第29話 「ヒスイさん、お久しぶりです」
Side.復興大臣時代
レックスたちは屋敷を出てから、村へ挨拶をしに行った。ポーラが本物のポーラと気がついていない村民たちは、何事もなくレックスたちを見送った。
「みんな本物のポーラって分かってないの、なんか複雑だな」
「問題ない。わしが本人だと知られたら、村を出て行くなと引き止められてしまう」
確かに、村おこしでポーラ・バストネスの屋敷を扱っているのに、屋敷に残っているのがポーラではないと知られたらただの田舎にある屋敷になってしまう。
それなら仕方ないかと、レックスたちは盛大に見送られながらネフラをあとにした。
「さて、次はどこに行くのじゃ? 面子を集めるならサファエルのところかえ?」
「いや、その前にヒスイさんのところに行こうと思ってるんだ」
「なるほど、ヒスイのところか。旅の道を順に辿っているわけじゃな」
そういうことだとレックスは頷く。
「ここから遠いから、前と同じように街や村を経由して向かうつもりだよ」
「それが良い。人のことは言えんが、あそこもなかなか辺鄙なところにあるからのう。特に馬車も通っていない集落じゃからな」
早速レックスたちは歩き出した。
魔族の集落があるルチル地方まではかなりの日数を要する。途中まで村はあるものの、ルチルに近くなれば近くなるほど集落はなくなり、野宿をするしかなくなる。
今回も途中の小屋を借りたり、野宿をしたりしてルチルへの道のりを進むことになる。
「それにしても遠いねぇ。みんな生活するのに大変じゃないのかな?」
「人間が住む場所に行く必要がないからじゃないかしら。特にあそこは自給自足で生活しているでしょ」
「そうだね。自給自足の生活って楽しそうだなぁ」
マリカの言葉に反応し、セレナが呑気に笑う。
「そうでもないぞ。野菜を育てるのは一苦労じゃし、畜産も気力がないと務まらん。酒もほどほどしか飲めぬ。半端な気持ちで自給自足はできんぞ」
「げ、じゃあやめておこうかな……」
ポーラに言われ、セレナは顔を顰める。
酒が飲めないなら自給自足のやる気はないのかと、レックスたちは苦笑する。
(着いたら、みんなに田舎暮らしの方法とか聞いてみようかな)
レックスたちは焦ることなく、ルチルへの道を歩んでいった。
田園風景を抜け、山岳地帯を歩き、山を越え、平地を行く。何日もかけてレックスたちは歩き続けた。幸運にも天候に恵まれ、足止めをされることもなかった。
ネフラを出発してしばらく経った頃。
「ようやくここまで来たな」
レックスたちの目の前にあるのは巨大な森。木々が茂る森は、レックスたちを簡単に飲み込むくらい巨大なものだった。
一度来たことがあるとはいえ、その迫力にレックスたちは圧倒される。
「ヒスイさん……は、いなさそうだな」
「そうね。結界を踏めば私たちが来たって分かってくれるんじゃないかしら。行ってみましょう」
マリカの意見に同意し、レックスたちは森の中へと足を踏み入れた。
木々の間を通り、苔むした岩を避けて歩く。時折木漏れ日が射し込み、幻想的な雰囲気を作り上げていた。緑が生い茂る森の中は澄んだ空気が流れていて、レックスたちの心も浄化されていった。
「誰だい?」
森を歩いて少し経った頃、どこかから男性の声がした。レックスたちはその声に聞き覚えがあった。
「ヒスイさん、ですよね」
レックスが問いかけると、突如レックスの前に一人の青年が現れた。青年は爽やかな風貌だが、どこか神秘的な雰囲気も感じられた。
青年はレックスたちの姿を見て目を見開く。
「あぁ、レックスくんたちじゃないか。久しぶりだね」
「ヒスイさん、お久しぶりです」
レックスがヒスイと呼んだ青年は、穏やかな笑顔でレックスたちを迎えた。
「今日はみんな揃ってどうしたんだい?」
ヒスイに尋ねられ、レックスはすっかり慣れた経緯の説明をした。
「――復興大臣か。なかなか面白そうなことをやっているんだね」
「まだ復興大臣らしいことはあまりできていないですかどね」
「結果というのはそんなすぐに出るものじゃないからね。少しずつやっていけばいいんだよ」
ヒスイの言葉にレックスは元気づけられた。まだベリルでの話し合いくらいしか結果は残せていないが、視察は始まったばかりだ。
「それで、ここに来たのはなにか理由があるのかい?」
「これまでの旅の道を辿りながら視察をしようと思っているんです。なので、せっかくならとルチルに行くことにしました」
「わざわざ来るなんて大変だっただろうに。少し休んでいけばいいよ」
ヒスイを先頭にして、レックスたちは歩き出した。
広大な森の中から出口を見つけるのは至難の業だが、森の管理人であるヒスイがいれば簡単なことだった。
あっという間に森を抜け、小さな集落に辿り着いた。
集落の入り口では子供たちが遊んでいて、レックスたち――主にヒスイに気がつくと、手を大きく振った。
「ヒスイさん、おかえり!」
「誰? その人たち」
子供たちは不思議そうにレックスたちを見上げる。ヒスイは子供たちの頭に手を置きながら微笑む。
「君たちは分からなくても仕方ないね。彼らは僕たちの世界を救ったんだよ」
ヒスイの言葉に子供たちは目を輝かせ、レックスたちに駆け寄った。
「そうなんだ!」
「すごいね! 勇者様だ!」
子供たちはレックスたちを囲み、あれこれと思いつく言葉で褒めちぎっていく。純粋な気持ちで褒められると悪い気はしないと、レックスたちは子供たちに素直に褒められた。
レックスたちはヒスイの家に案内され、ヒスイは椅子に腰掛ける。




