王都
次の日、予定より一日遅れで出発した俺たちだが、その後は何事もなく順調に進んでいった。そして明日ようやく王都に到着する。
今日は王都の一つ手前の街で一晩明かし、明日の夕方ごろには王都に着く予定だ。
「明日ようやく王都に着くな。15日って長いかと思ったけど実際に移動してみるとあっという間だったな」
「そうですね。今回は依頼で来ましたが、依頼主がご主人様の知り合いだったので護衛依頼というよりも旅行みたいでしたから」
「そうだね、ゴズさんにはだいぶ良くしてもらってるからな。初護衛依頼がこの依頼でよかったのか悪かったのか」
王都一つ手前の街に入り、一息ついた俺たちはそんなことを話しながら夕食を食べていた。
ゴズさんはというと、この街に来る途中の街道で偶然出会った魔道具職人の人たちとお酒を飲みに行っている。明日の朝出発するので飲みすぎないようにと伝えたが、正直どうなるかわからない。
俺たち全員はお酒をほとんど飲まないので、今日ゴズさんが羽目を外して飲みすぎないかとても心配だ。
夕食を済ませた俺たちは各自部屋に戻って明日に備えた。ちなみに俺はゴズさんと同じ部屋なのだが、いつも寝る時間になってもまだ帰ってこなかった。
朝起きて隣のベッドを見るとゴズさんが寝ていた。もしかしたら帰って来ないかもしれないと思っていたので少しほっとした。
しかしゴズさんを起こすと案の定体調を悪そうにしていた。
「ゴズさん大丈夫ですか? いったい何時まで飲んでいたんです?」
「何時までってそりゃあ朝まで飲んでたに決まってんだろ。お前たちは今から朝ごはんだよな、俺は食べられそうにないから4人で食べててくれ。出発の時間になったら起こせよ」
そういってゴズさんはまたベッドに戻った。
俺たちは朝食をいつもよりゆっくり済ませ、ゴズさんを起こしたあと宿を出発した。馬車の中でもゴズさんは横になって眠っていた。
昼食のタイミングで起きてきたゴズさんだが、とても体調が悪そうだった。
「ゴズさん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。くそ、飲みすぎた。頭いてぇ」
「もう本当に飲みすぎはやめてくださいよ。どうするんですか、これで間に合わなかったら」
「ったく、わかってるよ。まったく女房みたいなこと言いやがって」
「え、ゴズさん結婚してるんですか?」
「あぁいるぞ。子供もな」
昼食を食べ終えた俺たちはすぐに出発した。
朝、予定よりだいぶ遅く出発した俺たちは夕方ギリギリの時間になってようやく王都に到着した。王都の周りにはとても広大な農地が広がっており、ほかの場所では見られなかった城壁の外に民家があった。
気になって調べてみたのだが、騎士団が定期的に見回っており各方角に駐屯所が設置されているため、安全は保たれているそうだ。
「王都はすごいですね。こんなに大きな畑が広がっているなんて」
「ははっ、すごいだろ。王国の農作物の半分はこの王都で作られてるんだぜ」
俺が畑に感動していると、昼食後も横になって休んでいたゴズさんが起きてきて説明をしてくれた。それにしてもここだけで王国の半分も生産されているとは。
「それはすごいですね。ゴズさん、もう体調は大丈夫なんですか?」
「あぁ。世話になったな。もう大丈夫だ」
「それで王都に着きましたが、今後の予定はどうするんですか?」
「まぁ俺は昔の仕事場に顔を出したり、古い友人に会ったりと研究発表会以外にもやることはたくさんあるな。それで、お前さんたちはどこで何するのか決めてんのか?」
そう俺たちは王都で2週間程度滞在して帰りもゴズさんを護衛するという依頼だ。2週間自由時間があるが何をするかまだ決まっていない。
「まずは宿探しからですかね? とりあえず滞在期間中泊まる宿を探さないといけないので。それ以外はまだ何も、とりあえず観光からですかね」
「それなんだがよ、お前たちの宿はもちろん用意してある。滞在中の宿は気にしなくていいぞ。もちろんお代はこっちもちだ」
「いいんですか? そこまで払ってもらっちゃって」
「いいんだよ。それでお前、まだ何も決まってないって言ったな。それならお前も魔道具研究発表会に来ないか?」
「それはとても気になりますけど、そもそもそこって部外者が入れるところなんですか?」
「まぁ普通は無理だな。だがそこはコネでどうにかするからよ。俺が研究していた魔道飛空艇を完成できたのは、間違いなくお前のおかげだと思っている。正直お前の手伝いがなければ俺は一生完成させることはできなかっただろう。だからお前には発表会に出る資格は持っていると思う。それにお前も魔道具作りが好きなんだろ? だったらいろいろなアイディアが集まるあの場所は最高だと思うぜ」
「わかりました。もし行けるならぜひ参加したいです。参加できることが決まったら教えてください」
街に入った俺たちは、今までの街とは違い、冒険者ギルドに最初に行くのではなく、まずは運んできた魔道飛空艇の模型を運び込むべく国家魔道具研究所に来ていた。
「これはまた大きな建物ですね」
大きさで言えばオルーシスの街の冒険者ギルドの倍はあるだろう。さらにそれだけではなく、とても豪華な装飾まで施されていた。
俺も圧倒されて見上げていたが、後ろを振り向くと他の3人も同じように見上げて口をあんぐり開けていた。
ゴズさんはというと向こうの職員の方と話しながら慎重に模型を運んでいた。正直あれほど真剣な顔をしたゴズさんはあまり見たことがない。
さすがに向こうの職員もゴズさんの真剣さに圧倒され、緊張しながら運んでいた。
模型を運び終えた後、冒険者ギルドで依頼の報告を行った。
往復の護衛依頼の場合、目的地に着いた時には報告に行かなければいけないという義務がある。
ちなみに護衛依頼の最中はほかの依頼を追加で受けることは不可能なのだが、往復で護衛先で滞在時間がある場合、その間は依頼を新たに受けることができるらしい。
冒険者ギルドを出たらそこで俺たちとゴズさんは解散した。
「では魔道具研究発表会の件とここを出発する日が決まりましたら改めて連絡をください」
「おう。わかったぜ。お前たちも王都を十分に楽しんできてな」
なぜ冒険者ギルドで別れたのかというと、ゴズさんは知り合いの家に滞在することになっているらしい。なんでもこの国の貴族の方なのだとか。
ゴズさんが昔研究所で働いていた時、ゴズさんの研究に出資をしてくれていた人の家らしい。
「じゃあ俺たちは宿に行こうか」
「はい。そうですね」
ゴズさんに教えてもらった通り宿に向かうと、そこはとても高級そうな宿だった。
「いらっしゃいませ。ようこそグランツ商会本店付属の宿へ。お客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
宿の扉をくぐると、中は前世のホテルのようにキレイなエントランスだった。ホテルスタッフがきれいに並んでおり、そのうちの一人が話しかけてきた。
「えっとレインです」
「レイン様ですね。私は今滞在中に専属スタッフとしてつかせていただきますカレンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
そういって丁寧なお辞儀をされた。
「よろしくお願いします」
後ろ3人はというと、この空間にとても居心地が悪そうにしていた。俺だって正直こんな場所、場違いだと思っている。しかしスタッフの方たちは何も違和感なく接してくれている。さすがプロって感じだ。
「まずはこちらにサインをお願いします」
案内された個室で書類を出された。中を見ると、ただの受付のための書類なのだが、とても高級そうに作られていた。
サインをするとカレンさんが書類をもって部屋から出て行った。
「ふぅ。めちゃくちゃ緊張するな。セルディアの街の時の数百倍は場違いだったぞ」
「そうですね。なんだか変な気分です」
そう答えたのはエルシアだった。シノとリュゼはというと。
「あんな丁寧な対応をしてもらったのは生まれて初めてです」
「そうですね。私たちが奴隷だとわかっても全く態度を変えませんでしたし」
どうやら幼くして奴隷になった2人はこんな対応はされたことないらしい。かくいう俺もこんな丁寧な対応をされたのは前世を含めても初めてだ。
俺たちが少し雑談をしていると部屋の扉がノックされ、返事を返すとカレンさんが戻って来た。しかし、その後ろには出て行ったときにはいなかった男性がもう一人一緒に入ってきていた。
カレンさんは若い女性のスタッフだが、もう一人の男性は初老の紳士のような人だった。
「お待たせいたしました。レイン様。手続きが完了いたしましたので、こちらルームキーになっております」
そういって渡されたのは魔鉄でできた魔道具だった。装飾されていてわかりづらいが、ルームキーには魔道回路がしっかりと刻まれていた。
渡されたルームキーは4枚で人数分だ。カレンさんの説明によると、どうやら部屋の出入りやレストランの出入り、ほかにもホテルに入っている施設の出入りに使用するそうだ。ちなみになくすと弁償らしい。気になって値段を聞いてみると大金貨1枚らしい。
カレンさんは一通り説明を終えると席を立ち、その後ろに回って姿勢を正した。
そうすると今まで横で黙っていた老紳士が話し始めた。
「レイン様。ようこそいらっしゃいましたグランツ商会本店へ。私、グランツ商会の会長を務めておりますグランツと申します。この度は我が商会のホテルをご利用いただきありがとうございます」
カレンさんが後ろに立って姿勢を正したので偉い人だとは思っていたが、まさか会長だとは思っていなかった。
「えっと。レインです。こちらこそ丁寧な対応をしていただきありがとうございます。それでグランツさんはなぜ私のことを知っているのでしょうか? わざわざ商会の会長直々にあいさつされるような身分でもないと思いますが」
「いえいえ、とんでもない。レイン様は我が商会の貴賓でございます。レイン様が我が商会に代理で出品していただいたクリスタルホーンラビットの角のおかげで王宮からの覚えがよくなりまして、本当に頭が上がりません」
「いえ、私は大したことは何も。ただ私も処分に困っていたので、グランツ商会に代理出品していただいてとてもありがたかったです」
「そうですか。それでも本当にありがとうございました」
そういうとグランツさんとカレンさんが深々とこちらにお辞儀をした。
「あ、頭を上げてください。そんな頭を下げられるようなことは何もしていませんので」
そういうとグランツさんとカレンさんが顔を上げた。
そのあとは軽くグランツさんと会話をした。
「ではありがとうございました。この宿に滞在している間は精一杯おもてなしさせていただきます。今後とも我が商会をよろしくお願いいたします」
そういうとグランツさんは部屋を出て行った。
そのあと俺たちはカレンさんに案内されて部屋に着いた。案内された部屋だが最上階の部屋で、間違いなくこのホテルで一番の部屋だろう。
なぜそんなことがわかるのかって? だって最上階すべてが俺たちが泊まれる部屋なのだ。
部屋で荷物を下ろした後、夕食を食べた。
夕食は下のレストランで食べるのではなく、すべての料理が部屋に運ばれてきた。並んでいる料理は俺たちが見たことない物ばかりだった。前世で言うフランス料理のようなものだ。
運ばれてきた料理に舌鼓を打ち、食べ終わると結構いい時間になっていたのでその日はすぐに眠った。
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