第21話 「じゃあレックス、早くやろうぜ」
「話は変わるが、レックスとマリカは魔法の特訓はしておるか?」
ポーラの問いかけにレックスはぎくりとする。ポーラから目を逸らして遠くに視線を向けた。
「私はしていたわ。相手がいないから一人で鍛えるしかなかったけれど」
「うむ、一人でもできることはある。手合わせは相手ができたらやれば良い」
マリカの言葉にポーラは満足げに頷く。
ポーラは遠い目をしたままのレックスをじとりと見つめる。
「さて、レックス。お主が一番に魔法を鍛えるべきじゃ。時間はたっぷりあっただろうに」
「魔法を使える場所がなかったんだよ。街中で堂々と魔法を使うわけにはいかないからさ」
「では王宮でも借りれば良い。庭なら思う存分使えるじゃろう」
簡単に言うが、庶民が王宮に入れるはずがない。マリカの権限があれば入ることはできるだろうが、間違いなく場違いだしなにより気まずい。
「同じ魔族だから言えるが、魔法は鍛えなければ身につかん。日々鍛錬を積み、研鑽をすることで魔法が扱えるようになる。一日たりとも……と言えば大袈裟じゃが、鍛えない分衰えていくものじゃ」
ポーラの言うことはその通りで、レックスはなにも言い返せなかった。だが、魔法を使える場所がなかったのも事実だった。
レックスの言い分を理解したポーラは、「どうじゃ」と話を切り出す。
「またここで魔法の特訓でもしていけば良い」
「いいのか?」
「もちろんじゃ。若者の成長を見守るのもわしの務めじゃよ」
お茶をぐいっと飲んだポーラは立ち上がる。
「ほら、時間がもったいない。行くぞ行くぞ」
ポーラは鼻歌を歌いながら軽い足取りで部屋を出ていく。
いつになく気分のいいポーラに、レックスたちは呆然とポーラを見送った。
「師匠、レックスたちに会えて嬉しいんだよ。付き合ってやってよ」
ティーカップを片付けながらトールは苦笑する。
落ち着いているように見えたが、ポーラもレックスたちと同様に嬉しいらしい。レックスたちは微笑ましい気持ちになった。
戻ってきたポーラが扉からひょこっと顔を覗かせる。
「トール、なにか余計なことを言わなかったか?」
「なんでもありませーん」
「そうじゃ。お前も来なさい。特訓の成果を見せるときじゃよ」
それだけ言って、ポーラは再びいなくなる。トールは笑いながらレックスたちの方を見る。
「だってさ。俺も成長してること、レックスたちに見せてやるよ」
トールは不敵に笑う。
あのときはトールも成長途中だった。久しぶりに会った今、どれだけ成長しているのだろう。自信ありげな表情から、間違いなく格段に成長しているはずだ。
「望むところだよ」
レックスもトールに不敵な笑いを向けた。
外に出ると、ポーラが屋敷の裏に巨大な結界を張っていた。
「ここなら人目につかん。思う存分鍛えられるぞ」
以前特訓をしたときも同じように結界を張っていたな、とレックスは思い出す。
ただ、あのときより結界の規模が段違いだった。これならどれだけ暴れ回っても結界の外に出ることはないだろう。
レックスたちが揃い、ポーラが場を収めるように咳払いをする。
「始める前に、レックスは魔力の垂れ流しがなくなったのは褒めるべきじゃな」
「ポーラのおかげですっかり体に染みついてるよ」
「あのときは驚いたのう。力の源である魔力をあんなに垂れ流す魔族がいるのかと」
ポーラはふぅと息を吐く。
事実だが、過去のことは恥ずかしいからあまり掘り返さないで欲しいとレックスは苦い顔をする。
「流石の俺でも魔力は垂れ流してなかったな」
「お前は制御が下手だから同類じゃ」
レックスを笑うトールを諌めるようにポーラが呟く。
「では、現状どの程度扱えているか確認しよう。まずはマリカ」
「はい」
「属性魔法を順に剣に纏わせるのじゃ」
「分かったわ」
レックスたちが見守る中マリカは剣を抜き、息を吐いて集中する。
次の瞬間、炎が剣に巻きつくように現れた。
「よろしい、次」
炎が消え、次に水流が現れたかと思うと、再び剣に巻きつくような形になる。
「良いぞ良いぞ。次」
次に雷がバチバチと音を立て、剣の周りで弾ける。
ポーラの合図で、次は剣を中心にして風が巻き起こる。風によってマリカの髪がふわりと靡いた。
風の次は、氷が剣を強固するように現れる。氷の冷気がレックスたちに伝わるほどだった。
「最後に、地属性は地面に剣を突き立ててみよ」
マリカは剣を逆手に持ち替え、深々と地面に突き刺す。剣を中心に亀裂が広がり、地面が壁のように隆起した。
ポーラが小さく手を叩き、マリカに笑顔を向ける。
「魔道具の扱いは申し分ないな。魔法もどれも安定しておる」
「ありがとう。ポーラにそう言ってもらえるだけで自信になるわ」
さて、とポーラはレックスの方を向く。
「次はレックスじゃ。レックスは……どうしようかのう」
難しい顔をしてポーラは首を捻る。
どんな特訓が来るのかと身構えていたレックスは肩の力が抜ける。
「魔力制御もできておるし、その様子なら魔力感知も簡単じゃろう。属性魔法なんか今さら教えるものでもない。ふむ、悩ましいのう」
悩んでいる素振りを見せているが、表情は非常に明るかった。まるで教え子の成長を喜ぶような、そんな表情だった。
「まぁ、ひとまず鈍っていないかの確認じゃ。マリカと同様に属性魔法を見せてみい」
「分かった」
レックスはマリカと同じように属性魔法を披露していく。レックスの魔法をひと通り見終えたポーラは満足げに頷いた。
「うむ、お主も基礎は問題ないな。次は、トールと手合わせでもしてもらおう」
「トールと?」
「先ほどから横で待ちきれない顔をしているからのう。一戦交えれば満足するだろうよ」
レックスがトールに視線を向けると、笑顔のトールと目が合う。
「っしゃ。じゃあレックス、早くやろうぜ」
肩を回しながらトールは前に出る。レックスも小さく笑い、トールと反対側に立つ。
「レックスたちはいいよね。ポーラに魔法を教えてもらえてさ」
ポーラの横でしゃがんでいたセレナは、不満そうに口を尖らせる。
「わしから精霊様に教えることなどない。お主は自分で励め」
「はぁい」
ポーラでも海の精霊に魔法を教えるなど畏れ多いのか。拗ねるセレナを見てマリカは苦笑する。
レックスとトールが距離を取ったのを確認すると、ポーラは手を挙げる。
「それでは、手合わせ開始」




