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王子に追放された天才治癒師、隣国で病院を建てたら英雄になりました  作者: レモンティー


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第九十九話 謝罪を拒んだ治癒師

面会を申し出たのはレオニスだった。

セレナはすぐには返事をしなかった。

断る自由が自分にあることを、まず確かめたかった。

「謝罪を聞く義務はありません」

担当官が言った。

「分かっています。会うなら条件があります」

セレナは書面に三つ記した。

面会での発言を、セレナの同意なく量刑や恩赦の申請資料として提出しないこと。

第三者が同席すること。

話した内容を本人の許可なく公表しないこと。

面会室には椅子が二脚あった。

レオニスは立ったまま、セレナが座るのを待った。

「謝りたい」

「聞きます。でも、許したという記録は残さないでください」

王子は頷いた。

以前なら、その条件に怒ったかもしれない。

今は怒る権利が自分にないと、ようやく分かり始めていた。

「君を追放したのは間違いだった」

「追放だけですか」

「シーラの件も……」

「彼女の名前を消した人たちを、あなたは止めませんでした」

レオニスは反論しかけた。

国を守るためだった、という言葉が喉まで上がる。

しかし、判決文に並んだ日付を思い出し、口を閉じた。

「私は、間違った命令を出した」

「それを認めることと、被害を償うことは別です」

セレナは被害者支援の申請先と、今後の賠償審理の予定を記した一覧を机に置いた。

金額はまだ決まっていない。

申請先と連絡先の確認欄だけが埋まり始めていた。

亡くなった人の遺族、記録を消された生存者、仕事を失った看護人。

誰かの名が間違えば、支援の通知すら届かない。

「私に謝るより、誰が被害を受けたのか、記録を最後まで確かめてください」

「君が許してくれなければ、私は一生……」

「あなたの一生を、私に預けないで」

セレナは静かに言った。

「私の人生も、もうあなたのものではありません」

面会のあと、王宮から名誉回復の式典への招待状が届いた。

金の縁取りが施され、セレナの名が大きく書かれている。

リゼは招待状を見て笑った。

「ようやく謝るつもりになったのね」

面会室を出ると、リゼが廊下で待っていた。

「どうだった?」

「謝罪は聞いた。でも、許したわけじゃない」

「それでいいの?」

「許さなくても、あの人には自分の責任を取る義務があるわ」

リゼはセレナの歩幅に合わせて歩いた。

面会の記録には、謝罪の申し出があったことと、セレナが許しを表明していないことだけが残された。

名誉回復の告示が出ると、町には「セレナを王宮へ戻せ」

という声が上がった。

セレナはそれを断り、診療所で新人看護人の研修を続けた。

若い看護人が尋ねた。

「王宮の仕事のほうが立派ではありませんか」

「立派かどうかは、建物の大きさで決まらないわ」

「でも、王様に頼まれたら?」

「断ることも、引き受けることもできる。それが今の私の仕事の選び方です」

夕方、彼女は患者の名前を呼び、症状を聞き、必要なら別の医師へ紹介状を書いた。

王子に奪われた時間は戻らない。

それでも、これからの時間を誰に渡すかは、自分で決められる。

「式典を開くことと、患者の記録を直すことは別よ」

「行かないの?」

「私の資格が正式に回復したことは、公表してほしい。でも、そのために一日中王宮にいる必要はない」

セレナは短い返書を書いた。

名誉回復の告示は受け入れる。

式典には代理人を立て、本人は診療所で勤務する。

告示には、追放が不当だった理由と、同様の処分を防ぐ手続きを明記してほしい。

翌朝、王宮の門前で彼女を待っていたのは、かつて診察した老人だった。

「先生、またここで働くんですか」

「いいえ。今日は診療所へ戻ります」

「じゃあ、私もそっちへ行こうかな」

「歩ける距離ではないでしょう。近くの医師を紹介します」

老人は笑った。

「昔の先生なら、何でも自分で治そうとしたのに」

セレナも笑った。

「少しは学んだんです」

面会の記録を確認した担当官は、セレナに尋ねた。

「王子の謝罪を受けた、と公表してよろしいですか」

「謝罪の言葉を聞いたことと、受け入れたことは違います。私の返事まで勝手に決めないでください」

担当官は記録の文面を直した。

セレナはその小さな修正に、以前の自分なら気づかなかっただろうと思った。

かつては王宮のために黙って働き、命じられれば自分の気持ちも後回しにしていた。

診療所へ戻る道で、リゼが尋ねた。

「後悔はない?」

「あるわ。言い返したかったことも、まだある。でも、全部言い終えるまで人生を止めたくない」

「それでいいと思う」

セレナは診療所の灯りを見た。

明日の当番表には自分の名も、別の医師の名もある。

自分が休む日にも患者を迎えられる場所を作ることが、今の彼女の望みだった。

夕方、診療所の窓に明かりがともった。

セレナは白衣を着て、次の患者の名前を呼んだ。

謝罪の言葉を聞くことまで拒んだのではない。

謝罪と許しを交換する取引を拒んだのだ。

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