発の準備を進めていた。


「またしばらくポーラとは会えなくなるのが寂しいねぇ」

「会いたくなったら屋敷に来るが良い。今度はわしがもてなしてやるぞ」


 ポーラとジャスパーは固く握手をする。

 一方で、レックスたちはヒスイと向き合っていた。


「ヒスイさんもお元気で」

「ありがとう。レックスくんたちもいい旅を」


 レックスとヒスイも、しっかりと握手を交わした。


「そこの青年」


 出発しようとしたところで、レックスはジャスパーに呼び止められる。

 レックスが駆け寄ると、ジャスパーはレックスを上から下までじっくりと見つめる。


「どうかしましたか?」

「お前さん、本当に似ているねぇ」


 レックスの疑問に答えず、感慨(かんがい)(ぶか)そうに一人で(うなず)くジャスパー。


「なんのことですか?」

「……いいや、旅をしていたらいつか知ることになるだろう。私からは黙っておくよ」

「……はぁ」


 少しの疑問を残しながら、準備を終えたレックスたちは集落をあとにした。


「いやぁ、なかなか刺激的な一日だったね」


 セレナが大きく伸びをして言う。間違いないとレックスたちも苦笑しながら同意する。


「おや、マリカ。随分(ずいぶん)洒落(しゃれ)たものをつけておるのう」


 ポーラがマリカの手元を見ながら感心したように言う。そこには、昨日冒険者がつけていた黄金色に光る腕輪があった。


「えぇ。昨日戦った冒険者たちのものよ。商人から買った魔道具らしいの」

「商人から買ったか……なかなか怪しい品じゃのう」

「でも冒険者は魔法が使えていたから、偽物ではないと思うわ」


 腕輪を見ながら盛り上がるマリカたち。

 レックスはマリカが魔法を使っていた光景を思い出していた。あれは確実に魔法を使っていた。この目で見たのだから間違いない。マリカに聞けば分かるだろうか。


「マリカ、魔法を使えたのはその腕輪のおかげなのか?」


 レックスが尋ねると、マリカは腕輪を見つめながら首を(ひね)る。


「どうかしら。私はレックスたちが魔法を使っているのを見て、自分も使えていたらと想像をしたら魔法が使えていたわ」

「魔道具を使ったことがないから分からんが、マリカにはそれを使いこなす力はあるのじゃろうな」


 マリカの話を聞いてポーラは深く頷く。セレナも横で「きっとそうだよ!」と頷いていた。


「みんな、私に魔法を教えてくれないかしら」

「魔法を?」

「みんな魔法を使えるのに、私だけなにもできないのはどうしても歯痒いわ。私も魔法を使えれば、きっとなにかの役に立つと思うの」


 マリカの真剣な瞳に、レックスたちは自然と頷いていた。


「わしの指導は厳しいぞ。ついてこれるかのう」

「えぇ、どこまでもついていくわ」


 ポーラの言葉にマリカは不敵に笑った。

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