23話 未知との開戦
レニの街で、ナルという獣亜人である賞金稼ぎハンターと同行することになったレン達。
「道具屋とか装備屋とか色々あるのに何処も店閉めてるんだな」
「みんな何処かへ避難したか逃げたかだろうな」
街は閑散としている。いつ何処で現れるかわからないブラックリストに怯え、住人達は屋内に籠っている様子が伺えていた。
「ナル、本当にこの近くにいるのか?」
「場所ん特定まで出来んが、何やか嫌ん気配がしいやな」
「獣の勘というやつか」
その時ナルが、微かな空気の揺れや違和感、影の動きに気付く。
「ミレイ!! 後ろや!!」
背後からの切り掛かりに対して、間一髪のタイミングでナルがミレイを抱えて転がり避ける。ナルは、すぐさま立ち上がる。耳がピンと立ち、尻尾が大きく揺れていた。
「あっぶな……! 今の普通なら避けられへんで!?」
「助かったよ、ナル」
「礼は後や! まだ終わってへん!」
不意打ちを外した男は面倒くさそうな表情をする。
「ちっ! ハズしたか……なぁんで気づいちまったかな」
人気のない暗がりから姿を現したのは、ナルの言っていた額に傷のある男だった。
(コイツが……ブラックリストか!?)
敵意は感じる。だが、それ以上に不気味だった。普通なら歩けば足音がし、呼吸をすれば僅かな息遣いが聞こえる。それなのに目の前の男からは、まるで存在そのものを切り取ったかのように何の音も聞こえない。
「現れたな! 見た目ん割には気配を消すんが巧いな! ギリギリまで気付かんかったわ!」
(気配、というよりこれは……「音」がない?)
「お前らも賞金稼ぎハンターかぁ? まぁだ俺に挑もうってのがいるのか」
(ノイズを感じない!? バグじゃないのか!?)
ブラックリストからはバグやノイズの様子が感じられないだけでなく、歩く音や衣服の擦れる音などが一切出ていない。
「色々違和感んあるヤツやな。あんた一体なんモンや?」
「あぁん? 誰でも構やしないだろう。まぁいい、誰が相手だろうと叩っ斬るか触っちまえばこっちのもんだ!」
男が鞘から剣を抜く。
「何だ、あれは!?」
「随分と趣味の悪い刀だな」
男が抜いた剣は刀身が不自然に黒ずんでいた。それも部分で黒の濃さが違う。刀身自体もアンバランスで幾何学的な造形をしている。
「あれは、バグと言えばバグではあるがこれまでのものとはまたタイプが違うな」
「タイプが違う?」
「恐らくあの刀身には莫大なデータ負荷がかかっている。故に、あの剣か、それを振るっているNPCに触れた瞬間、データ処理が追いつかずフリーズしているといったところだろう。やはり概ね予想はあっていたな」
「つまり、あの剣そのものが触れた相手に過剰なデータ処理を強制している……そういうことか?」
「その可能性が高い。だからこそ、あれをまともに受けるのは危険だ。レンの剣ならフリーズ自体は防げるだろうが、相手の剣を受け続ければこちらのデータにも負荷が蓄積する可能性がある」
ミレイは遠回しに修正パッチが破損する可能性をレンに伝える。危険性で言えばかなり高いバグで間違いなさそうだ。
「じゃあ、長期戦はダメってことか」
「そういうことだ。短期決戦で剣を奪う。それが最も安全だろう」
「仮に予想が合ってたとして、普通に俺の剣でデバッグ出来るのか?」
「受けることは出来るが、あの剣自体をデバッグするとなると一筋縄では行かないかもしれない。フリーズの解除は出来ると思うがデータ自体を削除するものではないからな」
「あんたらなにごちゃごちゃ話しとん!? 来るで!」
ナルが二人に呼びかける。同時に、男は剣を大きく振りかぶりレン達に切り掛かるが、隙の大きい一撃を回避する事はそれほど難しい事ではなかった。レンは紙一重で横へ飛び退いた。剣先が目の前を通過する。
(遅い……!)
攻撃そのものは驚くほど単純だった。ソルやカイルのような洗練された動きでもない。だが、あの剣に触れれば全てが終わる。
(一発でも食らったらアウト……。なら、強さじゃない。こいつは「触れたら勝ち」の敵だ)
そう考えると、むしろ目の前の男よりも、その手に握られた歪な剣の方が恐ろしく見えた。
「クソが! ちょこまかと動き回りやがって!」
(コイツ、剣の扱い自体は恐らくソルやカイルと比べると断然素人だ。それにNPCとしてもレベルは低そうだ。でも俺以外か、俺が剣を持ってない状態で触れたらアウトとなると話が変わるぜ!)
「あんたら切り札があるんじゃなかったんか!? なんで反撃せん!?」
ナルが手足をバタつかせ、話が違うぞと言わんばかりに暴れていた。
「そう慌てるな、勝機ならあるぞ。あの剣と男を二分させる。その為にはまずバグの影響を受けないレンの剣でヤツの剣を弾き飛ばす過程が必要になる」
「やっぱりそうなります? ていうかそれ過程で9割くらい終わってない?」
「あの剣がヤツの力の源なんか? あれだけなんとかすればヤツをボコボコに出来るんやな?」
レンは振り向きブラックリストの前に立つ。
(相手は戦闘能力自体は大した事ない! 今の俺のレベルと俺の剣でならいける!!)
「おぉ? ようやくヤル気になったかぁ? 賞金稼ぎぃぃぃぃ!!」
「待たせたな! 来いよ! ブラックリスト!」
レンは剣を構える。不気味に笑うブラックリストを前に嫌悪感を覚えるが、それを払拭するように剣を握る拳に力を入れた。




