12話 合宿編5 (炎と風)
戦闘までお待たせしてしまって、すみませんでした!
太一とクレアは、C地点の内に入った。
C地点は、木に囲まれた、ただの草っぱらであった。
「誰もいないね」
太一は、周辺を見ているクレアに呼びかける。
「辺りにも変わったところはないわね。ねぇ、私、戦いの前に、風上に言いたいことがあるの」
「ん?何かな?」
「ええとね、私、行きのバスの中で、風上に冷たい態度を取っちゃったでしょ?それを謝ろうと思って。あの時は、ごめんね」
「気にしてないから、大丈夫だよ。気分がよくないときだって、人間だからあると思うしさ。言葉って、軽はずみで出ちゃうことよくあるでしょ?」
「うん、そうだね。私ってさ、人と二人きりになるのが、苦手なの。なぜなのかは、わからないけど。男子と二人きりになると、緊張しちゃってね。でも、今日は寝不足でテンション高いから、素直になれた!風上、ありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
太一は、少し加藤と仲良くなれた気がした。
これだけでも、合宿へやってきた意味を感じた気がした。
「おうおう、お二人さん。敵陣のど真ん中で、イチャイチャしてくれちゃって。若いっていいねー、おじさんも混ぜてくれよ」
渋い男の声が、茂みの中から聞こえてきた。太一とクレアは、声の聞こえる方向を振り向く。
そこには、眠そうな顔をした男が、頭を掻きながらこちらへ歩いてきた。
風貌は、40代くらいだろうか。無精ひげを生やし、目つきが狼のように鋭かった。
「君たちが遅いから、昼寝しちゃったよ。あーあ、よく寝た。私が、君たちの相手になる千堂士郎だ。君たちが、3班のメンバーだよね。あれ?4人いるんじゃなかったっけ?」
「なに、このおっさん・・・。九曾学園1年F組、加藤クレアと風上太一の二人がお相手するわ。あと、イチャイチャなんてしてないわよ!」
「もしかして、落とし穴にでも引っかかった?ほかの二人」
「「・・・」」
「君たち、素直だねぇ。おじさん、がんばって作ったからね、あの落とし穴。かかってくれて嬉しいよ。まぁ、君たち二人で、おじさんに勝てるかな・・・?」
不敵な笑みを浮かべる千堂士郎。
「あんたなんて、私がボコボコにしてやろうじゃないの!」
「加藤さん、あまり挑発しないほうがいい。このおじさん、かなり強いよ、多分だけど」
千堂士郎は、太一のほうを見た。
「君は、命拾いしそうなタイプだね。ま、そこのお嬢ちゃんよりはだけどさ。おじさん、優しいから、選ばせてあげるよ。さぁ、どうする?
二人同時に相手してもいいし、一人ずつでも構わない」
二人に問いかける千堂士郎。
千堂士郎から離れ、太一たちは、小声で話し合うことにした。
「私が、先に行くわ。昨日のテストの汚名挽回よ!」
「オーソドックスなネタ入れてくるね、加藤さん・・・。挽回してどうするの!?俺は、二人で戦ったほうがいいと思うのだけど。フォローできるしさ」
「いや、私たち、お互いのスタイル知らないでしょ?だったら、私が、最初にダメージを与えるわ。ま、風上の出番があるとは、思えないけどね」
「本当に大丈夫?」
「えぇ、まかせて。能力と肉弾戦には、自信があるから」
クレアと太一は、千堂士郎の方へ向いた。
「いいわよ、やりましょう。私が、最初に相手になってあげるわ」
「お嬢ちゃんが相手か。いいぜ、いつでもかかってきな」
クレアと千堂は対峙した。
そして、戦いが始まったのだ。
「先手必勝!」
クレアは、低姿勢になり、走りこむ。速かった。
常人レベルの速さではない。空を切り、風のごとく突き進む。
一気に、千堂士郎の懐に飛び込んだ。
クレアは、一撃入れられることを確信した。拳を腹に入れようとした。
だが、目の前の千堂は、後ろに下がり避けた。
空を切った腕を、千堂の二本の手が、付け根と手の甲を掴み、横へ押し込む。
クレアは、態勢を崩し転びそうになったが、反転して態勢を立て直した。
「私の突撃を回避するなんて、やるじゃない」
「なかなか、いい動きをするな」
クレアは、能力を解放した。全身から火花が散っている。
「火炎煉武!」
クレアの腕と脚は、美しい炎に包まれている。
クレアは、一気に詰め寄り、乱打戦に持ち込む。
クレアの繰り出す蹴りや突きには、炎が纏っているので、回避してもダメージを与えることができる。千堂は、クレアの攻撃をきわどい所で避けつつ、防ぐ。
拳には、上半身を左右に振り、蹴りには、蹴りで応酬した。
時には、体を側転させ、距離を測る。
千堂の防戦一方に見えたが、少しの隙を見逃さずに、カウンターを繰り出している。
致命的というほどのダメージをクレアは、受けていなかったが、地味にダメージを重ねていった。
「あっちいなぁ。嬢ちゃんの攻撃をまともに食らったら、火傷しちまうよ」
そう軽口を言いながら、クレアの攻撃を回避とガードをし続ける。
「身軽なのね、おっさん」
「褒め言葉ありがとう・・・ねっ」
千堂は、左足を軸にして、右足を下から上に上げ、半月を描くように振り切る。クレアは、千堂との距離を取るしかなかった。
「足癖が悪いわね」
「足技メインなもんで」
千堂の反撃が始まる。
独特なステップで、クレアに近づく。
右足と左足を交互に後ろに蹴り上げ、すり足で近寄る。
接近すると、上半身を逆さにし、両手を着け、左足を後ろに回す。
左足は、クレアの顔の前を横切る。
それを皮切りに、回転力を使った千堂の足技が、怒涛のようにクレアに襲いかかる。
避けようと試みるが、数発蹴りが直撃し、場外にある木にぶつかった。
その瞬間に、ド派手な音を立てる。
「いったあああああああ。なにしちゃってくれてんのよ」
服に着いた埃を叩きながら、立ち上がるクレア。
「へぇ。あれで、気を失わないのかね」
「もう近接はやめやめ!」
そう言うと、クレアは急にしゃがんだ。手のひらを地面に当てた。
そうすると、地面から何本もの火柱が、順に地面から上を目指すように突き上げて行く。
「火の能力者ってのは、こんなのも使えるのかよ・・・」
千堂は、器用に火柱をいなしてゆく。火柱を避けつつ、クレアから距離を置いた。
だが、火柱に注意を向けている間に、クレアは火の玉を数発打ち込んだ。
「あたれー!」
燃え盛る美しい火の玉は、千堂に直撃した。空に舞、千堂は地面に落ちた。
「よし、当たった!私の火炎弾が直撃したのよ、動けるわけないわ」
太一は、クレアの戦いを傍からみていた。
想像以上にクレアは強い、それが最初の感想だった。
まず、肉弾戦のレベルの高さ。
あの動きは、相当体を鍛えて、実践慣れしていないとできない。
そして、一番驚いたのが、能力を扱うスキルである。
太一は、あんなに自由自在に能力を扱えなかった。
楓花が来て以来、トレーニングをすることにしていたが、あそこまで能力を発揮できるかは、正直疑問である。
「加藤さん、やるねー!」
太一は、クレアに向かって叫んだ。
「まぁ、こんなものよ。もう動けないでしょ、観念しなさいな」
千堂は、むくりと体を起こし、立ち上がった。前髪は長く、隙間から見える目には、凶暴さを宿していた。
「おっと、嬢ちゃんやってくれるじゃねぇの」
「私の火炎を受けて、まだ立ち上がれるっていうの!?」
「いやさ、嬢ちゃんみたいに、炎の柱とか、火の玉とかさ、そうゆう強い技とか使えないんだよ。だけどね、おじさんの母ちゃんは、いい能力を一つだけ残してくれた」
千堂の焼け焦げた皮膚が、みるみる回復してゆく。
「おっさん。随分、丈夫な皮膚をお持ちのようね・・・」
「さぁ、嬢ちゃん、こちらの反撃行くぞ」
クレアの視界から千堂が消えた。
「な、どこよ!?」
「ここだよ、嬢ちゃん」
声は背後から聞こえた。振り向こうとした瞬間、クレアの首に手刀が入る。
「がはぁ」
クレアは、吹っ飛ばされる。
「こんなもんじゃ済まされないよね」
吹っ飛ぶクレアに、追い打ちをかける。
飛んだクレアの後ろに回り込み、勢いを利用しクレアを地面に叩きつける。
そして、マウントを取り、流れるように、乱打を打ち込む千堂。
その姿は、まるで狂人だった。クレアは、ガードすらできない状態にいた。
千堂の動きが速すぎた。
「とどめだ!」
最後の気合いの入ったパンチが、顔を抉りそうになった瞬間、太一は、駆け出していた。
「やめろ!!」
太一は、千堂の腕を掴んだ。
「何のつもりだ、小僧」
睨みつける千堂。太一は、恐怖を覚えた。
「彼女は、もう戦闘不能だ。攻撃を止めろ」
「じゃ、お前が相手してくれるんだよな、もちろん」
「もちろんだ。けれど、まず彼女を運ばせてくれ」
「いいだろう」
太一は、クレアを隅まで運んだ。
クレアは、意識を失っている。
擦り傷と打撲がひどいことになっている。
「ごめんね、加藤さん。やっぱり二人で戦えばよかったね。加藤さんの仇をとってくるよ」
太一は、クレアから離れ、千堂と対峙した。
「よし、いいぞ。おっさん。俺が相手だ。よくも加藤さんをやってくれたな・・・!」
「いいねぇ、その気迫。やっと、やる気をだしたな、小僧」
太一と千堂の戦いが始まった。
「吹け!風よ、語りかけろ!」
太一は、風を起こした。強風が辺りを覆う。
「小僧の能力は、風か」
風は威力を増し、鋭い刃のような風が、千堂に襲いかかる。
千堂の皮膚を切り刻む風。
だが、傷口は、すぐに修復された。
「俺をそのくらいの傷じゃ倒せないって、わかっているだろう?」
強風の中で、太一に近づく千堂。
風のおかげか、千堂のスピードは遅くなっていた。
(これくらいのスピードなら、俺でも対応できるか・・・?)
千堂の鋭い突きが襲う。太一は、ギリギリのところで横に避ける。
だが、相手は武術の手練れ。太一の素人の動きなど、読まれていた。
「駄阿呆が」
避けた先には、回し蹴りがまっていた。
「ちょ!?」
太一の後頭部に、回し蹴りが食い込む。
「うはああああ」
太一は、吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
(いってぇ・・・。でも・・・、あっ。なんだか気持ちいい。まさか、こんな時に、ドMの能力が役に立つなんて)
太一は、立ち上がった。
「お前、頑丈だな」
「おっさんの攻撃なんて、屁でもないよ」
「いい度胸だ」
太一は、為すすべもなく、攻撃を受け続けた。このとき、武道でも習っておけばよかったとそれだけ考えていた。だが、風は吹き続けている。徐々に強くなっていったのだ。
(意識が遠のきそうになるのに、なぜか感覚だけは鋭くなっていく。しかも、痛みと同時に、快感が激しくなる。どうなってんだ・・・あっ)
「おい、呆けてんな・・・よっ」
千堂のアッパーが、太一のあごに入る。
「あぁん・・・」
太一は、全身をものすごい快感に襲われる。太一は、空中から一気に、地面に落ちた。何度地面に叩きつけられただろうか。
「今のは、急所だ。立ち上がれるわけがない。それにしても、こいつ、気持ち悪い声だすな」
太一は、よろよろと立ち上がった。よろけているが、それでも、自分の足で立ち上がった。服の袖で、口からでる血を拭った。
「まだだよ、まだまだだああああ。かかってこい!!」
「死んでもしらねぇぞ。この一撃で終わりにしてやる!!」
千堂は、神速のごとく跳びあがり、太一へ蹴りを入れる。
その一撃は、腹へと食い込み、太一の全身を地面に叩きつける。
「ぐっはあああ」
地を這うようなうめき声をだす。
「これで、試験は終わりかな」
舞い上がった埃の中から、太一の立ち上がる姿が見えた。
「いいねぇ、おじさん。強いのくれるから、イっちゃったよ。もう今の俺なら、なんでもできそうだ」
快感に酔う太一。
焦る千堂に、太一は終了を告げる。
「もう戦いは、終わりにしよう。加藤さんが待っているからね」
そういうと、風が急速に強くなった。先ほどまでの風とは、質が違った。
膨大な風圧が、千堂を襲う。
千堂の周りだけ、巨大な風の渦ができ、千堂を上に舞い上げた。
筒状の風の中に、千堂は閉じ込められたのだ。
「さっきの風とは、桁違いの威力だ。動けねぇ。くそっ・・・。うっ・・・。あがぁ・・・」
千堂の骨が折れる音が響き渡る。風圧で、体を締め上げていた。
その威力は、骨をも折るほどのものであった。
「くたばれ!エアプレッシャー!」
「うわああああああああああああ」
千堂のうめき声が聞こえてくる。
その声は、何分続いただろうか。
やがて、その声は鳴りやんだ。
太一は、渦の中をみていた。
どうやら、千堂は気絶をしているようだった。
太一は、風を止めた。千堂は、地面に落ち、ピクリとも動かない。
凶暴な嵐が去った空は、雲一つない夕焼け空だった。
太一は、力を弱めると、一気に倒れた。
「やった、勝った・・・」
太一は、千堂に勝利したのであった。




