36話 バーレル鉱山
——あれから、夜更けまで大騒ぎをしていたが、疲れもあってか各々の部屋に戻り、寝静まった一行。レンとミレイを除いて。
(特級ブラックリスト……とんでもないヤツらだった。レニの街のブラックリストとは比にならなかったな……)
「さすがに、今回の戦いはかなり肝を冷やしたな」
「魔界樹といいレリエッタといい、難易度高すぎるぜ」
ソル達が寝ているのを見計らい、レンはミレイに連れられて、夜道を歩き進めていた。街を外れて道は暗さを増していく。
「なぁ、これどこまで進むんだ? というか、こんなに街外れまで歩いて、魔物とか大丈夫なのか?」
「安心しろ。出てきた魔物は豪爆炎をチラつかせれば大抵逃げ出すぞ」
「まあ、確かにあんなモン食らったら大体一撃だろうしな……」
「それに、目的の地点にはもう着く」
「目的、『地点』?」
「ここだ」
ミレイが歩みを止めた場所は切り立つ崖の上。
「……崖?」
「崖だな」
「行き止まり、よな?」
「行き止まらないぞ」
「えっ………………まさか、飛ぶの?」
「いやー流石レン! 話が早い!」
「待て待て待て!! この高さはちょっとダメだろぉ!? いや、普通にダメだわ!」
二人のいる崖は、かろうじて下がギリギリ目視出来るかどうかの高さがあった。もちろん、落ちれば致命傷は免れ無い高さだった。
「飛ぶことは飛ぶんだが、こっちだ」
ミレイがスクリプトコードを発動すると二人の足下に異空間の様な穴が広がった。
「何これ……ワームホール?」
「ここから、海の更に下の座標まで行く。海の判定の無い場所まで降りたらそのまま一直線にバーレル鉱山のある北西部まで歩いていく。そしたらワームホールの出口をバーレル鉱山の入り口付近の座標で固定して脱出する」
混乱するレンだが、何とかその中でも疑問に思ったことをミレイにぶつける。
「じゃあ……そのワームホールから直接バーレル鉱山に繋げたりした方が早いんじゃないのか?」
「当然そうなんだが、コード入力に時間が掛かるのと精度がシビアになる。要はXYZの軸を寸分違わず入力出来ればいいんだが、間違えてしまうと何処に行くか分からんぞ? Y軸ならともかく、XZがズレたら海にダイブや火山のど真ん中に出る可能性もある」
「……だから、バーレル鉱山付近までその海の下とやらを歩いて行くと?」
「そう、それなら最後にY軸だけ弄ったワームホールを潜って行けば作戦成功だ」
「というか、さも当然の様に言っているがワームホールなんて作れるのか……?」
「エリアの移動判定を応用したものだ。本来ウィスタリアには必要ないんだがな、まさかこんな形で使うことになるとはね」
(海の下を歩いて行くってもはやバグ……というか裏ワザみたいなことしてんな)
ミレイが穴の中へ飛び込む、レンも後に続いて飛び込んだ。内部は薄暗く、見渡す限り何も無い空間だった。足元にほんの僅か、道の様なものが見える。
「なんていうか……変な場所だな」
レンが周囲を見渡す。上下も左右も分からない。遠くを見ても景色は変わらず、ただ薄暗い空間だけがどこまでも続いている。
「気を抜くなよ、正規のルートではないんだ。万が一踏み外す様な事があれば海の中にドボンだぞ。虚数空間の海にな」
「えっ、何それ怖い。絶対やべえやつじゃん」
「相変わらず語彙力に乏しいねぇ。まぁいいか、しばらくこの道を歩き続けるから。気合いを入れるんだ」
「お、おう」
二人は果てしなく続く道を歩き続ける。ゴール地点は海の上に位置する為、先が見えない行進となっていた。
(……今回も、ミレイに助けられっぱなしだったな)
魔界樹との戦い。レリエッタとの戦い。そして、フィガロとの戦い。レンはこれまでの戦いを思い返していた。
「ミレイ、俺って本当に役に立ってるのか?」
「何だ急に? そうだな、前にも言ったかもしれないがレンといると割と心強いよ。そういう意味では役に立ってるかな」
「……そんなもんでいいのか?」
「そもそもこれまでの戦いはレンがいたからほとんど正規ルートで来れたんだから。それにレンは私をログアウトさせるために来てくれたのだろう?」
「ああ、だからこそ俺がもっと上手く立ち回れていればミレイに危険な事させずに済んだかもしれないのにな」
「————レン」
「ん?」
「レンは私を——いや、何でもない」
「何だよ、気になるじゃねえか」
「いつか話すさ。その代わり、私の前から居なくなったら許さないからな」
「ミレイがそれ言う!? じゃあ俺からも言わせてもらうぞ!」
「何だ?」
「もう俺に何も言わないで消えたりすんなよ」
「……そうだな、ログインした当初は心配かけてすまなかった」
「んっ……? というかこれ……」
「ふ、あははは! 私とずっと一緒にいるつもりかい?」
「そうなるな。なんかもう、10年の付き合いだからな、一緒なのが当たり前な感じがしちまってるが……」
「レンは、私と一緒にいると疲れるかい?」
「いや、そんなこたぁないけど」
「私は、まだまだレンと一緒にいたいかな」
「そりゃどうも」
レンは照れ隠しのように前を向いた。ミレイはそんなレンの横顔を見つめ、ほんの少しだけ笑った。
「……そういうところだよ、レン」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもない」
長い道中、幾度となく会話を重ねる。今後の事、くだらない事、楽しかった事や辛かった事、何でも——
「さぁ、着くぞ!」
「あぁ!」
所定の位置に着き、ミレイがワームホールを開く。
(推奨ランクが5に改変されたバーレル鉱山……本来、こんな場所じゃなかったはずだ)
鉱山内への入り口は異質な雰囲気を漂わせていた。以前は採掘場として整備されていたはずの場所なのに、今は人の気配どころか、風の音すら聞こえない。
「いくらよるとはいえ……静かすぎないか?」
「ああ。油断はするなよ」
(魔物に遭遇したら今の俺たちじゃ相当キツイな……それに、やっぱりミレイのやつ相当無茶してるだろこれ。ウィスタリアに来た当初なら、こんな裏ワザみたいな移動手段使わなかったろうに)
「ここが、バーレル鉱山か……見覚えはあるが雰囲気は俺の知ってるバーレル鉱山じゃないな」
「気を抜くなよ、ここがゴールじゃない。管理室まで無事に辿り着くんだ」
「わかってる! 慎重に迅速に、だな!」
2人は鉱山内へと歩き始めた。




