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彼女にはデバッグが必要です  作者: 輝夜
1章 ウィスタリア攻略

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28/28

28話 緊急事態

 昼寝しているソルを置いて、レン達は甲板に出て大海原を眺めていた。到着までまだしばらく時間がある。


「私ちょっと離れるから」


 甲板に出て数十分程、ミィナが一人甲板から離れて船内へ戻っていった。


「はい、水よ。起きてるんでしょう?」


 ミィナが向かったのはソルの元。


「あん? なんで起きてるってわかったんだよ?」

「これよ」


 ミィナはソルの腹部を指でぐりぐりする。

 

「あいでででででっっ!!」

「やっぱり、まだ傷治ってないんでしょ?」


 外傷の大半はローゼスの回復魔法で治療されていたが、それでもソルが受けたダメージは完全には癒えていなかった。


「さすがはミィナ。よく見てやがる」

「私を庇ったせいでつけた傷だもの。私が分からないわけないじゃない……」

「別に大したことねぇよ」

「でも……!」

「気にすんな! 仮にあの時お前が攻撃を受けてたらシャレにならねぇことになってたかもしれねぇ。それだけは避けたかった」

「だからって……もう、バカ! でも、ありがとう……」

「おうよ、気にさせてすまなかったな」



(……もう、俺のせいで大事な人を失うのは勘弁だからな)


 

 出航して数時間、レン達を乗せた船はセアラの港へと辿り着いた。


「水の都セアラねぇ、確かに名前の通り至る所で水が流れてるんだな」

「海の上にまで街を作ってるんだ。よく出来てるわね」

「ちなみに、そのナルって方の居場所は分かるんですか?」

「いや、場所までは分からない。でもパーティー名も分かってるし、名刺もある。街の人かセアラ支部のギルドに聞けば見つかるだろ」

「ギルドって言っても、そもそもギルドの場所も分からないじゃない?」

「大丈夫だ、セアラのギルドの場所なら私が知っている」

「ミレイ、ここって……」


 セアラの街を見渡しながら、レンは違和感を覚えていた。というのも、レンがプレイしていたウィスタリアにはセアラという街そのものが存在しなかったのだ。


「知らなくて当然だろう。レンがプレイしていたウィスタリアに出てくる街やダンジョンに加えて、追加のコンテンツやアップデートを重ねているんだ」

「じゃあ、そこは創始者のミレイに案内してもらうか」


 レン達はミレイに先導され、ギルドへ向かった。


「それにしても、街の規模の割には随分人が少なくないか?」

「確かに、何か変ですね」

「君たちも賞金稼ぎ(ハンター)かい?」


 そう呼び止めたのは、レン達の会話を耳にしていた、近くの道具屋を営む老人だ。


「ああ、そうだが……」

「例の"速報"は知ってるか?」

「速報?」

「なんだ、知らんのか? なら、早くギルドに向かうといい。街の連中は情報を求めてギルドに行ってるだろうよ」

「分かりました。あ、ついでで悪いんですけど、『紅影』ってパーティーをご存じでしたら、何処にいるか教えて欲しいです」

「アイツらの知り合いか? 真っ先にギルドへ向かっていったと思うがな。まだいるんじゃないか?」

「そうですか、ありがとうございます!」

「ねぇ、ギルドの"速報"って嫌な予感しかしないんだけど……」

「大丈夫だ! 予感とかじゃなくて、多分本当に嫌なヤツだ!」

「フォローになってない!」


 ミィナの不安を結果的にソルが煽っていた。


「まあまあ……依頼であれば、受ける受けないは決められるんですからとりあえずギルドに行ってみましょう?」

「そうだな。ミレイ、案内を頼む」

「ああ、じゃあ行くぞ」


 しばらく歩を進めるレン達、ギルドに近づくにつれて人通りが増えてきていた。徐々に人数は増えていき、ギルドに着いた頃には人だかりになっていた。


「なに!? この人だかり!? 賞金稼ぎだけじゃなくて、街の住人もかなりいるじゃない!?」

「それだけ大々的なニュースなんだろ」

「嫌な予感しかしませんね……」


 レン達はギルドの外、中央上部に照射され映し出されたビジョンに目をやった。


「ねえ、あのビジョンに出てる人って、現ギルドのトップのレビウス総司令官じゃない? 珍しい、こんな表だった場になんて普段出てこないのに……」

「へぇ、あれがギルドの一番のお偉いさんか。そんなやつが一体何を発表するって?」


 人だかりがざわつく中、レビウスの登場によって空気が重くなり周りが静かになる。


"国の統治に携わる方々、ギルドへ従事する方々、賞金稼ぎ(ハンター)の皆様に緊急で伝えねばならない事があり、今回こういった形式で、全てのギルドに中継し、会見をさせて頂きます"


「ミレイ、こんなイベント追加したのか?」

「いや、記憶にない」

「じゃあこれって……実際にNPCが意志を持って起こしてるイベントになるのか!?」

「恐らくは、だ……」


"結論から申します。我々ギルド本部は何者かの襲撃を受けました。その結果、当監獄にも侵入され、収監されていたブラックリスト数名が脱獄致しました"


「おいおい……マジかよ」


 レン達だけでなく、集まっている他の賞金稼ぎ、街の住民達も不安の声を上げていた。


"当局はこれを受け、各国家公認賞金稼ぎ(ハンター)の招集を行い、ギルド調査兵団、各国衛兵と共に今回の事件の首謀者、脱獄したブラックリストの捜索にあたります"

 

 レンも、ミレイも知らない、予定外のイベント。NPC達が住む世界だからこそ、ゲームには存在しなかった事件が、二人の知らないところで動き始めていた。

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