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王子に追放された天才治癒師、隣国で病院を建てたら英雄になりました  作者: レモンティー


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第二十九話 百人の看護人を育てる学校

旧兵舎の前に二百人が並んだ朝、セレナは名簿を見て立ち尽くした。

「募集は百人だったはずよね」

リゼが困った顔でうなずく。

「文字を読めない人も、家族を亡くした人もいます。みんな、誰かを助けたいんです」

列の最後には、杖をついた老人までいた。

皇女アーデリアの認可を受け、旧兵舎を看護人の養成所に改めることになった。

医師や治癒師が不足する今、患者の変化を観察し、清潔を守り、危険な徴候を知らせる人手が必要だった。

しかし、善意だけで人を病室に入れれば、助かる命まで危うくする。

最初の実習で、応募者の一人が包帯を強く巻きすぎた。

患者役の手が赤くなる。

「早く巻くことが目的ではありません」

セレナがほどくと、応募者はうつむいた。

「私は文字も読めないし、向いていないんです」

「読めないことと、患者の痛みに気づけないことは違います」

セレナは包帯を渡し直した。

隣の応募者が文字の代わりに絵で手順を描き、二人で練習を始めた。

百人を育てる学校に必要なのは、百人を一度に選ぶことではない。

失敗を隠さず、やり直せる場所を作ることだった。

「百人を選びます。残りの人にも、別の役割をお願いする」

発表すると、列がざわめいた。

「私の息子は、看護人が来なくて死んだんです!」

前に進み出た女性が叫ぶ。

「どうして、助けたい私が落とされるんですか」

セレナは答えを急がなかった。

「息子さんのことを聞かせてください」

女性はしばらく口を開けず、やがて、夜中に高熱を出した息子を抱えて病院の戸を叩き続けたと語った。

「誰も来なかった。だから、私が行く人になりたい」

「その思いを、無駄にはしません。ただ、患者の前に立つには練習が必要です」

試験は文字の読み書きだけではなかった。

水を運ぶ、手を洗う、症状を見て助けを呼ぶ。

読めない者には図と口頭で説明した。

最初の実習で、桶の水に手を入れたまま次の寝台へ向かった青年を、リゼが止めた。

「その水は、もう清潔じゃないよ」

「見た目は澄んでます」

「目に見えない汚れもある。患者を守るなら、手順を守って」

青年は顔を赤くした。

叱られたことより、知らずに誰かを危険にさらしたかもしれないことが堪えたらしい。

昼の講義では、エドガーが病状の記録を教えた。

「『苦しそう』では、次の担当者に伝わらない。いつから、どのように、何が変わったかを書く。文字が難しければ印と数字でもいい」

机に並んだ紙には、太陽の絵と月の絵、体温の目安、呼吸の速さを示す印があった。

セレナは一人の少女に問いかけた。

「患者が急に返事をしなくなったら?」

「水を飲ませます」

「それは危険なことがある。まず助けを呼び、呼吸を確かめる。無理に飲ませない」

少女は何度も書き直した。

覚えたふりをして送り出すより、間違いを今見つけるほうがいい。

三日目、実習用の病室で事件が起きた。

高齢の患者役を務めていた兵士が、演技ではなく本当に息苦しくなったのだ。

教官の一人が声を張り上げた。

「訓練を中止!」

候補生たちが固まる中、最初に動いたのは、息子を亡くしたあの女性だった。

「先生を呼んで! 窓を開ける人は通路を塞がないで!」

彼女は兵士の肩を支え、むやみに水を飲ませず、エドガーが来るまで様子を伝え続けた。

兵士は治療を受け、落ち着きを取り戻した。

セレナが礼を言うと、女性は首を振った。

「怖かったです。息子のときも、こんなふうに誰かが来てくれたらって」

「今日は、あなたが呼んだのよ」

女性の目から、静かに涙が落ちた。

選考の結果、百人が基礎課程に入った。

合格できなかった者にも、水の運搬や清掃、炊き出しの講習が開かれた。

患者に触れない仕事にも、衛生の知識は必要だった。

ミナは名簿を見て眉を寄せた。

「百人いても、現場で一人前になるには時間がかかります」

「だから卒業を急がせない。教える人を育てるところまでが学校の仕事よ」

セレナは黒板に「できないことを隠さない」と書いた。

魔法の強さを競っていた王宮では、失敗を口にした者から居場所を失った。

ここでは逆にしたかった。

授業の終わりに、一人の候補生が手を挙げた。

「文字が読めないと、看護人になれませんか」

教室が静かになった。

セレナは黒板に大きな印を三つ描いた。

「まず、危険な徴候を見分ける練習をしましょう。読み書きは並行して学べます」

「覚えるのが遅くても?」

「分からないまま患者に触れないこと。それを守れる人には、学ぶ資格があります」

候補生は、ようやく顔を上げた。


夕方、アーデリアが視察に来た。

「これで百人の命が救えるのですね」

「いいえ。百人が何を学び、どんな現場で誰と働くかによります」

皇女は少し驚き、それから笑った。

「あなたは、良い報告を簡単にはくれないのね」

「簡単な報告のせいで、王国は人を失いましたから」

窓の外で、候補生たちが手洗いの順番を声に出して確認していた。

百人を集めた日が学校の始まりではない。

百人が、知らないことを知らないと言えるようになった日こそ、その始まりだった。


翌朝、セレナは養成課程を正式に掲示した。

最初の四週間は衛生と観察、次の四週間は指導者の下での実習、最後の四週間は夜間対応を含む監督付きの訓練。

診断や処方は医師が行い、候補生は危険な徴候を見つけて報告し、指示された介助を担う。

合格できない者には補習を用意し、単独配置はしない。

「百人を一度に病棟へ入れるわけにはいきません」

指導役のイーナは、十人ずつの実習班を示した。

ほかの候補生は模型と記録表で練習する。

その日の最後の実習で、包帯を巻いていた青年が手を止めた。

「指先が冷たいです。強く巻きすぎたかもしれません」

以前なら隠したかもしれない失敗だった。

イーナは巻き直しを命じ、評価表に『異変を申告し、助けを求めた』と記した。

窓際では、息子を亡くした女性がその様子を見ていた。

「私も、怖いと言っていいんでしょうか」

「もちろん」

セレナは答えた。

「怖いと分かっている人が、確認を怠らないでいられる学校にしましょう」

百人の看護人は、まだ一人も卒業していない。

それでも、患者の命を預かるための最初の約束は、この教室に生まれていた。

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