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彼女にはデバッグが必要です  作者: 輝夜
1章 ウィスタリア攻略

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25話 胎動

 意識を戻したソルだったが、開口一番に発された言葉は、ミィナとカイルを困惑させた。


「急に倒れたと思ったら今度は首狩りを討つですって!? どうしてそうなるのよ!」

「ソル! もしかして頭でも打ったの!? これに関しては目に見えてヤバい依頼ってわかるじゃん!」


 二人は心配と不満を絶妙に織り混ぜた表情を浮かべていた。ソルの背景を知らない側としては当然な反応ともいえる。


「ああ……ちょっとな。無理は言わねえ。最悪俺一人か、ナルが手伝ってくれるならそれで行く」


 ソルも折れない。普段ならミィナに怒られたものに関しては手を引いてきたソルだったが今回はそうもいかない。


「まあ、戦力が増える分にはウチは構わんけど」

「ソル、何か話があるなら聞くし、それを信じる。だから教えてくれないか?」

「足りないピースの一部が見つかったのかな? 何かを思い出した、そんな顔をしているぞ」


 状況を見かねたレンとミレイがソルから理由を聞きだそうとする。


「そうなの?」

「親父の事を思い出したんだ」

「え、うそ!? ソル、昔の事はほぼ覚えて無いって前に言ってなかった?」

「ああ、ずっと前からなんか引っかかったような感覚はあったんだが、この手配書の顔を見て思い出したというか、確信した。コイツは親父の仇なんだ」

「首狩りが、ソルの……!?」

「親父は……俺が孤児院にいた頃に出会った賞金稼ぎだった」

「ソル、孤児院にいたの?」

「ああ。物心つく前から俺には親がいなかった。親父はそんな俺を拾って、剣を教えてくれたんだ」

「……それで、その人を首狩りが?」

「そうだ。俺の目の前で……俺を庇って殺された」


 ソルは思い出したことをその場の全員に説明する。自身の境遇、事の顛末、首狩りについて思い出したことが主な内容だった。


「はぁ、そういうことなのね。わかったわよ……でも条件が2つあるわ。まず一つは念入りに作戦を考えて動くこと! もう一つは魔界樹から庇った分はこれでナシだからね! それでいいなら私も行くわ」

「ミィナ……!」

「勘違いしないでよね。別にあんたの復讐に付き合いたいわけじゃないから」

「じゃあなんで……」

「仲間だからよ。……それだけ」

「そういう事情なら、僕も元々は身寄りのない中でパーティーにいれてもらってますし、微力でも力になります」

「カイル……!」

「私も構わんぞ。恐らく、今回のケースは今(・)後(・)に影響する可能性があるからな」

「俺も協力する。そもそもパーティーランク上げたいって言い出してるのは俺だしな」

「レン、ミレイ……お前らまで、すまん。恩にきる」

「なんや、結局満場一致かい。チームワークの良い事やな。したらウチらも合わせればそれなりに数は集まるわな」

「なんにせよ、情報収集は必須だな」

「それなら、ウチからも一つ話しときたいことがあるで。ええ情報も持っとる。その代わり聞き逃げはナシや。一蓮托生で頼むわ」

「わかった、頼む」



※ ※ ※


——同刻、とある場所にて



「あんたが首狩り? 実物は初めて見たけど、想像してた感じと違うのね」


 見た目はあどけない、一見普通の少女が首狩り——フィガロに声を掛ける。


「初めまして、死霊(ネクロマンサー)」

「その呼び方、嫌いなの。私にはレリエッタって名前があるから」

「怖いですね、あなたの行動は想像がつきませんから」

「想像つかないのはアイツでしょ。あそこで、ずっとボーっとしてるアイツ」

「…………」


 傍に銀髪をした青年が腰を下ろして黙って空を見上げていた。


「災厄(ディザスト)ですか……」

「まあいいや、ほっとこ。それより——」


 レリエッタは今回の脱獄の首謀者である人物に視線を向けた。


「ねぇあなた何者なの? 私に——いえ、私たちに何を求めているのかしら?」

「戦力の補強などではないのでしょう? でなければ一人でギルド本部への襲撃、ましてや脱獄の手引きなど大それたことはしないはず」


 フィガロとレリエッタの視線は目の前の男に向けられる。


「——俺のことは『ドルマ』と呼べ。お前達はただの時間稼ぎだ。しばらくは自由にするがいい」

「あなた、私たちをなんだと思ってるの?」

「駒程度にしか考えていないが。計画の邪魔になるならここでお前たちは終わりだ」


 男から溢れる殺意は威嚇の類いではなく、純粋なものだと、フィガロとレリエッタは悟った。


「わかったわ、それなら好きにさせてもらうわ」


 レリエッタは、自らの魔力で魔物を生み出した。


「フィガロ、アンタも乗る?」

「では、お言葉に甘えましょうか」

 2人は魔物の背に乗りその場を去って行った。


(災厄(ディザスト)、いつの間に……?)


 フィガロが気付くと災厄(ディザスト)はいつの間にか姿を消していた。




 ドルマは空を見上げる。そこには、何の変哲もないウィスタリアの空が広がっていた。


「……まだ足りない」


 何かを確認するように呟き、ドルマは自らの手を握り締める。


「力が……まだ足りない」


 その表情には焦りなどなかった。ただ、何かを確信していた。

 

「もう少しだ……あの"女"の言う通りにしていればもっと強くなれる!」


 その時、ドルマの視界の端に、一瞬だけノイズが走った。


「……?」


 だが、ドルマは気に留めることなく歩き出す。それが何を意味するのか、まだ誰も知る由はなかった。


 ドルマは笑う。

 

 レンとミレイの知らないどこかでウィスタリアの歯車が緩やかに狂い始めていた。

 

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