ひと悶着
ガイさんは部屋を出て行ってから少したって戻ってきた。戻ってきたときには何人かの人とちょっとした装置を持ってきていた。
「レイン、お前を疑ってるわけじゃねぇんだが、まずはこの人の話を聞いてくれ。マスター、あとは頼みました」
そういうとガイさんと装置を運んでいた職員が部屋から出ていき、中にはマスターと呼ばれた男性と、いつもギルドで話しかけてくれる受付の女性の人が残った。
「そんなに緊張すんな。まずは自己紹介からだな。俺はこのセルディアの街の冒険者ギルドマスターをやっているローガンだ。俺はただの立会人だから気にしなくていいぞ」
そういって挨拶をした男性はガイさんと同じかそれ以上の体格で、この街で最強の冒険者ですと説明されても疑わないくらい強そうな人だ。
「私は受付嬢兼副ギルドマスターのセレナです。レインさんとは何回かお話ししたことがありますね」
「はい。それでなぜそのお二人が来たんでしょうか」
するとセレナさんが説明をしてくれた。
「レインさんが持ってきたクリスタルホーンラビットの角ですが、本来Aランクの魔物の素材です。ギルドの取り決めでは、冒険者ランクが低い者が自身のランクを大幅に超過した素材を持ってきた場合、その来歴を明らかにする義務が存在します。そのためレインさんが疑わしいかにかかわらず、こちらは取り調べをしなければいけないからです」
「わかりました。そういうことなら応じます。正直、自分でもこんなもの取れると思っていなかったので、警戒するのは当然です。それで何をすればいいんですか?」
「簡単です。この装置に手をかざしながら、クリスタルホーンラビットの角を入手した経緯を話してもらうだけでかまいません」
セレナさんが指している装置は、街に入るとき犯罪歴を確認した装置によく似ていた。
「わかりました」
そして俺は、湖で休憩していた時に対岸にクリスタルホーンラビットを見つけたこと。ダメもとで弓を撃ったら偶然命中したことを説明した。
「問題ありませんね。以上で大丈夫です。疑ってすみませんでした」
「いえ、気にしなくて大丈夫です。それでこの素材の買取はどうすればいいでしょうか」
「そのことでこちらから少し提案があるのですが。マスター、グレンさんを呼んできてくれませんか」
「おう。それじゃあ坊主、またな」
そういってローガンさんは部屋を出て行った。
「それで提案っていったい何ですか?」
「レインさんはオークションというものをご存じでしょうか」
「名前は聞いたことありますが、詳しくは知りません」
それを聞いたセレナさんがオークションについて詳しく説明してくれた。
オークションは半年に一回、アルヴェイン王国内で行われる大きなお祭りのようなものだそうだ。なぜお祭りといわれるかというと、各国から商品やそれを求める人たちが大勢来るため、毎回お祭り騒ぎになっているらしい。
そこでは貴重な素材や魔法の武器や防具、ダンジョンから発見された珍しいもの、宝石など様々なものが出店されるらしい。
そのオークションがちょうど1ヶ月後に行われるらしい。
「それで今回、レインさんが持ってきたこのクリスタルホーンラビットの角をオークションに出品してはどうかと思いまして」
返事をする前に部屋の扉がノックされた。
「副マスター、グレン様をお連れしました」
「どうぞ入ってください」
セレナさんがそういうと、扉の奥から初老の男性が入ってきて、俺の向かいに座った。
「こちらはこの国で1、2を争う商会の、セルディアの街の支部長のグレンさんです。グレンさん、こちらがそのクリスタルホーンラビットを仕留めたレインさんです」
「ご紹介にあずかりました。グランツ商会セルディア支部の支部長を務めております、グレン・バルディと申します。気軽にグレンとお呼びください」
グレンと名乗った初老の男性は、とても丁寧なお辞儀をして挨拶をした。
「俺、いや、自分はレインです。冒険者をやっています」
「今回グレンさんをお呼びした理由なのですが、クリスタルホーンラビットの素材をどうするのか悩んでいまして。正直、肉と皮はこちらで買取が可能なのですが、角までとなるとギルドの資金が心もとなくて、グランツ商会のほうで代わりにオークションに出品していただけないかと思いまして」
「私どもの方としましては、ぜひやらせていただきたいと思っておりますが、レイン様はどのように考えていらっしゃるのでしょうか」
「そうですね。自分としては別に売れれば問題ないので、どこでもいいというのが本音です。正直、こんな高価なものを持っていても自分ではどうにもできないので」
「それでしたら、ぜひ当商会に任せていただけないでしょうか。必ずやオークションで通常よりも高い値段で売らせていただきます」
「自分としてもそれがいいと思っているのですが、収益の割合などはどうなるのでしょうか」
「当商会としてはレイン様の代理で出品させていただく立場ですので、利益の折半などは考えておりません。出品の手数料と、今後我が商会をごひいきにしていただければ、それで十分でございます」
「わかりました。少しセレナさんと相談したいのですが、よろしいでしょうか」
「全然かまいません。それでは私は部屋の外で待っておりますので」
そういうとグレンさんは部屋の外に出て行った。
「それでセレナさん、今の話を受けても問題ないですかね?」
「グランツ商会はとても大きな商会ですので。それにオークションに出品するためには、とても厳正な審査が必要なんです。だから信用しても平気ですよ。それにしてもレインさんはえらいですね」
「何がです?」
「その年でちゃんと相手をすぐに信用せず、ちゃんと考えられるのはとてもすごいことですよ」
「そんなことないですって。とりあえずグレンさんに頼むことにしますので、呼んでもらってもいいですか?」
俺が頼むとセレナさんが鈴を鳴らした。そして数十秒後には職員の人がグレンさんを連れてきた。
「お待ちいただきありがとうございます。クリスタルホーンラビットの件、ぜひお願いしたいと思います」
「ありがとうございます。レイン様、これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
そのあと俺は契約書に何枚かサインをした。契約書の内容は利益のことについてや、代理出品を頼んだと証明するものだった。
サインが終わった後、グレンさんはすぐに商会に戻ってしまった。なんでもオークションが近いため、もうすぐこの街を出ていかなければならないらしい。
「そういえばセレナさん。オークションに出品するにはどのような基準があるのですか?」
「そうですね。まず出品できる資格がある人がそもそも限られています。まずは貴族ですね。貴族はオークションに出品するのにほとんど制限はありません。次に商人ですが、商人は各国の偉い人達に認められた商会しかダメですね。最後に冒険者ですが、Aランク以上かつちゃんと実績があり、信用がある人ですね。それ以外の人はそもそも出品が認められていません」
「そんなに厳しく制限されてるんですね? 逆に購入には制限はないんですか?」
「購入はそこまで厳しくありません。ちゃんと身分証とお金を持っていれば誰でも購入できますよ。あら、もうこんな時間ですね。そろそろギルドに戻りませんと」
「セレナさん、今日はありがとうございました」
「気にしなくて大丈夫ですよ。これからも冒険者頑張ってくださいね」
そうして俺は無事にクリスタルホーンラビットの素材を売ることができた。
後で家に帰った後、ホーンラビットの素材を売るのを忘れていたため、慌ててギルドに戻ることになった。
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