第20話 「ようこそ。勇者の仲間が暮らす村、ネフラへ!」
「じゃあ行くか」
翌日。レックスたちは町を出て、ネフラへの道を歩き出した。
ネフラには徒歩で向かうしかなく、商人に教えてもらった道を頼りに歩く他なかった。
「いやー、昨日は楽しかったね!」
「レックスが頑張って止めたおかげでしょ」
元気よく先頭を歩くセレナに、マリカは呆れた様子で返す。
「そうだな。ベリルのときよりは飲み方は落ち着いてたよ」
「もう、セレナには甘いんだから」
レックスの言葉にマリカは大きなため息をつく。
レックスとセレナが酒場に行っていたと知ったときにマリカは驚愕したが、レックスの言うようにベリルほどの酔い方ではなかった。
だから今もいつも同じくらい元気なのだろうと、レックスとマリカはおおよそ理解した。
「そういえば、酒場の人たちもポーラの屋敷のことを知ってたんだよね。ここからネフラまで離れてるのに」
「宿屋の人が教えてくれたけど、あそこは旅人の中継地点に使われるらしいの。だから、行ってきた人がポーラの屋敷を話題に上げて、そこから情報を得たんじゃないかしら」
「なるほど、そういうことか」
納得したセレナは再び先頭を歩いていく。
セレナを温かい目で見つめるレックスは、どこかしみじみとしていた。
「なんか、あの頃を思い出すな」
「そうね。だけど、まだ視察は始まったばかりよ。それに、ポーラにもサファエルにも会えていないわ」
「二人に早く会いたいな。今どうしているんだろうな」
「ポーラもサファエルも変わらないんじゃないかしら。ポーラはのんびり過ごしていそうだし、サファエルは真面目に仕事をしているはずよ。どこかの誰かと違って」
最後のマリカの呟きを拾ったのか、セレナが勢いよく振り返る。
「なにさ、あたしだって二人が来るまではちゃんと仕事してたよ!」
「仕事をサボって私たちについてきた人に言われても説得力がないわよ」
マリカの正論に言い返せなかったのか、セレナは顔を顰める。はは、とレックスは二人のやり取りに苦笑しながら歩みを進める。
そうしているうちに周囲は田園風景へと変わり、ネフラが近づいてきたことを示す道が広がっていた。
「前来たときも思ったけど、平和だよな」
「そうね。スフェーンやベリルとはまた違う空気感よね」
穏やかで和やかな空気に、レックスたちの心は少しずつ落ち着いていった。
しばらく歩いていると、ようやく民家が見えてきた。ネフラへ到着したのだと、高揚したレックスたちの足取りが少しずつ速くなっていく。
到着すると、レックスたちの姿を見つけた村民たちがレックスたちの元へ駆け寄る。
「ようこそ。勇者の仲間が暮らす村、ネフラへ!」
村民たちは満面の笑みでレックスたちを迎えた。まるで観光地に来たときのような熱烈な歓迎に、レックスたちは戸惑う。
記憶が正しければ、以前会ったときは穏やかでこんなに活力に溢れていなかったはず。
「ネフラの人たち、こんな感じだったか……?」
「やっぱり観光地を目指しているからじゃないかしら。活気が必要だと思っているのよ」
マリカに小声で尋ねると、マリカは静かに的確な意見を述べる。
納得したレックスは依然笑顔の村民たちに視線を移す。
「あの、ポーラに会いに行きたいんですが、屋敷の場所は変わってないですよね?」
「はい。村を出て真っ直ぐ歩きますと、すぐに屋敷へと辿り着きます。そちらに勇者と共に世界を救ったお方、ポーラ・バストネス様が住んでおられます!」
興奮気味の村民に若干引きながら、レックスたちは屋敷へと向かった。
レックスたちは屋敷の場所は覚えているために、すぐに屋敷へ辿り着いた。のどかな田園風景にぽつんと建っている豪華な屋敷は、どこから見ても違和感があった。
レックスが重厚な扉を叩くと、少しして屋敷内から足音がした。
「はいはい、どなたですか。偉大な魔法使いポーラ様は暇じゃないんですよ」
扉が開くと、そこには一人の青年が立っていた。
どこか粗暴にも思える青年は、欠伸をしながらレックスたちを迎えた。
「えっと……トール、だよな?」
レックスがおそるおそる尋ねると、トールと呼ばれた青年はレックスたちをようやく視認した。
まじまじとレックスたちを見つめ、気怠そうな表情が段々と明るくなっていく。
「レックスじゃねぇか! 久しぶりだな!」
トールはレックスの手を取り、ぶんぶんと子供のように振る。
「マリカにセレナまで! 元気にしてたか?」
「えぇ。トールも変わらず元気そうでなによりだわ」
マリカたちが応えると、トールはレックスたちを笑顔で招き入れる。
「まぁ入れって。師匠も待ってるからよ」
レックスたちが屋敷に入ると扉が閉められる。
「ポーラは元気か?」
「ずっと元気だよ。元気すぎて俺が振り回されてるな」
「トールは相変わらずポーラとして過ごしてるのか?」
「そうだよ。おかげで俺が師匠として讃えられてるよ」
歩きながら大きなため息をつくトール。
ネフラの村民のあの盛り上がりについていけているのかと、レックスたちは苦笑しながらトールを心配した。
一室に着くと、トールは扉を叩いて中に入る。
部屋の中にはいくつもの人形が飾られていて、非常に雰囲気のある内装だった。
「師匠、レックスたちが来ましたよ!」
「分かっておる。そうはしゃぐな」
可愛らしい声は部屋の奥から聞こえた。
そこには椅子に腰掛け、ティーカップを持った幼い少女が座っていた。ゴシックな服を身に纏った少女は、人形と例えるのが適切な容姿をしていた。
「久しぶりじゃの。元気にしておったか?」
少女はレックスたちににこやかに微笑みかける。
「ポーラも元気そうでなによりだよ」
少女――ポーラはレックスの返答に「なら良かった」と優しい笑顔を見せる。
「まぁ座れ。今トールが茶を用意する」
「えぇ、俺がですか?」
「お前以外に誰が用意するんじゃ。さっさとせい」
ポーラに命令され、トールはぶつぶつと文句を言いながら部屋を出ていった。
「それで、今日はどうした? ただの旅のようではなさそうじゃな」
「よく分かったな。実は――」
そこから、レックスたちはポーラに経緯を話した。復興大臣になったことや各地の視察をすること、まずはベリルに向かってセレナと再会したことなど、思い出話をするようにポーラに話していった。
話を聞き終えたポーラは「なるほど」と深く頷いた。
「視察と謳って仲間に会いに行こうとするのは、なかなか賢いのう」
「俺もよく思いついたよ。みんなが今どうしてるか気になったからさ」
「こうして再会できたのじゃから、これ以上嬉しいことはない」
話しているうちに、お茶を淹れたトールが部屋に戻ってくる。レックスたちの元に置かれ、優しい香りはレックスたちの心を落ち着かせていった。
「そういえば、ネフラの人たちのことだけど……」
マリカがおずおずと話を切り出すと、ポーラとトールは顔を見合わせて大きくため息をついた。どうやらポーラもトールも話したいことは分かっているらしい。
「お主らも手厚く歓迎されたようじゃな。一村民として謝罪しておこう」
「あれはどういうことなの? 話を聞く限り、ポーラの屋敷を観光名所にしたいみたいだけど」
「それで合っておる。なにを考えたか、勇者一行の仲間が住んでいることを銘打って村を盛り上げようとしているんじゃ」
ティーカップに口をつけ、ポーラはもう一度ため息をつく。
「ポーラは反対したの?」
「わしの意見を聞かずに始まっていたんじゃ。始めたところで今さらやめろとは言えぬ」
セレナの疑問に、やれやれと呆れた様子のポーラ。
ポーラたちが反対すればやめてくれそうだが、ポーラの表情から察するに既に諦めているようだった。
「わしは隠居している身だというのに、ここを観光名所にしてどうする。寂れた辺鄙な地を選んだはずが、まさかこんなことになるとは……」
肘をつき、ポーラは大袈裟に嘆く。
「で、トールは引き続きポーラとして頑張ってるってことか?」
「当たり前じゃ。表舞台は若者に任せる」
はっきりと告げるポーラに、今度はトールが大袈裟に嘆く。
「師匠、酷いんだぜ。『わしは目立ちたくない』って駄々を捏ねるからさ」
「駄々は捏ねておらん。これまで影武者として過ごしていたのじゃから、これからもトールにはポーラとして過ごしてもらう」
毅然とした態度のポーラ。トールは「こんな感じだから、仕方なくな」とふっと笑った。
ポーラもトールも苦労しているのだと、レックスたちは二人の表情から悟る。
「ただ、村の人々が今回のことをきっかけにして元気になるなら、わしからはなにも言えないと思ってな」
そう言うポーラは村民を慈しむ表情をしていた。
嫌なのは違いないが、ネフラの人々には活気を手に入れて欲しいという複雑な心境なのだろう。




