森の異変
シノが見かけた異変というのはウェアウルフの一団だ。なぜその一団が異変だと思ったのかというと、明らかに群れの数が多かったからだ。
ウェアウルフは基本5~6匹の群れで行動するのだが、シノがさっき見かけた群れは15匹を超えていたらしい。普通では考えられない数だ。
群れの数が通常より多い場合、群れのボスがいる可能性が高いとされている。ちなみにウェアウルフのボスというのはキングウェアウルフだ。
キングウェアウルフは一体でもAランク、群れと一緒ならSランクの魔物だ。もしそうなら普通の冒険者に対処できるレベルを超えている。
もちろん俺たちも襲われたら生存確率は限りなく低いだろう。しかし冒険者は異常を発見したら知らせる義務がある。もしその報告を怠った場合、最悪冒険者資格の剥奪もあり得る。
だから危険とわかっていても調べないわけにはいかないのだ。
正直ウェアウルフの数が多いと知らせてもいいのだが、それだけで報告しても少し情報が足りない。冒険者ギルドから改めて偵察が来るには時間がかかる。それまでに被害が出てしまっては遅いからだ。
午前中と同じくシノに偵察を任せて、俺たちは森の浅い部分を探索した。
シノが返ってくる前にレッサーボアを解体した場所に行ったのだが、明らかに午前中とは違っていた。
「これは狼型の動物の痕だな」
「はい。さきほどのシノの報告から予想するにウェアウルフの可能性が高いでしょう。予想ですがレッサーボアをここで解体したときの血の匂いを嗅ぎつけ、ここまで来たのでしょう」
それにしても傷の痕が明らかに多すぎる。5匹や6匹では済まなそうだ。
すると突然森の奥から声を上げながらシノが走ってきた。
「ご主人様。敵がこちらに来ています。今すぐ逃げましょう。多分ですがこの場所を監視されていたのだと思います」
「ちなみに魔物と数は?」
「気配的にはウェアウルフの群れです。数は10匹程度かと。それ以外は感じられません」
「逃げ切れると思う?」
「そうですね。全力で逃げても森を抜ける前に追いつかれてしまうかと。最悪私とリュゼが足止めしますので、ご主人様はお逃げください」
もしキングウェアウルフが来ているなら逃げるしかなかったのだろうが、多分今こちらに向かっているのは偵察だろう。
「いや。できるだけひきつけて全滅させよう。シノの気配察知でもキングウェアウルフが感じられないなら俺たちで対処できるだろう」
俺はともかくリュゼとシノならウェアウルフの群れくらい数が多くても余裕で対処できるだろう。
「どこか待ち構えるのに向いてる場所はある?」
「それなら少し先によさそうな地形がありますので、そこまで案内します」
そう言うシノの後について俺たちはすぐに行動を開始した。
シノが案内してくれた場所は川沿いにある岩場だ。
ウェアウルフが来る位置的には川の対岸のため、川を渡っている隙に攻撃をするという作戦だ。
いくら魔物といっても川を渡るときは足が遅くなる。そこを狙えばある程度こちらに渡ってくる前に数を減らせるだろう。
位置についてから3分ほどするとウェアウルフが対岸に現れた。
ウェアウルフは一直線にこちらに突っ込んでくるので作戦通りに進めることができた。
数は12匹で明らかに通常よりも群れの数は多かった。
「レベルはほぼ全部一緒で28レベルだ。一体30を超えてるやつがいるから気を付けてくれ」
俺は鑑定した結果をリュゼとシノの二人に聞こえるように大きな声で伝えた。
ウェアウルフたちが川を渡り始めたので、俺とリュゼが作戦通り弓と魔法で攻撃を開始した。
シノはというと、隙をみて攻撃する準備とキングウェアウルフが周囲に来ていないかの警戒だ。
作戦通り水の中では魔物の動きも遅くなるらしく、渡り終える前に5匹仕留めることができた。しかしまだ敵は7匹も残っている。
ウェアウルフたちは仲間が死んでも怯む様子もなくこちらに一直線に迫ってくる。俺は岩場の上から弓を撃ち続けているが、やはり地上に出てきたウェアウルフは素早く、なかなか弓が当たらない。
リュゼはというとウェアウルフたちが川を渡り終えた時点で岩場から降りて接近戦の準備をしていた。
「くそ。早すぎるだろ。当たる気がしない」
「ご主人様。ヴェルディアスの時のように私が足止めしますので、そのすきに攻撃をしてください」
「わかった。気をつけろよ」
もうすぐ近くまでウェアウルフたちが迫ってきているので作戦を変える余裕はない。危険だがやるしかないのだ。
次の瞬間にはリュゼ対ウェアウルフの戦闘が始まった。俺は心配していたのだが、リュゼは俺が思っていたよりもだいぶ強かった。7対1ですべての攻撃を凌ぎ切っていた。
俺はリュゼが盾で弾いたものや剣でけがを負って動きが鈍ったものを順番にとどめを刺していった。
少しするとシノが戦闘に参加し、5分ほどで片が付いた。
「ご主人様。周りに気配はありませんが、しっぽだけ回収してすぐこの場を離れましょう。次いつ襲われるかわかりません」
俺たち三人はウェアウルフのしっぽを回収して死体は魔法で燃やした。ほとんどの魔物は火を嫌がるので、これである程度時間は稼げるだろう。
こうして俺たちは何とかウェアウルフを撃退し、森を脱出することができた。
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