48話 援軍
報酬はさておき、ナーシャが味方になってくれたのはかなり心強かった。あとはもう一度ウィスタリアにログインできるかどうか。
「ああ、そうだ。先に連絡入れておかないとネ」
ナーシャは何かを思い出したように、タブレットを手に取りメール画面を開いた。宛先を2人分いれて、簡潔に内容を打って送信した。
「さて、こっちはこれで大丈夫でしょ。パソコンはともかく、インターフェースはかなり時間取られそうだし」
ナーシャは大きく伸びをして、持ってきた部屋着に着替えた。メガネを掛けて、ガムを噛みながら再びミレイのパソコンと睨めっこをする。
画面に並ぶ無数のデータ。普通なら何が何だか分からないそれらを、ナーシャは迷うことなく一つずつ確認していく。
「……やっぱり普通のパソコンとは全然違うわね」
——同刻、メールの通知音に気づいた2人の男性。
「なぁ、ナーシャからメール来たぞ?」
「なんだ、ミレイに会えたって?」
2人はメールを開き、覗き込む
「"今すぐ日本に来なさい"」
脈絡のないメールに2人は顔を合わせてポカンとする。
「why?」
「なぁ、ニック。俺ァ嫌な予感しかしないんだが」
「気が合うねイーサン。僕たちに安息はないようだ」
「……無視、してみるか?」
「やめとこう、そんなことしたら何されるかわからん」
葛藤している最中、2通目のメールが届いた。
「"上手くいったら1人5万ドルあげてもいい"」
「「えっ?」」
一転して歓喜。まさかの大金に2人は即座に準備を始めた。
———その頃、深夜。レン達は
「蓮君、寝なくて大丈夫なの?」
「もうちょっと、考えたいことがあるので」
レンは自室の代わりに用意された部屋のベッドへ腰掛けたまま眠ることが出来ずにいた。
「わかりました。無理しないでね」
「ありがとうございます」
(さて、インターフェースについてはナーシャに任せるとして、俺の問題はログインした後だ)
(どうすればミレイを助け出せる? どうすればあのミレイを倒せる?)
(思い出すんだ……あいつの一挙一動。何でもいい、何か突破口はないか)
「…………」
目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、あの時の光景だった。
アロンダイトを掴まれた。そして——握り潰された。
あの瞬間の感触を思い出す。
(……どうすればいい)
ログインすること自体は目的じゃない。ミレイを助ける。それが目的だ。
レンは何度も思い返す。バグの動きを。そして言動を。
攻撃。魔法。スクリプトコード。アロンダイト。
何も通じなかった。だが、一つだけ気になることがあった。
(あいつは、ミレイのデータを取り込んだって言ってた)
(あいつは本当に、ミレイと同じなのか?)
答えは出ない。そもそも、今の自分には情報が足りなすぎる。
「……くそ」
レンは頭を掻く。
そう呟いたところで、結局その夜、レンは眠ることが出来なかった。
——翌朝
「蓮君、おはよ……あら、もしかして寝てないの?」
高木が部屋を覗き込む。
「色々考えてたら結局寝れなくて」
「ナーシャさんの方はどうかしら?」
「ちょっと、いってみますか?」
二人はナーシャが作業している部屋へ向かい、ドアをノックした。
「ナーシャ? 開けるぞ?」
レンが恐る恐る扉を開ける。部屋の中では、ナーシャがパソコン画面を見ながらガムを噛んでいた。
「もしかして、ナーシャも寝てない?」
「ん? もう朝なの? ホント1日って短いわね!」
「いや、それは寝てないからだろ……」
レンは呆れたように呟く。
「ああ、パソコンの解析はある程度終わったわよ」
レンが画面を覗き込む。
そこには、昨夜までにはなかった大量の解析結果が表示されていた。
「マジか……さすがミレイが危険視するだけある」
「褒めても何も出ないわよ」
「いや、普通に凄いと思って……」
「インターフェースやパッチのデータとかは見れそうだけど、肝心のウィスタリアにはインターフェースが動かせないとどうしようもないみたい」
「パソコンだけじゃダメか……」
「多分、夕方くらいには援軍が来るだろうから、待ってなさい」
「援軍って一体誰なんだ?」
「私の学校のパシ——友達よ」
(今パシリって言おうとしたな)
——夕方
インターホンが鳴った。
「来たわね」
ナーシャが玄関へ向かう。そこに立っていたのは、二人の外国人男性だった。
一人は金髪に近い明るい髪色で、どこか飄々とした雰囲気の青年。
もう一人は体格が良く、見るからに力仕事にも向いていそうな青年だった。
「遅い」
扉を開けるなり、ナーシャが言い放つ。
「……Sorry」
「ここではなるべく、日本語で話しなさい。私だってわざわざ覚えてきたんだから」
「Um……少し、だけなら話せるが……」
「ハジメマシテ、僕はイーサン」
金髪の青年が少しぎこちない日本語で頭を下げる。
「ニコラス。ニックってよんでくれ」
もう1人も続ける。
「よろしくお願いします」
レンも頭を下げた。するとイーサンがレンを見て、少しだけ目を丸くする。
「キミがミレイのボーイフレンドか」
「は、はい。えーと、My name is Ren Orihara.」
「アンタも、慣れない英語使わなくていいわよ」
「……はい」
ナーシャは呆れたようにため息を吐いた。
「それより、二人とも来たなら早速仕事してもらうわよ」
「ナーシャ、僕たちは長時間のフライトを——」
「一人5万ドル」
——「やろう」
イーサンが即答した。
「おいイーサン、話くらい聞けよ」
「5万ドルだよ?」
「……そうだったな」
ニックも頷く。レンと高木は顔を見合わせる。
(この二人、大丈夫なのか……?)
「機械イジリならボク。力仕事とパソコン関係はニックに任せてよ」
「ありがとうございます!」
「さあ、やるわよ。このインターフェースの分解」
レン達はミレイ救出のため、再ログインに向け本格的に動き出した。




