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彼女にはデバッグが必要です  作者: 輝夜
2章 もう1人の天才

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55話 輪廻の彼岸

 ローゼスの助けにより、何とか無事に龍狼戦を終えた二人。巨大な龍狼が地面に倒れ、周囲には戦闘の爪痕が残っている。先ほどまで響き渡っていた咆哮も止み、森には静寂が戻っていた。


「終わったぁ……もうこの森に悪意しか感じねぇよ」

「トラウマが増えたわね」


 ナーシャも息を整えながら、倒れた龍狼を見つめる。

 彼女にとっては初めての場所、初めて戦うボスモンスターだったはずだ。それでも最後まで動じることなく戦い抜いた。


 レンはそんなナーシャを見て、改めて彼女の適応力に感心する。しかし、迂闊に依頼を受注したのはまた別の話。

 

「あの時ナーシャが手配書を——!」


 レンが思い出したようにナーシャへ視線を向ける。


「そういえば、他の仲間はどうしたの?」


 手配書の話をするよりも先に、ローゼスが口を開いた。

 

「3年前、訳あってはぐれちまったんだ」


 ローゼスはそれ以上聞くことなく、静かにレンを見つめていた。


 その様子を見て、レンはふと、三年前のことを思い出す。


 あの時も、ローゼスはどこか一人でいることを望んでいるようだった。

 

「……そう」


 ローゼスはゆっくりその場を去ろうとする。

 

「待ってくれ! 少し話を聞きたいんだけど、ダメかな?」

「話?」

「俺たち、3年分の記憶がないんだ。何かあったら教えて欲しい。それにローゼスのことも聞けたら……」


 ローゼスの表情が、ほんの僅かに変わった。

 

「私の……?」

「前に、"一人でいい"って言ってたのを思い出してさ、ちょっと気になって……話したくなければ話さなくてもいい」


 自分たちの知らない三年間のこと。

 そして、ローゼスが一人でいたい理由。

 知ることができるのなら、少しでも聞いておきたかった。


 ローゼスはしばらく黙ったままレンを見つめる。

 何かを話そうとしているようにも見える。けれど、その口から言葉が出てくることはなかった。


 森を抜ける風が、二人の間を静かに通り過ぎていく。

 

 

 ——ウィスタリア某所


「あなたと会うのも三年振りですね。——ミ(・)レ(・)イ(・)様(・)」


 静かな空間に、ドルマの声が響く。


「やぁドルマ、久しぶりだね。キミにバグの一部を渡した時以来かな?」

「ええ、それで計画の方はどうなんです?」

「予定より早まったけど支障はないよ」

「それは何より」


 ドルマは淡々と答える。

 しかし、その視線は目の前のミレイから離れない。

 

「どうしたんだい?」

「あなたは、一体何者なんですか?」


 とてつもないノイズが周囲に走る。

 空間そのものが揺らいだように、周囲の景色が一瞬だけ歪む。


(なんだ……? この気配は!?)

「ふふ、もう君達のレベルならもう話しても大丈夫そうだね」

「……?」

「みんな、おいで」


 ミレイがそう告げる。するとミレイとドルマのいるその場に、数名が転送されてきた。

 

「ここは……?」

「ここは『輪廻の彼岸(エリュン・ドゥズ)』。ウィスタリアが生まれ、収束する場所だよ」


 周囲にはデータのような光が漂い、時折ノイズとなって最後は流星のように消えていく。


「ドルマから話は聞いてるかもしれないが、今(・)の(・)私(・)と(・)実際に会うのは初めてだね」


 この場にはドルマ、フィガロ、そして災厄(ディザスト)——アトラ。傍らに傷だらけのレリエッタの姿があった。


「では、あなたが……」

「ああ、私がこの世界を創った、といえばいいかな」


 空気が張り詰める。その言葉の重さに、誰もすぐには口を開かなかった。


「まあ大体のことはそこのドルマに任せているよ」


 ミレイはそう言って、周囲にいる者たちを見渡す。

 

「キミには、私がどう視えているかな?」


 ミレイはゆっくりとフィガロに近付いていく。


「黒塗りのノイズ。姿ははっきり見えませんね。声はなんとなくわかるといったところでしょうか」

「アンタの声……聞き覚えあるわよ……」


 レリエッタが反応する。

 

「レリエッタか」

「ノイズ越しでも見えるわ……よくも私を傷だらけにしてノコノコ現れたわね!」

「そういえば、キミは本体に負けたんだったね」

「黙れ!! 私の顔に泥を塗りやがって!」


 レリエッタは怒りを露わにする。問答無用でミレイに向かって自慢の鎌を振るが——ミレイの首に当たるとともに、粉々になって散っていってしまった。


「ウソ……私の鎌が」


 レリエッタが自身の鎌へ目を向ける。持ち手だけが残ったその鎌に、突然ノイズが走った。


 飛び散った刃も、輪郭が揺らぎ、まるでデータそのものが崩れていくように、その姿が乱れていく。


 ミレイはレリエッタの一撃にも、一切表情は崩さない。稚児のいたずら程度にしか感じていなかった。


「非礼は詫びよう。その傷も元通りに戻す。それじゃあダメかい?」

「ふざけんな! アンタも、あのレンとかいうザコも、全部私が葬ってやる!」

「……」


 ミレイの表情が歪む。辺りのノイズが強くなる。

 

「やめておけレリエッタ」


 ドルマが静かに制止する。

 しかし——レリエッタは止まらない。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

「キミは……もういいかな」


 ミレイの声が静かに響く。

 

「私の思想にそぐわないのは別にいいが、データの端くれ風情がレンを悪く言うのは許さないよ」


 ミレイはレリエッタのツインテールの片方を掴み上げると耳元で呟いた。


「データ……私、データ。データって何よ……私私私は私わ」


 レリエッタにノイズが走る。身体の輪郭が歪み、徐々にその姿が崩れていく。

 

「おや、破(・)損(・)してしまったかな? 私のノイズに耐えられなかったかな」


「あ……ア、ア、あ……」


 レリエッタの声も、恐怖に駆られた表情も、次第にノイズへと変わっていく。

 

「電脳世界の海に還るといい」


 ミレイはワームホールのような空間を展開し、レリエッタを持ち上げてそこに放り込む。


「ごめんね、見せしめにしたつもりじゃないんだ。……ただ彼女はバ(・)グ(・)を(・)起(・)こ(・)し(・)て(・)しまった。こうなっては私では直せないから」

「…………」


 その場にいた者たちは、誰も言葉を発することができなかった。

 

「意見があれば、感情的にならず伝えて欲しい。最も、今の私が言うセリフではないだろうがな」


 ミレイの言葉だけが、静まり返った空間に響く。


(あのレリエッタを……これが神の力とでもいうのか……?)


 その中、アトラだけが僅かに気づいたエ(・)ラ(・)ー(・)の(・)存(・)在(・)

 

 <——404 not found——>


 こうして、レリエッタの存在はウィスタリアから消えた。

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