自分の工房
ランクアップをした次の日、俺は屋敷の離れに来ていた。前にここに来たときはさらっとしか見ていなかったのだが、今回は工房の設備の確認などをするつもりだ。
リュゼとシノの二人には自由行動を言い渡したのだが、結局俺の後ろを小鳥のようについてきている。
「さすが商会が管理していただけあってきれいに保たれているな。これなら掃除は必要なさそうだな」
中は結構広く、鍛冶ができる場所にそれ以外の作業ができるスペースまである。試しに炉に火をつけてみようと思ったのだが、燃料になる炭がなかった。
ちなみにこの世界で鍛冶に使われている燃料は石炭だ。前世の日本だと木炭が主流だったのだが、こっちでは石炭らしい。もっとも現代になってからはガスで動く炉もあったらしい。
工房には鍛冶や魔道具作成に必要な道具が一切なかった。多分前の主が引っ越しの時に全部持って行ったのだろう。俺は一度工房を出て道具を買いに行くことにした。
まずは炉の稼働に必要な石炭を買った。石炭を売ってる場所がわからなかったので、前にスキル習得のためにお邪魔した鍛冶屋さんに聞いて何とか購入できた。
ついでにそこには鉱石もたくさんあったので、何種類かの鉱石をある程度買い込んだ。
次に錬金術に必要な魔道具を買いに行った。これは自作してもよかったのだが、結構安い値段で買えるらしいので買うことにした。
金物屋では鍛冶に使う槌や火箸、木工に必要な鋸や鉋に鑿などを購入した。ついでに庭の手入れに必要な道具も買おうかと思ったのだが、全部魔法でできるから大丈夫だとリュゼに言われて驚いた。
次に行った小物屋さんでは裁縫に必要な道具をそろえた。今回は付いてきてくれているシノにどんな道具がいいか聞きながら購入した。
最後に陶芸に必要なものなのだが、これについてはさっぱりわからないのでゴズさんのところに行き相談することにした。
「こんにちは。ゴズさんいますか?」
工房の中に入り、魔道具作りを学んでいた時に仲良くなった人にゴズさんがどこにいるか聞いた。
「師匠なら奥の部屋にいると思いますよ。レインさんなら入っても何も言われないと思いますし、どうぞ行っちゃってください」
ちなみにあの飛空艇の模型が置いてある部屋は、この工房の従業員でもほとんどの人が立ち入り禁止らしい。
「わかりました。行ってみます」
そういって俺は奥の部屋に向かった。
「二人はここで待ってて。ゴズさんの許可が取れたら入ってもいいから」
「わかりました」
「気を付けてくださいね」
「大丈夫だって。部屋に入るだけだから。ゴズさんいますかー?」
そう言いながら俺は部屋に入っていった。
中は薄暗くしんとしていたため一瞬いないのかと思ったが、すぐに奥の方から返事が聞こえてきた。
「おうレインか。少し待っててくれ。今ちょうど作業中なんだ」
声のする方へ行くと、何やら真剣な顔でゴズさんが作業していた。
数分もすると作業がひと段落したのか、ようやくゴズさんが顔をこちらに向けた。
「ようレイン。それで今日はどうしたんだ?」
「その前にゴズさん、連れをドアの前に待たせているので呼んでもいいですか?」
「おう、かまわないぞ。それにしてもお前さんの連れか。いったいどんな奴なんだ?」
「まぁそれは会ってからのお楽しみってことで。二人とも入ってきていいぞ」
そう俺が扉の外に声をかけると、すぐに扉が開き中に二人が入ってきた。
「こりゃあお前、どえらい別嬪さんじゃないかレイン。お前いったいどうしたんだ」
「二人は僕のパーティーメンバーですよ」
「リュゼです。お願いします」
「シノです。お世話になります」
そう二人が礼儀正しく挨拶をした。
「お、おう。俺はゴズだ。この魔道具工房をやってるもんだ。よろしくな。それでレインよ、お前は今日何をしに来たんだ? 美人の彼女を自慢しに来たわけじゃあねぇだろうな」
「か、彼女ですか? そんなわけないじゃないですか。その、自分の家の工房の設備を整えようと思ってるんですが、陶芸に必要な道具と土がなくて。それを買える場所を教えてもらえたらと思って」
「なんだそんなことか。それならいくらでも教えてやるよ」
俺はゴズさんに場所を教えてもらい工房を後にしようとしたら、ゴズさんから声がかかった。
「おいレイン、これをやるよ」
そういってゴズさんは分厚い本をこちらに投げてきた。
「ちょっと危ないじゃないですか。それで一体何です、この分厚い本は」
「そいつは魔道回路について書かれた本だ。お前さんは今、浮遊魔法の魔道具しか知らないだろ? だったらこの先ほかの魔道具を作るときに絶対に必要になると思ってな。俺のおさがりだが、いろいろと俺の考えなんかも書いてあるから、それ読んで勉強しな」
「いいんですか? そんな貴重なものもらっちゃって」
「いいんだよ。俺はその本に書かれてるものは全部覚えてるんだ。だからもう必要ないってだけさ」
「ありがとうございます。大切にしますね」
予想外のもらい物をした俺は、最後に陶芸工房に行き土とろくろ、ヘラやコテなどを購入し家に戻った。
「結構物がそろうと一気に工房感が出てくるな。でもまたたくさん買っちゃったな。思ったよりも財布がかつかつだ」
ヴェルディアスの報酬で2、3日魔道具作りに費やそうかと考えていたのだが、一日でほとんど使い切ってしまった。
「二人とも荷物運びありがとう。それで明日だけど自由行動って言ってたけど、やっぱり冒険者ギルドで依頼を受けてもいい?」
「私はかまいません。ご主人様についていきます」
「私もです。全然疲れていないので気にしなくて大丈夫です」
二人もそう言ってくれたので、明日はまた冒険者ギルドに行こうと思う。
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