37話 不穏
二人はバーレル鉱山内へ歩を進める。内部は人の気配もなく足場も視界も悪い為、ミレイの豪爆炎の要領で放出した光を松明代わりにしていた。
「……本当に、ここがバーレル鉱山なのか?」
「昔はな。今はただの危険区域だ」
「ブラックデーモンにメタルゴーレム、デュラハン……どれも最終盤に出てくる様な魔物ばっかり彷徨いてるな……」
鉱山内には強力な魔物が蔓延っていた。おそらく戦闘となれば、今のミレイの力があってもかなり危険だ。
「どれも、まともに相手はしたくないな」
「バーレル鉱山だけ推奨ランクも出現する魔物もだいぶ上振れしてるが……まさか、ここが管理室のある場所だとわかってやってるのかな」
「どうだろうな。だがこうしてログインして内部から管理室に来ない限りは中に入れない様にしてある。パスコードを始め、複数のロックをかけているんだ。これを外部からデータとして破壊されるか、侵入されたとしたらそれは当然、私のセキュリティが相手の力に劣るということを意味する」
「多分、ミレイ相手にそれはないと思いたい……」
鉱山に入りしばらく歩き続けたが、幸いにも実質的なエンカウントはゼロ。すこぶる順調であった。
しかし、その均衡もある魔物の出現によって崩されてしまう。
「うっ……!?」
突如怪音波の様なものが鉱山内に響いた。辺りを見回すと壁や天井に蛍光色の丸い光が並んでいた。それは巨大なコウモリの目だった。
「あれは、ヴァンパイアバット……!?」
「この様子じゃ見つかったな……走るぞ!」
二人は進行方向へ走り出す。それに伴いバットの群れは羽音を鳴らしながら飛び始める。ヴァンパイアバット1匹あたりの戦闘能力は大した事ないが、基本群れで行動しており、吸血能力もさることながら丈夫な羽は当たりどころによっては刃物の様な切れ味もある。
「防壁展開!」
ミレイはレリエッタとの戦いで見せた、バリアーを展開しバット達の追手を阻む。スクリプトコードのシールド展開とは違い、入力の手間がなく、技として確立されている為、躊躇いなく使用が出来るものだった。
だが状況は徐々に悪くなる。ヴァンパイアバットからの逃走中に他の魔物にも気付かれてしまっていた。
(厄介だな……おそらくヴァンパイアバット以外は豪爆炎1発では倒せないな)
ブラックデーモンの魔法、デュラハンの攻撃は着実にミレイのバリアーを削っていた。
「ミレイ! あとどれくらいだ!?」
「今、中層部に入った所だ……! あと……もう少しだ!」
「あともう少しつっても、この状況かなりキツイな! 何とかならないか!?」
バリアーに穴が空き始める。後ろの追手を振り払っても、ヴァンパイアバットの数は減らない。前から横から上から、どんどん飛んでくる。時折り、防ぎきれないバットの羽で二人は少しずつ裂傷を負い始める。
「そうだな……管理室まで、行けば……そこからは……魔物は、不可侵だ」
どれほど走っただろうか、ミレイは目は虚ろになって息を切らし体力の限界を迎えていた。
(まずい……ミレイの体力は人並みのままか! ——このまま逃げ続けるなら……)
「ミレイ、ちょっと我慢してくれ!」
「れ、レン!?」
レンはミレイを抱き抱えると、そのまま走り続けた。両手で抱えている為、剣は振れない。走る事に全意識を集中する。
「相変わらず体力は人並みだな」
「そうだな、レンに唯一劣る部分だな」
「減らず口を」
レン達と魔物の群れに距離が出始める。ミレイはここぞとばかりに手のひらを後方に向けて構える。
「レン、頭を絶対動かすなよ」
「んっ? 頭?」
「バリアの効果も、もうそれほど長くはもたない。どうせ、後には退けないからな。追手を退路ごと断つ」
「ミレイ? お前まさか……」
「——豪爆炎」
「うぉぉぉぉぉ!?」
後方に向けて放たれた魔法は天井に当たり、爆発する。付近は岩盤が崩れて完全に塞がってしまった。ヴァンパイアバットも他の魔物も落盤と豪爆炎に巻き込まれて半壊していた。
「おまっ……やるならやるって言ってくれよ!?」
「だから、頭を動かすなって言ったろう……?」
「おぉ……」
「そのまま、走り続けてくれ。前から魔物が来たら私の豪爆炎で吹き飛ばすから」
「正面は落盤させるなよ?」
二人は残りの道を進む。鉱山の最深部が目的地だったら間違いなく保たなかっただろうが、今回は中間地点にある管理室がゴール。途中から正規ルートを外れて管理室の方へ進んでいった。
「着いたぞ、ここだ……」
「これが管理室……俺が昔開けられなかったあそこか」
二人の前に、鉱山に似つかわしくない電子ロックの様なものが掛かった扉が現れる。二人の終着地、管理室の扉だ。
————その頃、ザラム
レンとミレイを除いて寝静まったメンバーだったが、ナルが水を飲みに起きたタイミングで外で起きていた異常に気づく。
「なんや……? あれ?」
窓から外を見ると、夜にもかかわらずやけに空が明るかった。そして、その光源を中心に空が渦を巻いていた。
「ちょ……一体何がおきとんねん!? アイツら起こさんと!」
ナルは慌てて全員起こしに行くもレンとミレイがいないことに気付く。
「あれ? 2人は一緒じゃないんか?」
「それが……どこにもいないの!」
ミィナは青ざめた表情で宿中を探していた。
「もしかしたら宿にはいねぇかもしれねェ! 一旦、外に出てみるぞ」
ソルが宿の入り口を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「ソル、ミィナ……これって」
「……あの時と、同じだ」
カイルの呟きと共に、空の渦が大きくなる。
「おいおい……なんだよ、これ」
カイルはエルムダールでのバグを思い出した。あの謎の数列のようなものが、少しずつだが建物、木、そして倒れている住民から出ており、空の渦へと伸びていた。




