表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/51

第27話 「だから、師匠のことは任せたぞ」

 トールは手のひらから火球(かきゅう)を繰り出して、向かってくるレックスを翻弄(ほんろう)する。レックスは軽い身のこなしで火球を(かわ)し、拳に炎を(まと)わせてトールに拳を振るった。

 しかし、拳の炎は水の壁を作り出されたために、白い蒸気を上げて鎮火(ちんか)してしまう。

 レックスが次の一手を考えているうちに水の壁の間から水流が()き出し、レックスを結界の端まで追いやる。レックスは足を踏ん張って堪えるが、結界に背中をつけてしまう。


「もらったぁ!」


 トールは手を(かざ)して雷を作り出し、レックスに向けて撃ち落とす。轟音(ごうおん)が響き、稲妻(いなづま)がレックスに降り注いだ。


「……っ」


 レックスは咄嗟(とっさ)に体に水の(まく)を張り、電撃を吸収した。


「ほぉ、やるではないか。魔力制御を応用したか」


 ポーラが感心した様子で笑う。

 ただ、勢いがあったために全ての電撃を吸収できず、レックスの体に(しび)れが襲いかかる。筋肉が勝手に痙攣(けいれん)し、視界が白く瞬く。体が思うように動かず、レックスは思わず(ひざ)をついた。


「ふん、勝ったな」


 トールが勝ち(ほこ)ったような笑みを浮かべ、再び雷を手に収束(しゅうそく)させる。雷がレックスに降り注ごうとした、そのとき。


「油断したな」


 レックスは体勢を低くしたまま、雷撃をすんでのところで躱す。地面を強く蹴り、トールに向かって駆け出す。


「なっ……!」


 氷を拳に纏わせ、レックスはトールに向けて振りかぶる。

 レックスの迫り来る拳と獰猛(どうもう)(ひとみ)(ひる)んだトールは、思わず顔を手で(おお)って身を守る。


「……?」


 だが、痛みと衝撃は訪れなかった。

 トールがおそるおそる目を開けると、氷を纏った拳はトールの眼前(がんぜん)で止まっていた。拳から伝わる冷気がトールの(ほお)()でる。

 動揺していたトールだったが、すぐに我に返って(まゆ)を寄せる。


「……なんで止めてんだよ」

「手合わせだけど、直接殴るのは違う気がしてさ」


 拳を振って氷を払いながら、レックスは小さく笑う。

 余裕のある態度に(いら)ついたのか、トールは歯を食いしばってレックスに拳を振りかざす。


「調子乗んな! お前なんかに負けてたまるかよ!」


 しかし、トールの拳は突如背後に現れた兵士によって止められる。ポーラの作り出した兵士に羽交い締めにされたトールは、抜け出そうとバタバタと暴れる。


「手合わせは相手を敬い、実力を確認するためのものじゃ。暴力が目的でない」


 ポーラは(あき)れた調子でトールを見やる。次にレックスに視線を移してニコリと笑う。


「お主は近接向けじゃのう。遠くから戦ってばかりの魔法使いらしくなくて非常に良いぞ」


 うんうんと(うなず)きながら、もがくトールに再び視線を向ける。


「トールも、魔法の威力は以前より増している。ただ、最後まで油断するでないぞ。油断が命取りとなるぞ」

「……分かりました」


 兵士から解放されたトールは冷静になったのか、ポーラに頭を下げる。


「レックス、ちゃんと戦えてたね」

「えぇ。とても素敵だったわ」


 手合わせを見守っていたマリカとセレナは、穏やかな表情でレックスを見つめる。


「ポーラ」


 手合わせが終わり、屋敷に戻ろうとしたところでレックスはポーラを呼び止める。


「どうした?」

「このあと話があるんだけど、いいか?」

「もちろんじゃ。わしの部屋で待っておるぞ」


 レックスの問いかけにポーラは笑顔で頷いた。


 夜。

 レックスはポーラの部屋へと向かった。扉を叩いて中に入ると、ポーラがハーブティーを用意していた。


「今日は疲れたじゃろう。わしからの(ねぎら)いじゃ」

「ありがとう」


 レックスがティーカップに口をつけると、ハーブティーの優しく温かい味が体の中に広がった。


「今日はトールと手合わせをしてくれて感謝しておる」

「こちらこそ。俺もいい経験になったよ」

「そう言ってもらえて安心じゃ。トールはわしが拾った魔族の子でな。最初は粗暴(そぼう)で手がつけられなかったのじゃが、魔法の才能はあった。今もまだ荒削(あらけず)りじゃがな」


 思い出話をするようにポーラは語る。まるで子供を(いつく)しむ母親のような雰囲気だった。


「トールはわしが最近お主につきっきりになったから()ねておったのじゃ。素直になれないだけで、根はいい子じゃよ」


 あの荒々しいトールもそういう一面があるのかと、レックスはほんの少しだけトールが可愛(かわい)く思えた。


「それで、話とはなんじゃ?」


 ポーラに問いかけられ、レックスはハーブティーを飲む手を止めた。ティーカップを置き、拳を膝に置く。


「俺はある程度魔力制御もできるようになったし、次は属性魔法を教えてもらえると思うんだ。ただ、俺はそろそろ次の場所に旅立ちたいと思ってる」

「……ほう、それで?」


 ポーラは驚くわけでもなく、落ち着いた表情でレックスの話を聞いていた。


「もちろん、これからも魔法の特訓は続ける。その、それで……」


 言葉を詰まらせて視線を()らすレックス。

 言いあぐねている雰囲気に、なにかを察したポーラはふっと笑ってティーカップに口をつける。


「なるほど。つまり、わしに旅についてきて欲しいと言いたいんじゃな」

「それは……! そう、だけど……」

「出会って日は浅いが、お主はわしの弟子じゃ。弟子の考えていることはなんでもお見通しよ」


 はは、とポーラはティーカップを持ったまま軽く笑う。

 ポーラに隠しごとはできなさそうだ。ほんの少し心の中が軽くなったレックスは話を続ける。


「ポーラたちがいれば旅がもっと楽しくなる。魔法の特訓もいつでもできるし、いいことばかりだと思うんだ」

「分かった。では、トールにもわしから話をしておこう」

「ありがとう」


 自分の伝えたいことが伝えられたレックスは、ハーブティーを一気に飲み干して立ち上がる。


「それじゃあおやすみ」

「おやすみ、我が弟子よ」


 ポーラは優しい目をして、部屋を出ていくレックスを見送った。


 翌朝。

 レックスは屋敷を出発したいことをマリカたちに伝えた。マリカたちは驚いたが、レックスが経緯を説明するとすぐに了承してくれた。

 これからの旅に困らないようにしっかりと準備をして、屋敷を出る支度(したく)をする。


「ポーラ、トール。そろそろ行くぞ」


 屋敷の入り口に手をかけながらレックスが呼びかける。ついてきたポーラとトールは予想より身軽で、レックスたちは顔を見合わせた。


「俺は屋敷に残る」


 トールの思いがけない発言にレックスたちは目を(みは)る。唯一、ポーラだけは落ち着いた表情でトールを見守っていた。


「え、どうして……」


「お前が一緒にいたら特訓にならねぇからな……っていうのは嘘で。師匠と俺が出ていったら誰が屋敷を守るんだ。それに、てめぇは師匠がいなきゃ特訓ができないかもしれねぇ。だけど、俺は一人でも特訓できる」


 少し見下されたような気もしたが、レックスは反論せずトールの話を静かに聞いていた。


「俺は屋敷を守りながら特訓を続ける。それでいつか、てめぇに勝ってやる。……だから、師匠のことは任せたぞ」

「……あぁ。俺に任せろ」


 レックスが爽やかな笑顔と共に拳を突き出す。


「お前、熱い奴だな」


 眉を下げて笑ったトールは、静かにレックスと拳を突き合わせた。


「それでは、行ってくるぞ」

「いってらっしゃい、師匠」


 ポーラという新しい仲間が増え、レックスたちはネフラの村をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ