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第23話 「幽霊屋敷の噂、知ってるかい?」

Side.勇者時代

「ありがとねー!」


 ベリルを出発した潜水艇(せんすいてい)は、一番近い港町に到着した。

 潜水艇に笑顔で手を振ったセレナは、レックスたちの方を見る。


「レックスたちは、次はどこに行くの?」

「それが決まってないんだよな。俺はここもどこか分かってないし」

「うーん、行き先が決まってないと旅のしようがないね」


 腕を組んで(うな)るセレナ。

 路頭(ろとう)に迷ってしまったかと悩むレックスだったが、マリカが「あ」と(ひらめ)いた表情になる。


「ここで少し情報収集をするのはどうかしら。人も多いし、なにかいい情報が手に入るかもしれないわ」

「それいいね! じゃあ早速行ってくるね!」


 レックスたちの返答を待つ前に、セレナはすぐに人混みへと消えていった。セレナの破天荒(はてんこう)さにレックスとマリカは顔を見合わせて苦笑する。


「またここに集合だな」

「そうね。気をつけてね」


 マリカも歩き出す。


「……よし」


 息を吐いて意気込んだレックスも、人が行き交う通りへ歩き出した。

 レックスは行き交う人や商人たちに話を聞くと、ここは物流が活発な港町で、様々な土地へ馬車が出ていると教えてもらった。


(スフェーンとはまた違う栄え方だな)


 通り過ぎる人々を見ながらレックスは率直(そっちょく)な感想を抱く。スフェーンの方が圧倒的に栄えているが、こちらの街もなかなか過ごしやすい雰囲気ではある。

 スフェーンのような格差社会はないかと、レックスの頭を一抹(いちまつ)の不安がよぎったが、頭を振って考えないことにした。

 スラムの人々は元気だろうか。なにも言わずに飛び出して来てしまったから、助けてくれたお礼も言えていない。少しだけレックスの胸の奥が痛んだ。


「お兄さん、旅してるのかい?」


 感傷(かんしょう)に浸っているレックスに声をかけたのは、恐らく現地の住民であろう男性。レックスの格好から旅をしていると判断したのかもしれない。


「は、はい。そうです」

「若くていいねぇ。それじゃあ、とっておきの情報を教えてあげよう」


 男性はレックスに迫り、ニヤリと笑う。


「幽霊屋敷の噂、知ってるかい?」

「幽霊屋敷?」


 聞き慣れない単語に首を傾げるレックス。

 男性も話し甲斐(がい)があると思ったのか、弾んだ声で話し始めた。


「ネフラっていう(さび)れた村にある屋敷なんだけどね。辺鄙(へんぴ)なところにあるくせに、なんとも豪華な屋敷が建っているんだよ」


 豪華な屋敷なら、ただ金持ちが建てただけなのでは。考えるレックスに男性は話を続ける。


「それだけならただの屋敷なんだけどね、どうやら屋敷には幽霊が住んでいるらしいんだよ」


 幽霊が住んでいるから幽霊屋敷か。安直(あんちょく)だとレックスは内心で(あき)れる。

 レックスの住んでいたスラムも、日夜薄暗いせいで幽霊が住んでいると噂を立てられていたこともある。その(たぐい)だろうと、レックスは男性の話を話半分で聞いていた。


「村民や商人によると、夜、窓際に人が立っているのを目撃したとか、屋敷から女の子の幽霊が現れたとか、宿屋に泊まった旅人が翌日には白髪になっていたとか……」


 最後は幽霊屋敷に関係あるのか不明だったが、どうやら色々な噂が出ているようだ。


「その場所って、どうやって行くんですか?」

「ここからネフラまではかなり遠いぞ。馬車を乗り継いで行かなきゃならない。幽霊屋敷の噂もあるからあまり人も寄りつかないし、行ってもお兄さんの得にはならないだろうよ」


 立ち寄って真相を突き止めてみようと思ったが、そんなに遠いなら考えものだ。

 男性にお礼を言って立ち去り、レックスは再び情報収集を進めた。


「あ、レックス!」


 ある程度の情報を集めたので、レックスはマリカとセレナと別れた場所に戻った。そこでは二人が手を振ってレックスを迎えた。


「なにか情報は手に入ったか?」

「ばっちり! 面白い話がたくさん聞けたよ!」


 早速レックスたちは手に入れた情報の共有を始めた。やはり人々がたくさん行き交う港町だからか、様々な情報が集まった。

 ひと通り情報共有をしたところで、レックスは先ほどの男性の話を思い出す。


「そういえば、幽霊屋敷があるって噂も聞いたんだよな」

「それ、私も聞いたわ」


 雑談程度に振ったが、反応したのは意外にもマリカだった。


「宿屋の主人から教えてもらったわ。なんでも、ここから離れた村に幽霊が住むお屋敷があるんですって」

「なにそれ、面白そう! 行ってみようよ!」


 予想通りというべきか、真っ先にセレナが食いついた。


「でもここから遠いらしいんだよな。馬車を乗り継がないといけないみたいでさ」

「遠くてもいいじゃん。旅っぽくて楽しそうだよ!」


 旅らしい。そう言われてレックスは腑に落ちた。

 目的地に()()ぐ向かうのもいいが、少しくらい寄り道をするのも旅の醍醐味(だいごみ)ではないだろうか。


「そうしようか。マリカはどうだ?」

「ゆ、幽霊なんて類は信じないから、私も行ってみてもいいわよ」


 どこか挙動不審なマリカにレックスは首を傾げる。なにかに気がついたセレナは、マリカに寄って耳打ちをする。


「もしかしてマリカ、怖いの?」

「こ……怖くないわよ!」

「声震えてるよぉ」


 マリカの反応が可笑(おか)しかったのか、セレナはケラケラと笑う。


「じゃあ決まりだな。幽霊屋敷に行ってみるか」

「おー!」


 レックスとセレナが元気よく歩き出す後ろを、マリカはとぼとぼとついて行った。

 男性の言う通り、ネフラ行きの馬車はなかった。まず近くの村まで向かい、そこから馬車があれば再び馬車に乗って向かう。馬車がなければ徒歩で向かうという道のりらしい。

 果てしない道のりにも思えたが、旅をするなら多少の苦労は必要だとレックスは一人で納得する。

 偶然このあと出発する馬車がネフラの方面に行くと知り、レックスたちは馬車に同乗させてもらうことにした。


「うんうん、旅って感じがして楽しいね」


 馬車に揺られ、周りの景色を眺めながら上機嫌のセレナ。セレナの横ではマリカが「そうね……」と覇気のない相槌(あいづち)を打っていた。


「マリカ、大丈夫か? 今からでも別の場所に向かうか?」

「いいえ。一度決めたことは曲げないわ。えぇ、私はそういう人間よ。今は景色を楽しむわ」


 まるで自分に言い聞かせるかのような言い方に、レックスとセレナは苦笑する。

 三人が乗った馬車は、ゆっくりとネフラ方面へ向かって行った。

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