第22話 「若者共、落ち着くのじゃ」
ポーラの声を合図にレックスは火属性を、トールは雷属性を拳に纏って二人は駆け出す。
互いの拳が正面からぶつかり合い、衝撃波が一瞬で辺りに広がって地面を揺らした。
「またこうして手合わせができる日が来るなんて思わなかったぜ」
「俺もだよ。トールがどれだけ成長してるか、見せてもらうよ」
「はっ、自信満々だな!」
拳を交える二人の口元には笑みが浮かんでいた。
単純な力比べではトールの方が一枚上手だったようで、レックスはトールから離れて距離を取る。レックスは指先をトールに向け、雷属性の魔法を繰り出す。
目にも止まらぬ速さで飛んでいった雷だが、先に水属性の魔法でベールを張っていたトールに防がれる。雷は水のベールに吸収されて威力を失っていく。
トールは水のベールを凝縮して水流を作り、レックスに向けて勢いよく押し出す。渦を巻いた水流はレックスの全身を呑み込んだ。
「まだ終わりじゃないだろ?」
トールが構えを緩めないまま笑う。
次の瞬間、水流の表面がバキバキと音を立てて凍っていく。氷が軋む音が広がり、一瞬で氷が砕け散る。そこには息を切らせたレックスが立っていた。
「あぁ。ちょっと危なかったけどな」
息を吐いたレックスは顔についた氷の粒を払う。
「今度はこっちの番だな」
レックスがトールに向けて手を翳すと、無数の氷柱が地面から突き出るように出現した。氷柱は槍のようにトールに勢いよく襲いかかる。
「その程度かよ!」
叫ぶと同時にトールは地面に手をつく。すると、轟音と共に地面が盛り上がり、厚い土壁が現れた。土壁は氷柱の波を受け止めると、弾かれた氷の欠片が辺りに散らばった。
「ちゃんと成長してるみたいだな」
「そっちこそ」
二人はぐっと足を踏み込み、砕けた氷の上を走り出す。
「うむ、レックスはしっかり魔法を使えておるな」
降り注ぐ霜を振り払いながらポーラは深く頷く。満足そうな笑みを浮かべていて、マリカとセレナはつられて笑顔になる。
「トールもすごいよね。前はもっと成長途中って感じじゃなかった?」
「わしの一番弟子じゃからな。成長してもらわんと困る」
トールを見つめるポーラはどこか自慢げだった。
「今日は簡単に実力が見られれば十分じゃ。ほれ、二人とも終わりにせい」
ポーラが制止させようと軽く手を叩く。
「レックス、まだまだだよな!?」
「もちろん。すぐに終わるわけないだろ!」
だが、レックスもトールもポーラの合図が聞こえていないのか、楽しそうに魔法を打ち続けていた。
「……」
ポーラは静かに怒りを溜め、冷たい視線を二人に送る。そんなポーラをマリカとセレナは必死に宥めていた。
「手荒な真似はしたくないんじゃが、仕方ないのう」
ポーラは指先を動かし、空中で魔法陣を描いていく。
魔法陣はレックスとトールの背後に描かれ、魔法陣から呼び出されるように鎧を纏った二体の兵士が姿を現した。
「若者共、落ち着くのじゃ」
再びポーラが指先を動かすと魔法陣が光り、兵士がゆっくりと動き出す。兵士は拳を振り上げ、戦っている二人の頭に向けて勢いよく拳を振り下ろした。
鎧を纏った拳で殴られたせいで、二人は頭を抱えて蹲る。
「実力は確認できたから終わりじゃ。全く、話は聞くものじゃぞ」
痛みに悶える二人に向けてポーラは言い放つ。ポーラが指を鳴らすと兵士たちはふっと消えていった。
「師匠、俺らまだやれますよ。俺だって覚えた魔法使ってないですし」
「あんな未熟な魔法、使ったところでなんの得にもならん。レックスに笑われるだけじゃよ」
ポーラにあっさりと言い負かされ、言い返せなかったトールは顔を歪める。
「トール、なにか魔法を覚えたのか?」
「まだ特訓中じゃよ。そろそろ高等魔法の一つでも覚えたらいいと思ってな。ただ属性魔法の基礎があるから属性魔法を極めさせてもいいとは思っておる。嬉しい悩みじゃ」
ふふんと鼻を鳴らすポーラ。弟子が育っていく過程が嬉しいのだろうと、レックスたちにしっかりと伝わった。
「久しぶりに魔法を使ったなら疲れたじゃろう。今日は我が家で休んでいきなさい。次の行き先もゆっくり決めると良い」
「気持ちは有り難いけど、いいのか?」
「もちろんじゃ。準備をせずにネフラを発つ方が心配じゃよ」
ポーラはニコリと笑って結界を解除する。結界がなくなると、夕暮れの優しい日差しがレックスたちに降り注いだ。
「村の宿屋や酒場より盛大にもてなしてやろう。トールがな」
「俺がですか!?」
「当たり前じゃ。わしはお前を見守る担当じゃよ」
それだけ言うと、ポーラはすたすたと屋敷へ戻っていく。
「てなわけで、ゆっくりしてってくださいな」
苦笑するトールに招かれ、レックスたちは屋敷へ足を踏み入れた。
レックスたちはその後、文字通り丁重にもてなされた。トールの料理の腕も一段と上がっていて、レックスは心ゆくまでポーラの屋敷でひとときを過ごした。
各々部屋も割り当てられ、レックスたちは静かに眠りについた。




