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王子に追放された天才治癒師、隣国で病院を建てたら英雄になりました  作者: レモンティー


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第四十五話 病院を奪われた医師たち

人を救う仕事を奪われた者たちが、今度は人を救う仕事を教わりに来た。

皮肉だと思う余裕は、誰にもなかった。

王都医師組合では、治癒師の資格を失った医師たちが救援団の前に並んだ。

「王宮に逆らっただけで、私たちも無資格になった」

セレナは各人の技能を確認し、資格と能力を分けて記録した。

資格を奪われた時、セレナも自分の腕が消えたように感じた。

だからこそ、目の前の医師の肩の固さが分かった。

組合の建物には、かつて王宮の許可証が飾られていた場所だけ白い四角が残っていた。

追放や免許停止を受けた医師たちは、その下で順番を待っていた。

セレナは最初に、誰が何を診られるのかを尋ねた。

王宮への忠誠を誓ったかどうかではなく、実際に経験した処置と、最後に患者を診た日を記録するためだった。

臨時教室では、熟練の医師が手洗いの手順を学ぶことに反発した。

「子供扱いするつもりですか」

リゼは自分も間違えた経験を話し、互いの手順を実演した。

年配の医師が、手洗いの実演を見て席を立った。

「二十年も外科をやってきた私に、そんな初歩を教えるのか」

リゼは彼を追いかけず、机に二つの器具を置いた。

片方は洗浄済み、もう片方は見た目だけ拭いたものだ。

「どちらを患者に使いますか」

医師は答えたあとで、自分の袖口の汚れに気づいた。

彼は何も言わず、洗い場へ向かった。

診療台では、医師の一人が古い慣習に従って汚れた器具を使おうとした。

「技術があるからこそ、危険を見逃せません」

セレナは器具を交換し、患者の前で理由を説明した。

再教育は屈辱ではない。

だが、教える側がそう言うだけでは足りない。

実習に来た女性医師は、王宮に抗議した翌日から病院へ入れなくなったと話した。

父親は娘が処罰されるのを恐れ、家に戻るよう頼んだという。

「私が怖いのは罰ではありません。診られる患者がいるのに、何もしなくなることです」

セレナは彼女の技能を確認し、まず監督者付きの診療に配置した。

勇気があることと、何でも一人で任せてよいことは別だった。

組合会議では、元高位治癒師が身分による優先診療を要求した。

「爵位ではなく、容体で順番を決めます」

ユリウスが診療規則を読み上げ、患者代表も署名した。

元高位治癒師は貴族の紹介状を持参し、別室での優先診療を要求した。

ユリウスが規則を読み上げると、「身分のある者が先に治療を受けるのは秩序だ」

と反論する。

待合には、痛む腹を押さえた靴職人が座っていた。

セレナは両者の状態を診て、靴職人を先に処置室へ通した。

治癒師は怒って帰ろうとしたが、入口で自分の患者だった老婆に呼び止められた。

夜の講堂では、資格を失った医師たちが研修の受講記録を手にした。

「これは王宮の許可証ではありません」

セレナは能力評価と再研修の仕組みを作ると告げた。

夜の修了式で渡されたのは、国家資格ではなく研修の受講記録だった。

できた手技、指導が必要な手技、次回の評価日が書かれている。

「一日で新しい医師になれるわけではありません」

とセレナが告げると、何人かが落胆した。

それでも女性医師は紙を胸に抱いた。

王宮の許可がなくても、患者を安全に診るための道筋がここにはあった。

技能確認の席で、一人の年配医師が患者の手に触れることをためらった。

かつて王宮で高い地位にあり、助手にすべてを任せていた男だ。

「私にこんな試験をするのか」

声には怒りがあったが、指先は震えていた。

セレナは試験官の席から降り、簡単な説明をした。

「地位を測る試験ではありません。今、患者を安全に診られるか確かめるものです」

男は渋々、症状を聞き始めた。

しかし患者役の看護人が「昨日から水を飲めない」

と答えると、すぐに魔法の治療手順を口にした。

「治癒魔法が使えない時は、どうしますか」

男は答えられなかった。

若い女性医師が隣から助け舟を出そうとすると、セレナは目で制した。

これは恥をかかせるための場ではない。

知らないことを自分で認められるかどうかも、患者を守る技能の一つだった。


午後、資格停止となった医師の一人が「王宮に逆らった者を集めれば、また追放される」と訴えた。

ユリウスは旧制度の処分記録と医療事故の記録を分けて調べると約束した。

政治的処分が不当でも、患者に危険な行為がなかったとは限らない。

逆も同じだ。

セレナは仮の当番表に三つの欄を設けた。

単独で担当できる仕事、監督下ならできる仕事、再研修が必要な仕事。

名誉ある肩書きはそこに書かなかった。

帰り際、年配医師が一冊の古い教本を差し出した。

「私は、できないことを隠すのが上手くなりすぎた」

セレナは教本を受け取らず、翌朝の研修時間を伝えた。

「本はご自分で持ってきてください。ここから学び直すんです」

男は小さく頷いた。

翌日の研修では、元高位治癒師が初めて患者役の看護人に「痛む場所を教えてください」と尋ねた。

以前の彼なら、助手の報告だけで処置を決めていた。

看護人は腕ではなく腹を押さえた。

男は一瞬戸惑い、教本を閉じた。

「先に話を聞くべきでした」

セレナはその言葉を評価表に書いた。

誤りを認められたことは進歩だが、それだけで単独診療を任せることはできない。

男自身も、今回は異議を唱えなかった。

研修を終えた女性医師は、廊下でセレナに尋ねた。

「王宮の免許が戻らなくても、患者を診られますか」

セレナはすぐに肯定しなかった。

仮の制度には監督と期限があり、法的な整理も残る。

それでも今日の技能確認で認められた仕事はある。

「できることから、責任を持って始めましょう」

女性医師は翌朝の当番表に自分の名を見つけ、長く息を吐いた。

技能試験の最後、老医師が包帯を結ぶ手を止めた。

「昔は助手に任せていた。自分ができると思い込んでいた」

若い看護人が、患者役の腕に残った圧迫痕を示した。

老医師は言い訳をせず、もう一度やり直した。

見守る者の中には、彼に診察を拒まれた過去を持つ医師もいた。

許し合ったわけではない。

それでも患者を前にした技術の評価は、恨みでも肩書でも変えてはならなかった。

組合の黒板には翌日の当番表が書き込まれた。

元高位治癒師の名前も、一番下に小さく加えられている。

彼は受付補助から始めることを承諾したのだ。

セレナはその名前を見て、誰かを罰するための制度にしたくないと改めて思った。

患者を危険にさらした行為は調べる。

だが、学び直す機会まで奪えば、また同じ病院を作ってしまう。

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