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第19話 「お兄さんたちも観光かい?」

Side.復興大臣時代

「ありがとねー!」


 ベリルを出発し、地上の近い港町に到着したレックスたち。

 海に(もぐ)っていく潜水艇(せんすいてい)に手を振ったセレナは、レックスの方に振り返る。


「レックスたちは、次はどこに行くの?」

「ポーラのところだな。旅と同じ道を辿(たど)ろうと思ってるんだ」

「それいいね! じゃあネフラに向かう馬車に乗せてもらわなきゃ」


 レックスたちが降り立った港町は、スフェーンとはまた違った栄え方である。行路(こうろ)が広く各地への物流が活発なため、多少辺鄙(へんぴ)な地域へも馬車が出ているくらいだった。

 レックスたちは馬車の行き先を訪ねていると、ネフラに向かう途中までの馬車が出ていると教えてもらった。


流石(さすが)にネフラは遠いからね。でも、近くの町までなら連れて行けるよ」

 商人の優しさにレックスたちは感謝し、馬車に乗ってネフラの近郊へと向かった。


「こうして馬車に乗るのも(なつ)かしいわね」


 馬車に揺られながら、マリカは身を乗り出して周りの景色を見渡す。

 港町を抜けたらすぐに港町特有の(にぎ)やかさはなくなり、草木が(しげ)る森林風景へと変わっていった。


「お兄さんたちも観光かい?」


 少し経った頃、雑談がてら商人がレックスたちに尋ねる。

 旅を言えど仕事。観光で各地を巡っているわけではないレックスはすぐに否定する。


「いえ、違いますけど……」

「そうか。わざわざネフラに向かうなんて、観光目的かと思ったよ」


 レックスはネフラの光景を思い出す。

 特にこれといった特産物もなく、小さな宿屋と酒場があるだけの(さび)れた村。辺鄙な立地なのもあり、訪れる人はほとんどと言っていいほどいなかった。


「観光って、ネフラにはなにもないですよね?」

「前まではね。ただ、今は世界を救った仲間の屋敷があるからね」


 商人の言う仲間を、レックスたちはすぐに頭に思い浮かんだ。商人はレックスたちの相槌(あいづち)を待つわけではなく、一人で語り続ける。


「これまでは幽霊屋敷だなんて呼ばれていたらしいが、今は旅人たちが一目見ようと訪れている。ネフラの人たちも観光地にしたいみたいだよ」


 村おこしってやつだね、と商人はカラカラと笑う。


(ポーラの屋敷がそんなことになっているなんて……)


 商人の話を聞いて、レックスは相槌の代わりに乾いた笑いをこぼす。

 ただでさえ隠居(いんきょ)していて静かに暮らしたいと言っていたのに、観光地にされたらたまったものではないだろう。


「この人、あたしたちがポーラと一緒に旅したって気がついてないのかな?」

素性(すじょう)を明かしていないのだから分からないわよ。パレードで顔を明かしたわけでもないし、知っている人は限られるわ」


 マリカとセレナの小声で繰り広げられる会話を聞きながら、レックスは一人で納得していた。

 レックスやマリカ、セレナはそれぞれスフェーンとベリルで世界を救った者として(たた)えられている。だが、それもその土地でのこと。そこを離れてしまえば、レックスたちが世界を救ったことなど噂でしか語られない。

 しかもレックスたちの現在の格好は旅人に近い。商人の言うように、勇者一行の屋敷を一目見たい旅人に思われているのだろう。


「屋敷の主人は表に姿を現さないようでね。商人の間でも一体どんな人なのかと噂が立っているよ」


 ポーラの姿を知るレックスたちからしたら、商人の話は面白おかしく聞ける内容である。ただ、当人からしたら全く面白くないと一蹴(いっしゅう)されるに違いない。


(ポーラ、元気にしてるといいな)


 穏やかな風を感じながら、馬車はネフラへの道のりをゆっくりと進めていった。


「それじゃあ、ここまでだね」

「はい、ありがとうございました」


 商人はレックスたちへのにこやかな笑顔を最後に、馬車を走らせる。レックスたちは馬車が見えなくなるまで見送った。

 空の色は変わり、遠くに見える山々に日が沈み始めていた。


「今日はここに泊まる必要がありそうね」

「そうだな。あの人からネフラへの行き方も教えてもらえたし、準備をして明日向かおうか」


 レックスたちが降り立ったのは小さな町。先ほどの港町ほどではないが、交易品が並ぶ店などがあり、のんびりと過ごすには最適な町だった。


「私は先に宿屋へ向かっているわ。レックスたちは町を見てゆっくりしていて」

「なにかあるのか?」


 レックスの問いかけにマリカは(うなず)く。


「お父様への報告書をまとめたいの。ベリルでは急遽(きゅうきょ)話し合いに参加したし、充実した内容が書けるはずよ」

「そういうことか。そうしたら俺たちはあとで宿屋に向かうよ」

「分かったわ。またあとでね」


 マリカは宿屋へと歩き出す。セレナは不思議そうにマリカの後ろ姿を見つめていた。


「なんの話?」

「マリカは王様に視察をしたら報告書の作成をしろって言われてるんだ」

「へー、大変だねぇ」


 尋ねた割にさほど興味のない反応で、レックスは苦笑する。


「じゃあレックス、行こっか」


 レックスの手を引いてセレナは歩き出す。突然のことにレックスは戸惑(とまど)いながらもセレナについて行く。


「どこにだ?」

「もちろん酒場だよ!」


 満面の笑顔を見せるセレナに、レックスは少々引き気味な表情になる。


「昨日あれだけ飲んだだろ」

「今日は平気! それに、ポーラのこととか情報が手に入るかもしれないし!」


 取ってつけたような発言に、レックスは反論するのを諦めた。


「……仕方ないな」

「やったー!」


 海の精霊がこんなに欲まみれだと知られたら、周囲にどんな反応をされるか。

 考えるのをやめたレックスは、意気(いき)揚々(ようよう)と歩き出すセレナについていった。

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