26話 幕開け
謎の男、ドルマの手によって放たれたブラックリスト達は徐々に動きを見せ始めていた。一方でレン達は決断を迫られていた。
「聞き逃げはナシだって言ってたけど、話ってなんだ?」
レンが問いかけると、ナルはすぐには答えなかった。いつものように軽口を叩くこともなく、俯いたまま黙っている。
「ウチもな、似たような境遇なん」
「それって……」
ソルが反応する。
ナルは一度だけソルの顔を見ると、ゆっくりと息を吐いた。ナルも、キキも顔を俯かせる。
「兄さんが……ヤツに殺されたんや」
「……!」
その言葉に、ソルの表情が変わる。ナルは普段の明るい調子を消し、どこか遠くを見るような目をしていた。
「『紅影』の創始者でな。ウチがまだ小さい頃から、ずっと憧れの兄さんやった」
キキも何も言わない。ただ、ナルの隣で静かにその話を聞いている。
「強くて、面倒見が良くてな。困っとる人がおったら放っとけんような人やった。賞金稼ぎとしても、それなりに名の通った人やったんやで」
「……ナルの兄貴が、紅影を作ったのか」
「そうや。今の紅影があるんも、元を辿れば全部兄さんのおかげや」
ナルは胸元に手を当てる。
「ウチは兄さんの背中を追いかけて、賞金稼ぎになった。兄さんみたいになりたくて……いつか同じ景色を見たくてな」
そこまで言ったところで、ナルの表情が僅かに歪んだ。
「せやけど……その夢は、途中で終わった」
ソルが拳を握る。
「……首狩りか」
「そうや」
ナルは短く答えた。
「兄さんは、あの男に殺された」
「すまん……」
ソルが静かに頭を下げる。ナルは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに首を横へ振った。
「謝らんでええ。ソルが悪いわけやない」
「でも……」
「ウチも、さっきまで知らんかったんや。まさかソルがあの男に同じような因縁を持っとるなんてな」
ナルはソルを見る。そこには、いつもの飄々とした笑みはなかった。
「親父さんの仇を討ちたいんやろ?」
「ああ」
「……ウチも同じや」
短い言葉だった。
だが、その声には迷いがなかった。
「今な、ソルの話を聞いとったら、何の因果かと思うたわ」
ナルは小さく笑う。
「別々の場所で生きてきた二人が、同じ男を追うことになるなんてな」
そして、フィガロの顔が描かれた手配書へ視線を向ける。
「せやからウチとしては、共闘は願ったり叶ったりってことや」
ソルは何も言わなかった。
ただ、ナルの言葉を聞き終えると、静かに頷いた。
「……ああ。頼む」
「任せとき」
ナルはいつもの調子を少しだけ取り戻して笑った。
「兄さんの分まで、きっちり落とし前つけたろうや」
「……そうだな」
二人の間に、言葉以上のものが通じたような気がした。
レンはそんな二人を見つめながら、改めて手配書へ視線を向ける。
首狩りフィガロ。ソルにとっても、ナルにとっても、決して忘れることのできない仇。そして今、その男を追う理由が二つ重なった。
「それで……」
レンが話を切り替える。
「さっき言ってた有力な話というのは?」
「有力も何も、ヤツらの居場所が分かるかもしれんで?」
「え!? そんな情報何処にも出てないだろ? 何でわかるんだよ!?」
まさか居場所の特定が出来るとは考えていなかったレンは衝撃が隠せなかった。
「ふふん、何を隠そう、ウチのキキちゃんには探知能力があるんや!!」
自慢げに紹介をするナル。キキもそれに対してフフンと誇らしげな顔をしていた。
「探知能力?」
「そうか、固有能力か! 当然、敵の位置を特定出来ればアドバンテージとして働くな」
「それって敵のいる場所をマーキングするのか?」
「そんなところだ。正確にはマーキングとは少し異なるがそれで位置は把握出来るだろう」
強力な能力に好機を見出せたかにみえるレン達。しかし、肝心の問題が解決していない。
「でも位置は特定出来ても問題はどうやって戦うかだな。少なくとも首狩り単体でもかなり厳しいぞ?」
「全員で戦う必要がなければ分断するか、一人になる隙を狙うか?」
「それでも、相手はブラックリストの中でも特に危険なメンバーだ。俺たち全員で戦っても勝てるかどうか……」
「ああ、そのあたりもキキにもう一肌脱いでもらうつもりや」
「へっ?」
「キキ! あれやってみ!」
「はい!」
キキの手から黄金色に輝く光が発せられる。その光はナルの身体に移っていき、同じく黄金色の光を帯びた。
「これはまだほんの少しだけどウチの奥の手なん」
「もしかして強化魔法を使えるのか……! つかキキちゃん万能過ぎるだろ!」
「せやろ? でも、デメリットもあるん。バフの反動がデカいんや。この力で押し切れなければ展開が厳しくなるな」
「要は短時間で決めろって事か」
「それに、手の内がバレたら狙われるのはキキだ。ヘイトを集めて危険にさらしたくない。見ての通り戦闘自体には不向きなんだ」
「なるほど、それも確かにそうだな」
「ねぇ、話しは戻るけどその探知能力って無条件で使えるの? 何か、こう……相手にまつわる物が必要なんじゃ……?」
「モノならさっき揃ったぞ、なぁソルさんよ?」
ナルの問いかけの意味に気づきソルはハッとした表情になる。
「……まさか、俺の記憶か!?」
「その通り、ソルの記憶とウチの記憶。この二つが、発動条件の1つなんや。じゃなきゃこの一連の話しも、ウチら手の内も明かしとらんて。これならあまり時間をかけずに奴らの足取りを追う事が出来る! 獲りに行くで、金星を!」
※ ※ ※
ある道中、馬車に乗ってフィガロとレリエッタは近くの街に向かって進んでいた。
「で、どこか行くところでもあるの?」
沈黙の続いた馬車の中、レリエッタの問いかけがそれを破った。
「別に、特に何も決まっていませんよ。しかし、何をするにも人や物資がある場所の方が都合が良いでしょう?」
「それもそうね。この近くだと"ザラム" が一番近いかしら? それなりに街の規模も大きいし」
その時、悲鳴と共に馬車の動きが止まった。辺りはまだ木々の生い茂る街並みの遠い光景。様子を見にフィガロが外に出ると御者と馬が殺されていた。
「これは……」
「おっさん達運が悪いな、ここはオレらの縄張りでなぁ、ここから先は通行料がいるんだ」
「身ぐるみ全部か命か好きな方を選べるぜ。逃げようとしたらこの御者みたいにしてやるよ!」
いつの間にか馬車の周囲は刃物を持った集団に囲まれていた。数にして十数人ほどだった。
「何、こいつら?」
「さあ、野盗か何かでは?」
「面倒くさ。フィガロ、あなたが対処しといてよ」
「私も気が乗りませんね、強そうなのが一人もいませんし」
フィガロも、レリエッタも、置かれている状況に無関心であった。ちょっとした面倒ごとに巻き込まれたぐらいの気持ちでいる。
「お前ら……自分の置かれてる状況がわからねぇのか? なら、覚悟してもらおうか!!」
蔑ろに扱われた野盗は憤怒し、一斉に襲いかかってくる。
「仕方ないですね、公平に半分ずつにしましょう」
「ちょっと! 勝手に決めないでよ!」
「それはお互い様でしょう?」
「んもう!!」
フィガロは今武器を持っていない。しかし、巧みな動きで攻撃を躱し、カウンターの手刀で一人、また一人と頸椎等の急所を砕いていった。
「緩い、これでは準備運動にもなりませんね」
「そんなに機敏に動けるなら全部やっちゃってよ! もう、ダルイから一発で終わらすわよ」
レリエッタの手には魔力で構成された。禍々しい鎌が握られていた。
「お前ら……! 一体……!?」
「あら、さっきまでの威勢はどこに行っちゃったのかしら?」
「全員! に、逃げろ!」
「もう遅いわよ」
レリエッタの鎌が妖しく輝く。
「深淵の鎌」
鎌から伸びた切先が逃げ出す野盗達を突き刺していく。刺された野盗達はその部位を問わず、虚ろな眼をしてその場に倒れてしまった。そして、鎌を通じて野盗からレリエッタへと魔力が流れ込んでいく。
「体力と魔力を根こそぎ吸収する鎌ですか、恐ろしいものをお持ちで」
「アンタがもし死にそうになったら私が吸収してあげるわよ? 魔力としてこき使ってあげる」
「遠慮しておきます」
「そう? まあいいや。丁度いい駒も手に入るし、時間取られた分道案内してもらって、そのままコイツらのアジトでも乗っ取っちゃおうか」
そう言うとレリエッタは自らの魔力を野盗に浴びせた。すると、死屍累々としていた野盗達は起き上がりレリエッタの元へ集まっていく。
「さあ行きなさい。アンタ達のアジトか、ザラムの街まで馬車を引きなさい」
レリエッタの命令に、野盗達は無言で動きだす。殺された馬の代わりに野盗達が二人の乗った馬車を動かし始める。その姿はまるで従順な亡者だった。
(今度は自らの魔力で洗脳ですか、さすが死霊と言われるだけの力はありますね)
凄惨な現場を後にして、二人は街の方へと消えていった。




