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第15話 「次はどこに行くか決めてるの?」

「あら、セレナちゃん。いらっしゃい」


 レックスたちが訪れたのは服屋。下半身が魚の――人魚族の女性店員が笑顔でレックスたちを迎えた。


「そちらはお知り合い?」

「そうなの! さっき友達になったんだ!」


 良かったわね、と店員はくすくすと笑う。まるで近所の子供を()めるような雰囲気だった。


「許可制で地上から商人が来るから、地上の服もいくつかあるんだよ」


 セレナは店の中をぐるりと案内し、いくつか服を取って見せる。確かに、地上で人々が着ているような服が陳列(ちんれつ)されていた。この店だけ見ると、海の中とは思えない雰囲気がした。


「これとか良さそうね」

「でも、俺たち金は持ってないぞ」


 レックスに言われてマリカは気がつく。持ち物と呼べるのはマリカの護身(ごしん)用の剣のみ。これを売って金にするしかないか。

 悩むレックスたちの間に、セレナが割って入る。


「ふふん、ここはセレナ様が特別に買ってあげよう!」


 鼻を鳴らすセレナに、レックスたちは「え」と声が出る。


「いいのか?」

「この前手伝いをしたときのお駄賃(だちん)があるからね。ちょっとくらい平気だよ!」


 あまりにも自信たっぷりに言うものだから、レックスたちは勢いに負けて苦笑する。


「それじゃあ、お願いしようかな」

「任せてよ。あたしは海の精霊だからね!」


 服を選び始めたレックスたちだが、ふとマリカが手を止めてセレナを見る。


「さっきから言っているけど、海の精霊ってなんのこと?」

「海を大昔から守ってきた偉大な存在よ」


 マリカの疑問に答えたのは店員の人魚。

 壁よりさらに遠くを見つめる視線は、広大(こうだい)な海を眺めているようだった。


「ベリルだけでなく海全体を守る神様みたいなものね。そんなすごい存在をセレナちゃんは昔から自称してるのよ」

「あたしはずっと言ってるのに、誰も信じてくれないんだよ!」

「どこから来たのかも分からない子を、誰も海の精霊だなんて思わないわよ」


 セレナの主張を簡単に蹴飛ばし、店員の人魚はケラケラと笑う。

 自分は神様だと宣言しているようなものか。レックスたちはセレナがなかなか壮大なことを言っているのだと理解した。


「でも、セレナちゃんは昔から見た目が変わらないわよね」

「そうだよ、海の精霊だからね!」


 セレナは何度目か分からない主張を高らかに言う。

 レックスたちは苦笑いをしながら服を選んでいく。少し経てば各々(おのおの)必要なものが(そろ)い、レックスたちの服装は冒険者らしい装いに変わっていった。


「うんうん、二人とも似合ってるよ!」

「お二人ともお似合いですよ。それでは、金額はこちらです」


 店員はセレナだけに見えるように伝票を見せる。セレナは一瞬目を()いたように見えたが、すぐに笑顔を取り戻す。


「あ、あたしは海の精霊だからね。このくらい任せてよ!」

(予想より高かったんだな……)


 セレナは笑顔で誤魔化(ごまか)したが、レックスもマリカもなんとなく金額を察した。

 ただ二人とも持ち合わせがないため、全てをセレナに(たく)すしかなかった。


「お買い上げありがとうございましたー」


 店を出ると、レックスとマリカの格好は入店前とはすっかり変わっていた。

 二人の後ろを、しょぼしょぼとセレナはついていった。どこか(しな)びているように見えたのは気のせいかもしれない。


「セレナ。気持ちは(うれ)しいけど、本当に良かったのか?」

「もちろん! 二人の旅のためだからね!」


 レックスが問いかけると、セレナは力強く答えた。

 会って間もない人にここまで優しくしてくれるのかと、レックスとマリカはセレナに感謝の気持ちでいっぱいだった。


「そうだ、二人に食べて欲しいものがあるんだ!」


 笑顔を絶やさず、再びセレナを先頭にして歩き出す。

 セレナに連れてこられたのは可愛(かわい)らしく(さわ)やかな外装の屋台だった。


「おじちゃん、こんにちは!」

「やぁ、セレナちゃんじゃないか。今日も食べに来てくれたのかい?」

「うん。あとは友達も一緒に!」


 セレナは元気よくレックスたちを紹介する。

 店主らしき魚人はレックスたちを見て、気さくな挨拶(あいさつ)を投げかける。


氷菓子(こおりがし)三つでいいかな?」

「お願いしまーす!」


 店主の魚人は笑顔で受け答えをしたあと、提供の用意を始めた。


「氷菓子。ベリルでは定番のお菓子だよ!」


 地上では聞いたことのない名前に、レックスとマリカは期待して氷菓子なる商品の完成を待った。

 同時にセレナの財布事情を心配したが、二人は黙っておくことにした。


「お待たせ。これが氷菓子だよ!」


 セレナから渡されたのは、透明な貝殻の器に盛られた氷。一見すると氷を細かく砕いただけのように見える。


「まぁ食べてみてよ」


 不敵に笑うセレナ。

 物は試しだと、受け取ったレックスたちは氷菓子を口に入れる。


「お、美味(うま)いな」

「本当ね。ただの氷かと思っていたのに」


 レックスたちの感想にセレナはふっと笑う。まるでその反応が来るのが分かっていたかのように。

 氷はふわりと柔らかく、甘味(あまみ)がふんわりと伝わってくる。甘い中にほんのりと塩味がして、甘味をさらに引き立てていた。


「地上にはこんな美味(おい)しいお菓子はないでしょ」

「そうかもな。教えてくれてありがとな」


 レックスにお礼を言われると、セレナは「えへへ」と照れていた。

 広場にベンチがあったので、レックスたちは腰掛けてゆっくり氷菓子を味わうことにした。

 氷菓子を嬉しそうに味わうセレナは、「そうだ」と思い出したようにレックスたちの方を見る。


「レックスたちは、次はどこに行くか決めてるの?」


 セレナの問いに、レックスたちは顔を見合わせたあとに首を振る。


「それが決まってないんだよな。ここも偶然辿(たど)り着いたようなものだし」

「手がかりもないから、まずは情報を集めるしかないかと私は思っているわ」


 二人の言葉に、セレナは感心したあとにニコリと楽しげに笑う。


「旅って感じがしていいね」

「明確な目的地がないから、目的地を決めるのも必要かもしれないわね」

「確かに。目標があるだけでやる気が出るもんね」


 にこやかに答えるセレナ。

 今後の旅の目標は早めに決めた方がいいなと、氷菓子を口にしながらレックスは考えた。

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