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第12話 「信じてみようよ、魚人と人魚以外を」

「えっと……俺たちが来たときには、ベリルは人間を受け入れていましたよね。あのときと同じようにはできないんですか?」

「あれは商人や外交官など、許可を得た特別な者だけだ。大々的に受け入れていたわけではない」


 自分たちは今回と同様に、セレナという特別な存在がいたから許可を得ていた。ならば、簡単に一般市民に入国許可を出すのは難しいか。


「大臣殿が来る以前から、何度か許可を得た者の海賊(かいぞく)行為があった。その頃から私は人間を怪しいと思っていたんだ」

「俺たちが来たときは海賊行為を防ぎました。それじゃあ駄目(だめ)なんですか?」

「一度きりを防いだとは言わぬ」


 大臣にぴしゃりと言われ、その通りだとレックスは口を閉じる。

 たまたまレックスたちがいたからあのときの海賊行為は防げたのであって、それより前のことは防げていなかった。仕方ないと言えば仕方ない話だが、全てを防げていないのもまた事実だった。


「入国審査を厳しくすればいいんじゃないですか? それなら海賊行為をする人はいなくなるはずです」

「厳しくしたとて、本当にいなくなるとお思いか?」


 確実とは言えなかった。許可制を逆手に取って海賊行為をした者がいるのだから。

 レックスは言葉を詰まらせながら、「ですが」と言葉を続けようとする。


「はーい」


 すると、部屋の端で見守っていたセレナが手を挙げる。全員の視線が一斉(いっせい)にセレナに集中する。


「じゃあさ、許可出すのあたしの権限にさせてよ」

「セレナ様の?」

「あたしの力があれば簡単だよ」


 確かに、セレナの力があれば人の善悪を見抜くこともできるだろう。セレナの持つ力はそれくらい強大だから。

 思わぬ提案にレックスだけでなく、大臣たちも驚いて声が出なかった。


「それでは、セレナ様のご負担が……」

「ベリルの平和のためなら、そのくらいへっちゃらだよ」


 セレナは満面の笑みで応える。

 しかし、と大臣たちはどこか納得できない反応だった。セレナ一人に任せるのがどうしても引っかかるのかもしれない。


「それとも、貿易目的ではなく観光業とかはどうですか? ベリルのような場所は地上にはないですし、新鮮に感じられると思います」


 レックスもスラムとスフェーンの(わず)かな土地しか知らない。だが、ベリルに来たときの感動は忘れなかった。その感動を他の誰かにも味わって欲しかった。

 レックスの突拍子もない、新たな提案に大臣たちはざわつく。怪訝(けげん)、驚きといったいくつもの視線がレックスに降り注ぐ。


「観光となると、まず環境保全(ほぜん)の問題が関わってくる。珍しい環境だからこそ、少なからず環境を破壊する者は出てくる」

「治安維持も大変になる。外の者を入れるのがどれだけ危険なことか」

「観光の利益もたかが知れている。ベリルは名物もないただの海中都市だ」


 大臣たちのもっともな意見に、レックスは唇を噛む。やはり、ただ思いついた意見を述べるだけでは通らないか。


「発言してもよろしいでしょうか」


 手を挙げたのはセレナの横に座っていたマリカだった。


「スフェーンの王女殿下ですか。どうぞお話しください」


 小さく礼をして、マリカは立ち上がる。


「レックスの案は前向きに考えてもいいかもしれません。無差別に全ての人を受け入れるのではなく、例えば、きちんと窓口を作るのはどうでしょうか。選別された客人を迎えればベリルの地位は守られ、(かろ)んじられることはないかと思います」


 マリカは誠実に、落ち着いて意見を述べていく。

 自分の何気ない発言がここまで拾われるとは思わなかったのか、レックスはぽかんとしてマリカの話を聞いていた。


「人々を見極めるのはセレナだけに頼るのではなく、天使族や悪魔族もいます。魔族がいれば、ベリルの警備としても機能します。これだけでもセレナの負担はだいぶ減ります」


 マリカの横でセレナは腕を組んでうんうんと(うなず)く。

 それなりに現実的な意見が出たことで、大臣たちも納得した様子で話を聞いていた。


「それじゃあ――」

「だが、人手を集めることや資金についてはどうする。その段階で悪人が紛れ込んでしまえば元も子もない」


 一人の大臣が重々しく口を開く。

 それは誰もが抱えていた懸念(けねん)点だった。資金()りはもちろん、人手を集める段階で魚人や人魚以外の手が入る。そこで崩れてしまったら計画は総崩れになってしまう。

 張り詰めた静寂が訪れる中で、セレナが静かに立ち上がる。


「そうやってさ、気にしてばっかりだとなんにも進まないよ」

「セレナ様……」

「信じてみようよ、魚人と人魚以外を。みんなが思ってるより、意外とみんないい人だよ。あたしが旅をしたから自信を持って言える」


 セレナはレックスとマリカを一瞥(るび)して笑う。

 強張(こわば)っていたレックスとマリカは、セレナの言葉に顔を見合わせて微笑んだ。

「それにね、この前子供たちにあたしの旅の話をしたんだ。そしたらみんな地上に(あこが)れ始めたんだよ。子供たちは希望を持ってる。だから、少しだけ未来に目を向けようよ」


 セレナは子守唄のように、大臣たちに優しく静かに訴えかけた。

 レックスの脳裏に浮かぶのはスラムの子供たち。純粋な子供たちに旅の話をしたら、きっと同じ反応をしてくれたに違いない。それくらい、違う世界は魅力的に感じるのだから。


「……やってみようではありませんか」


 一人の大臣が、小さくふっと笑う。


「セレナ様の言う通り、踏み出さなければなにも始まらない。それから結論を出しても遅くないのではないかな」


 その言葉を皮切りに、「そうだな」「では、早速資金調達を」「まず王にご報告を」と新しく話が進んでいく。


「やったね、レックス」


 セレナがこっそりとレックスに近づいて、大臣たちに見えないところに手を差し出す。

 レックスは微笑みを返して、セレナと静かに手を合わせた。

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