54話 再会
二人は襲いかかる龍狼を迎撃しながら囲まれないように立ち回る。一度囲まれてしまえば形勢は一気に不利になる。
「ナーシャ、一体ずつ確実に倒そう!」
「それなら、コイツを狙いなさい!」
ナーシャが指差す個体は、イクリプスの連射によってかなりダメージを負っている。
「わかった!」
レンは即座にその一体に照準を向けて駆け出した。
しかし、その間にも残りの二体が迫ってくる。
「 チッ! Don’t get in my way!(邪魔すんな!)」
ナーシャは大木の根本を撃った。木には大きく亀裂が走り、ゆっくりと傾いていく。
——ミシミシミシッ!
大木が倒れ、ナーシャを追っていた龍狼の上へ覆い被さった。
「グルァッ!?」
龍狼の身体が木の下敷きになる。
「今のうちよ!」
「さすが! ありがとよ!」
これで一対一だ。
「オラァ!!」
龍狼が爪を振り下ろす。レンは身体を捻って紙一重でかわした。
「あぶなっ!? レベルが上がってなきゃ多分躱わせなかったぞ……」
爪が頬を掠めた。
だが、怯むことなくレンはアロンダイトを振り抜く。
——ザシュッ!
深く入った一撃。龍狼はその場でバランスを崩して倒れる。蓄積されたダメージもあり起き上がれなくなった。
「アンタもやればできるじゃない」
「ナーシャの適応力が異常なんだよ……」
「そんなことより、まだ二体残って——」
その時、レンは違和感に気づく。妙に静かだ。
さっきまで激しく動いていた龍狼たちが、何かを警戒するように動きを止めている。木の下敷きになった龍狼の更に後ろにもう一体、迫り来る影。
重く、まるで地鳴りのような咆哮をあげる存在がそこにいる。
ズシン。ズシン。
一歩踏み出すたびに、地面が僅かに震える。
「なんだよアイツ⁉︎」
「メチャクチャデカいわね」
奥から現れたのは、手前の二匹を足蹴にできるくらい大きな龍狼だった。
「レン、更に良い情報があるわよ。ご覧なさい」
ナーシャがイクリプスの引き金を引くが、カチカチと音が鳴るだけだった。
「弾切れ……!?」
「弾の概念がよく分からないけどね。バブルが倒せてたから私に設定されてる魔力由来のものなのかも」
「その情報は出発前に知りたかったぜ」
接近戦しか手段のない二人。
対するは魔界樹とも負けず劣らない威圧感を放つ龍狼。さっきまで戦っていた個体とは段違いだ。
「ナーシャ、ここは退こう!」
「え?」
「アレはさすがに無理だ! 銃も使えないんじゃ勝ち目が——」
—— ギュンッ!
レンが声をかけた時だった。レンとナーシャの間を、一筋の光が駆け抜けた。
「グルァァァッ!?」
光が巨大な龍狼へ直撃する。次の瞬間、龍狼の身体が一瞬で凍りついた。
「……は?」
レンが目を見開く。
「凍ってる……? 今の、もしかして魔法か!?」
レンが光の出どころに視線をやった。その視線に相手もレンの存在に気づく。
一度だけだが、見たことのある存在だった。全滅寸前だったところを治癒してくれた彼女——
「あれ……君ってもしかして……あの時の?」
「見覚えがあると思ったら……またここに来たの?」
ピンチのレン達を救ったのは、以前もレン達を助けた少女。ローゼスだった。
「えっと、確か……ローゼス! ローゼスだよな! 助かったぜ!」
まさか三年の時を経て、再びこの森で出会うことになるとは思ってもいなかった。
「知り合い?」
ナーシャがレンを見る。
「一応、知り合いにはなるか。前にも、俺たちを助けてくれたんだ」
「へぇ……」
ナーシャはローゼスを見る。
「じゃあ、今度も助けてもらったってわけね」
「……まあ、そうなるな」
「どうしてまたここに来たの?」
「それは……ちょっと話すと色々……」
ピキ……ピキ……
凍りついた巨大な龍狼だったが、その身体には少しずつ亀裂が走り始めていた。
「……まだ終わってない」
ローゼスが表情を変えた。
「え?」
次の瞬間。
——バキィィン!!
巨大な龍狼を覆っていた氷が、一気に砕け散った。
「グオオオオオオオオッ!!」
轟く咆哮。木々が揺れる。高みの見物をしていたエッジホーク達も慌てて逃げ出し始めていた。低く太い鳴き声はレン達の内臓をも揺らす。
「ヤバ過ぎだろコイツ!」
ローゼスが小さくため息を吐いた。
「……相変わらずね。あなた達」
「え?」
「ちょっと、私をカウントしないでくれる?」
ローゼスは杖を構える。
「三年前と、全然変わってない」
(今回も前回も依頼書をよく見てなかったとは言えない……)
その言葉に、レンは一瞬だけ目を丸くした。
(さて、どうするか……)
レンは考える。ローゼスの魔法でも倒れないところを見るとかなり手強い相手だ。
「イクリプスがなくてもそれなりにやってやるわよ? これでもサバットは履修済みなんだから」
イクリプスを置き、ナーシャは身軽になっていた。当たれば一撃でゲームオーバーになるだろう龍狼の爪も体格が大きい分、大振りになっているおかげで躱すことが出来ていた。
「氷雪の属性に弱い種族なのに、体躯が大きいせいで仕留めきれないかも」
ローゼスは杖に魔力を込めるが、狙いどころに迷っていた。
(魔界樹の時はバグが内部にあったから倒せたけど、今回は……いや、待てよ?)
レンはある事を思い出す。条件は大体一緒だ——
「ローゼス! さっきの氷のやつ、あと何回使える?」
「えっ? 多分、まだ数回は普通に使えるけど……」
「よし! そしたらもう一発だけ、アイツの足止めに使えないか?」
「いいけど、どうするつもり?」
「まあ見てろって。ナーシャ! イクリプス持ってこっちに来れるか!?」
「何か思いついたのかしら?」
ナーシャがイクリプスを回収し、龍狼から離れる。
「今だ!」
「——『凍結』!」
レンの掛け声とともにローゼスは魔法を放つ。龍狼の足元が凍りつき、身動きを制限する。
「で、どうすんの?」
「イクリプスの弾、おそらく魔力由来なんだろ? なら魔力の供給をローゼスに頼んでナーシャが照準を合わせれば……!」
「なるほどね、不確定要素は多いけど」
「氷の魔法をイクリプスでアイツに撃ち込めば、内部から凍らせることができると思ってな。それならいくらアイツでも耐えられないはず」
「私は何をすればいいの?」
「いつでも魔法を放てる状態にして、イクリプスをナーシャと一緒に持ってくれ。あとはタイミング見てナーシャに撃ってもらう」
ローゼスが触れるとイクリプスに魔力が装填される。ナーシャは銃口を龍狼に向ける。準備は整った。
「いくわよ!」
——ドゴォォォォン!!
ローゼスの魔力を乗せた一発は先ほどまでの銃撃よりも遥かに威力が上がっていた。レンのプラン通り、龍狼を貫通し、内部から凍らせる。
龍狼は弱々しい声をあげてついに倒れた。
「いいわね。差し詰め『凍結電磁砲』てカンジね」
一同はホッと胸を撫で下ろした。




