22話 遭遇
あれから、レンは依頼を受けることを決めた。ミレイの言う通り、危険な敵でもバグが相手なら先手を取れればアッサリ終わる可能性もある上、ブラックリストなどギルドへの貢献度の高い依頼はパーティのランクアップの特急券にもなるからだ。
そして、もう一つ。ラグがあるとはいえ本来レンとミレイにはあまり時間の猶予はない。現実世界の自身に何か起こればその時点でウィスタリアにいる二人は危険に晒される事になる。
——「お客さん、そろそろ着きますよ」
レンとミレイは、エルムダールより北西に位置する、「レニ」という街へ来ていた。例のブラックリストが出現した街である。比較的距離がある為、ギルドが特別製の馬車を手配してくれていた。
「随分と便利になったな、前は移動するにも大半は歩きだったのに、馬車なんて導入したのか」
「実際にフルダイブしてまでウィスタリアをプレイするのに、移動手段が徒歩だけなのも疲れてくるだろう?」
「ゲームの世界の中で疲れるってのも、よくよく考えたら不思議な話なんだがな」
街の中心部まではまだ距離があるが、それよりもかなり手前で馬車が止まった。
「お客さん、申し訳ないんですがここまででいいですかい……? ここ最近、おっかないヤツが街に潜んでいるみたいで」
辺りを見ると、賞金稼ぎハンター達と思われるNPC達がちらほら見受けられる。恐らくギルドからの要請があり、他所で手配されたハンター達であった。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」
馬車は二人を降ろすと、そそくさと帰路に着いた。いつどこで襲われるかわからないのだから無理はない。
「おや、あんたらも賞金稼ぎかいな?」
馬車を降りたレンとミレイに、独特の喋り方とイントネーションで話しかけてくるNPCが寄ってきた。
比較的長身の女性で、引き締まっている身体からは、普段から鍛錬されている様子が伺える。レンよりも薄い赤みがかった髪からは猫の様な耳が覗いており、腰の付け根には尻尾が生えていた。
「うぉ!? 人間? じゃなくて、なんて言うんだっけこういう方……」
「亜人だな。見たところ人間寄りで獣型の亜人っぽいが」
「その反応、もしかして亜人が珍しいん? まあ亜人はあんまり数はおらんからな! よくある話や。そや、うちの事は『ナル』って呼んでくれ。情報収集が趣味の賞金稼ぎさ」
ナルと名乗る亜人の女性、初めて顔を合わせたとは思えないくらいフレンドリーだった。
「あ、ああ……どうもご丁寧に、俺達はレンとミレイだ。その、ナルも例のブラックリストを?」
「そや、ただ情報が曖昧で手を打てなくてな。どなたか話しかけやすそうな奴みつけて、情報収集や協力せんか品定めしとるんよ」
「そうなのか、それなら悪いけど俺達は先にこのまま街中まで行かせてもらうぜ」
「え? 相手は賞金首、それも触れたら時が止まったかのように動けなくなるとか言われてんねんで!? 準備もなしに行くとか勝算でもあるんか?」
「一応な」
レンの返答を聞いてナルは何かを閃き、ニヤリと微笑んで悪そうな顔を見せた。
「そんなら、ウチもついてってもええか? 邪魔はせえへん、今後の参考にもしたいし、あわよくば協力分の報酬まで貰えたら万々歳なんだけどなぁ」
「付いてくるって、たった今初めましてって挨拶したばっかりだぞ!? ……どうするミレイ?」
「別にいいんじゃないか? 私達は報酬自体が目的ではないんだし。それに、同行するNPCにはエネミーフラグを用意してない。バグを起こしている様子もない。せっかくだから純粋に戦力として見ようじゃないか。この図々しさはまるで初めて私の家に来た時のレンみたいだな」
「確かにこんな感じだったかもな……俺も別に構わないし、付いてきてもいいけど……」
「付いてってええんか!? レンにミレイか、二人とも宜しゅうな! 必ず役に立ったる!」
レンとミレイは情報通であるというナルと共に街の中心部へと向かうことになった。
「うちが得た情報な、ターゲットはこん近辺でん目撃が一番直近いモンになる。見かけは中肉中背ん男。特徴はタレ目に額に傷有り、との事や」
「そこまで絞れれば割りと簡単に見つかるかもな。……というか、ナルは俺達が敵になるかもとかは考えてないのか?」
「敵なんか!? 二人とも!?」
ナルは驚いた表情で二人と距離を空けた。
「いや、そういう意味じゃなくてな、何というか、会ったばかりのヤツといきなり行動を共にするのってどうなんだと思ってな」
「そないもんウチん直感や、あんたら二人とも悪いヤツには見えんかったからな」
「そういうレンだって、そう言いながらソル達と馴染むの中々早かったじゃないか」
「あれはミレイの仲介もあったし……」
「似たようなものさ」
その時、ナルが足を止め辺りを見回す。その目つきは先程までのお気楽な表情から一点、獲物を狩る肉食動物の様な目をしていた。
「どうしたナル?」
「シッ! おるな、近くに。空気感が他と違うヤツが」
「それって、例の……」
(まだバグの気配はない……本当に近くにいるんだとしたら、もしバグでなければ俺の剣で勝てるのか?)
「亜人の感性なめたらあかんで! 気ぃ張んな!」
レンは剣をいつでも抜ける状態にする。相手がバグでなくとも武器はこれしかない。三人に緊張が走る。




