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彼女にはデバッグが必要です  作者: 輝夜
2章 もう1人の天才

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49話 たった一度のコンティニュー

 面子は揃った。ただでさえ様々な機器が並ぶミレイの部屋。そこに更にナーシャ達の持ち込んだ機器が並ぶ。机の上だけでは収まらず、床にまでケーブルや機材が広がっている。


 ここまで来ると本当にラボに見えてくる。


「スゴイよコレ! 見れば見るほどフクザツで機密な構造だ! ホントにミレイが作ったの?」


 インターフェースを手に取り、様々な角度から眺めながら興奮するイーサン。その目は、まるで新しい玩具を与えられた子供のように輝いていた。


「それを解析させるためにアンタを呼んでるんだから気合い入れなさい」

「オッケー!」

「まずは構造を確認。分からない部分は勝手に弄らないこと。壊したら……」

「わ、分かってるって!」


 一方、ニックはミレイのパソコンの前に座っていた。

 

「このパソコンも見たことない仕組みだ。よく出来てる」


 ケースを開け、中の基板や配線を確認しながら、ウィスタリアのデータにも目を通していく。


「ニック、分析はあなたのオハコでしょ。インターフェースが上手くいってもそっちが手詰まりしたら意味ないんだからね」

「イェッサー」

「あと、勝手にデータ消したりしないでよ」

「それはオレを信用してないってことかな?」

「信用してないわよ」

「……oh」


 ナーシャは2人を煽りながら指示を出していく。


(俺だけじゃ何もわからなかったけど、ナーシャ達なら本当になんとかなるかもしれねぇ……!)


 レンは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。自分が何時間睨み続けても理解できなかったものを、三人は次々と分解し、整理していく。


「なあ、ナーシャ」

「何?」

「ナーシャはどうしてミレイをそこまでライバル扱いするんだ?」

「……」


 ナーシャの手が止まった。


「なんで?」

「いや……ちょっと気になってたんだ」


 レンは少し考えてから続ける。


「ミレイが言ってたんだ。ナーシャは自分と違う方向のコンピューター知識を持ってるって」

「そうね」

「それに、ナーシャはミレイのことをずっと『越えなきゃいけない壁』って言ってるだろ? どうしてミレイをそこまでライバル扱いするんだ?」


「そうね。話しておく?」

「ああ」

「じゃあ、少しだけね」


 ナーシャはミレイの部屋を見渡した。そこには、ミレイが残した機器や資料がいくつも並んでいる。

 

「あのコはね、言うとおり天才だったわ。ハッキング対決でも私は負けたわ」

「ハッキング対決……?」

「どっちが先にお互いのパソコンを乗っ取れるかって対決」

「どんな対決だよ……」

「普通にやってたわよ?」

「普通じゃねぇよ……」


 レンが呆れる。

 

「他にも色々勝負したわ。プログラムを組む速さとか、問題を解く速さとか。もちろんゲームもね」

「ゲームまで?」

「運要素のゲーム以外じゃ大半負け越しよ」

「さすがだな……」

「だから何度だってリベンジしたわ。私、勝つまで諦めないタイプだし」


 ナーシャは少し得意げに笑う。

 

「……なんとなく分かった」

「何よ?」

「いや、別に」


 レンは苦笑いする。確かに、今までのナーシャを見ていれば分かる気がした。

 

「私はねコンティニュー出来ないゲームはキライよ。負けたら終わり。そこで全部終わり。そんなゲーム」


 ナーシャはミレイのインターフェースへ視線を向ける。

 

 「今回のウィスタリアだってアンタ、負けて帰ってきたんでしょ」

「……ああ」

「負けることは別に悪いことじゃない。問題なのは諦めること。でもそれ以上に問題なのは、再戦すらさせてもらえないことよ」


 レンは黙ってナーシャを見る。

 

「一度勝ったくらいでログインさせないなんて許さない。何が何でもログインしてやるわ」

「今度負けたらそれこそ本当に終わりだとしてもか?」

「それなら負けないようにしなさい。最初に戦った時は不意打ちみたいなものじゃない。面と向かって正面から決着つけて、それでダメならそれまで」


 その言葉に迷いはなかった。

 

「私だってミレイに負けっぱなしはイヤ。勝ったまま、どこかに消えるなんて、させないわよ」


 レンはしばらく何も言えなかった。その言葉の奥にあるものが、少しだけ分かった気がした。ナーシャにとってミレイは、単なるライバルではない。


 何度負けても追いかけ続けた、自分自身を証明するための相手なのだ。


 ————あれから数日


 ミレイの部屋は、もはや完全にラボと化していた。昼も夜も関係なく、機器の駆動音が響く。


 イーサンはインターフェースの構造を調べ、ニックはパソコンとウィスタリアのデータを解析する。


 ナーシャは二人の作業を確認しながら、自分自身でも解析を進めていた。


 レンには、その作業を手伝うことすら出来ない。ただ待つしかなかった。


 そして——


「……よし」


 ナーシャが大きく息を吐いた。

 

「インターフェースはおそらく起動できるところまでは来た」


「本当か!?」


 レンが立ち上がる。

 

「ええ。ただし、完全に安全とは言えないわ」

「……っ!」

「それでも、今の状態ならウィスタリアへ接続できる可能性はある」


 レンはインターフェースを見る。数日前までは、ただの理解不能な機械だった。しかし今は、ミレイのいる場所へ繋がるかもしれない装置だ。


 

「あとは、アナタ次第よ。どのタイミングで行くかちゃんと決めなさい。これが、たった一度だけ許されたコンティニューなんだから」




「ニック、イーサン。インターフェースは両(・)方(・)と(・)も(・)起動できるようにはなってるのよね?」

「ああ」

「ならいいわ」


 ナーシャはインターフェースを手にとる。

 

「えっ? ナーシャ?」

「当然でしょう? 私も行くわ」

「もし、失敗したら戻れないかもしれないんだぞ?」

「勝てばいいのよ。それにフルダイブを超えたゲームなんですってね。面白いじゃない。ここまで色々やらせてテストプレイすらさせないなんてことはないわよね?」

「ナーシャが良いなら……」

「それで、アンタはアンタで、ミレイの攻略方法は見つかったのかしら?」

「一応、仮説だけど考えたことがある。ログインする前に一度話し合いたい」

「わかったわ。今日は各自、身支度してログインは明日決行。それでいいかしら?」

「ああ」


 明日。

 もう一度、ウィスタリアへ。


 そして今度こそ——ミレイを連れ戻す。

 レンはそう心に決めた。

 

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