『youthful days』
(ぜひ、BGMにあの名曲のイントロを思い浮かべながらどうぞ!)
毎日同じルートの繰り返し。なんだか自分の心まで「生乾きのシャツ」みたいにスッキリしない……。
そんな、ため息まじりの日々を送る26歳のOLが、ある日突然、水色の自転車に乗って日常を飛び出します!
シャイなくせに急に強引なアイツに引っ張られて、思い切りペダルを踏み込んだ先にあるのは……?
あなたの心の「サボテン」にも、きっと赤い花が咲くはず。
ノンストップで駆け抜ける、もどかしくて甘いショートストーリー、スタートです!
「もうっ! また生乾き!」
ベランダで、柔軟剤の匂いと嫌な匂いが混ざったシャツを前に、私は頬を膨らませた。休日の午後。窓辺に置いた小さなサボテンは、今日もツンツンと丸いだけで花を咲かせる気配はない。ああ、なんだか私の日常みたい。そう思ってため息をつきかけた瞬間、インターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこには大学時代からの友人、拓海が立っていた。
「えっ、拓海? どうしたの急に」
「……天気、良くなったから」
彼はなぜか耳の先を真っ赤にしながら、そっぽを向いて答える。その手には、見慣れない水色のレンタサイクルが二台、握られていた。
「自転車、乗るぞ」
「はあ!? 今から? 私、スカートなんだけど!」
「大丈夫、それくらい。ほら、行くよ!」
普段は奥手でシャイなくせに、こういう時はやけに強引だ。私の手首を掴む彼の指先は少し震えていて、それがなんだか可笑しくて、私は素直に水色の自転車にまたがった。
「置いてくぞ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
ペダルを踏み込むと、ぬるま湯みたいだった日常が、一気に風を切って後ろへ流れていく。
雨上がりのアスファルト。拓海の自転車が水たまりを派手に跳ね上げた。
「キャッ! ちょっと拓海、泥跳ねた!」
「あっ、ごめん! ……でもさ」
振り返った彼は、困ったように眉を下げながら、それでも最高に無邪気な笑顔を見せた。
「なんか、楽しくない?」
「……もう、ずるい顔して」
私は小さく文句を言いながら、彼に追いつこうと必死にペダルを立ち漕ぎした。狂おしいほどのスピードで、二人の自転車が海沿いのサイクリングロードを駆け抜けていく。
長い坂道に差し掛かった。
「負けないんだから!」
「おっ、言うね!」
息が切れる。太ももが痛い。でも、心臓のドクドクいう音は、決して疲労のせいだけじゃない。前を走る拓海の広い背中を見ていると、胸の奥がキュッと締め付けられる。
坂を登り切った見晴らしのいい公園で、二人は同時に急ブレーキをかけた。
眼下には、キラキラと光を反射する海が広がっている。
「はぁ、はぁ……着いた」
荒い息を吐きながら、拓海が自転車を降りて私の方を向いた。
いつもはすぐに目を逸らすのに、今は真っ直ぐに私を見つめている。彼の瞳に、私の顔が映る。
沈黙。波の音と、風の音だけが聞こえる。
(来る……?)
私の胸の鼓動が、限界まで早くなる。
お願い。
拓海が、スッと手を伸ばしてきた。
そして、私の自転車のハンドルを握る私の手に、彼のごつごつした大きな手を重ねた。熱い。火傷しそうなくらい、彼の体温が伝わってくる。
「……あのさ」
拓海は耳まで真っ赤にしながら、でも決して目を逸らさずに言った。
「俺の、生乾きみたいな冴えない毎日をさ、お前がいつも乾かしてくれてたんだ」
「拓海……」
「好きだ。俺と、ずっと一緒に走ってほしい」
チリン。胸の鐘の音が鳴った。
不意に、彼と重なった手が当たって、自転車のベルが高く澄んだ音を鳴らした。
その瞬間、私の胸の奥で、ゴーン!と特大の鐘が鳴り響いた。
「……遅いよ、バカ」
私が目に涙を浮かべて笑いながら文句を言うと、拓海はホッとしたように顔をクシャクシャにして、重なっていた私の手をギュッと強く握りしめた。
帰り道、彼の隣を並んで走るペダルは、行きよりもずっと軽かった。
部屋に戻って電気をつけると、窓辺のサボテンの頭に、小さな小さな赤い花が、ポンッと音を立てるように咲いていた。
【終】
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!✨
泥水が跳ねるのも気にせず、海沿いの坂道を思い切り立ち漕ぎする二人。彼らの疾走感に引っ張られて、書いていて私までなんだか息が切れそうになっちゃいました(笑)。
シャイな彼が不意打ちで鳴らした自転車のベルと、ヒロインの胸の奥でゴーン!と鳴った特大の鐘の音。このギャップに少しでもキュンとしてもらえたら大成功です!
大人になっても、胸がヒリヒリするような衝動や、風を切って走る無邪気さは、きっと心のどこかで出番を待っているはず。読者の皆さんの日常にも、どんよりした雲を吹き飛ばすような、素敵なハプニングが訪れますように!
それでは、また次の物語でお会いしましょう!




