47話 始動
あれから数時間後、3人はミレイの家へと戻り今後の動きについて話し合っていた。
「それにしても随分精密なモノね、このインターフェースとやら。仕組みも構造もワケ分からないわ」
ナーシャはインターフェースを両手でつまみ上げてグルグル回しながら全体像を眺めていた。
「だけど、コイツが動かないとウィスタリアには接続出来ないんだ……何とかならないかな?」
「そうね、まず一回全部分解さないとダメね」
「ぶ、分解!? これをか!?」
「そんなこと、出来るんでしょうか……?」
ナーシャの回答にレンも高木も心配そうな表情を浮かべた。その過程で万が一壊れでもしたら誰も直せない。
「そうでもしないとこれが何かすら分からないわよ。あと、これ必要なもの。メモに書いたから明日、用意してきて」
ナーシャから渡されたメモは紙の端から端までびっしりと文字が書かれていた。見慣れない名称で用途は不明だが、内容からして恐らく電子機器や機材も含まれている。
「これを買えばいいのか? なんか知らないものばっかりだけど売ってるものなのか……?」
「そんな難しいものは書いてないわよ。大きな店か、ネット通販で揃うモノばかりよ」
「わかった、何とかしてみる。ちなみに一通り目処がつくまでどれくらいかかりそうなんだ?」
「この調子なら数ヶ月は掛かるわね。どんなに早くても。なんならヘタしたら一年以上もあり得るわ」
「そ、そんなに……」
「この状況が一年で済むなら寧ろ御の字でしょうが。でも私だってたかが数百万の為に一年掛けるわけにはいかないわ」
「えっ? じゃあどうやって……」
ナーシャは自身の荷物をガサガサ漁り、おもむろにタブレットを取り出した。
「援軍を呼んであげるわ」
「援軍?」
「ええ、多分2〜3日後には来てくれるわ。というか来させるわ」
「2〜3日後って……そんな都合の良い援軍いるのかよ!?」
「まあ、細かいことは明日話すわ。ねぇ、高木さん。コーヒーを貰えるかしら?」
「コーヒーですね。少々お待ちを。ご宿泊用の部屋も準備致しますね」
「待ちなさい、私が寝泊まりする場所はミレイの部屋でいいわ。というかここじゃないと作業が進まないし。そもそもインターフェースを使えるようにしても、このパソコンのパスコード破らないといけないんでしょ?」
「……わかりました。ではこちらにコーヒーをお持ち致しますね」
「パスコード破るって……マジでそんな事出来るのか?」
「私を誰だと思っているの? ナーシャ・ストールマンよ? たかが一個人のパスコードくらいブチ破ってやるわ」
そう言うとナーシャはミレイのパソコンやキーボード、その他周辺機器を細部まで眺め始めた。何かヒントになるものはないか、手掛かりがないかを含めて。
(期待はしてなかったケドやっぱりパスコードのメモとかは無さそうね。それにしてもどれも見慣れない型ね……本体は完全に自作で部品もオーダーメイドしたものかしら?)
ナーシャはパソコンの画面をつけてパスコードの入力欄に適当な数字を入れて桁数を確認した。
(パスコードは16桁か。キーボードの文字の掠れ具合が均一じゃない。もしかしたら一部の文字は先に特定出来るかもしれないわね)
ナーシャは露店の様に自身のノートパソコンやタブレット、数本のケーブル、用途不明の機材を並べた。
「……一体何が始まるんです?」
「パターンの解析と入力履歴の照合ね。それと外部からパスコードを形成するプログラムを排除出来ないかを試すのよ。キーボードの文字数も限られてるし試行回数での解除が可能ならそこまでキツくないかもね」
質問をしたレンだったが、質問をする項目が増えただけだった。
「ミレイの時も大体そうだけど、この手のものってスタートダッシュでもう置いていかれるんだ」
「そう。まあアナタには他にやる事を指示するから構わないわ」
「そうしてくれ」
(元々決着をつけるつもりで日本に来たけれど……数奇ね。こんな形でミレイと勝負するハメになるなんて)
一方、レンはナーシャに期待を寄せるとともに同じくらい不安も感じていた。表情には出していなかったが、恐らく高木も同じ気持ちだろう。
(ナーシャ……今更だけどあいつの事、信じて大丈夫なのかな。ミレイも少なからず危険視してた程のヤツだしな)
それでも信じるしかなかった。
「ナーシャさんってミレイとどんな関係なんですか?」
「『ナーシャ』でいいわ。どんな関係っていうほどのものでもないわよ。まぁ、私からしてみれば"越えなきゃいけない壁"かしらね」
「壁……?」
「この私を一度でも『負け』と思わせた相手よ。だから私が私である為に越えなきゃいけない壁」
「なるほど……俺からしてみればミレイと同じ土俵で勝負しようと思えるだけでもかなり凄いと思うんだけど」
「あなたはあのコと一緒に居て、自分より優れた人間を見て悔しくはならないの?」
「全くそう思わない訳じゃない。でも土俵にすら上がれないんじゃ勝負にならないし、それなら俺はどんなことでも、ミレイのできないことをしたいかな」
どうにも、面白くない反応を見たようなナーシャは自分がやっていた作業を再開する。
「ふーん。まぁいいんじゃない? 否定するほど悪い答えじゃないわ。私は、私なりの答えがある。それだけ」
レンは、ナーシャの集中をこれ以上削がないよう、部屋をあとにした。




