第87話 魔女、追加で請け負う
「それでおばあちゃん、これってどういうことなのかな? 流石にこれは依頼外だと思うんだけど」
「それに関してはな、ほれ今来たアルバスにでも聞きな」
私の目の前に立ち、教会の入り口を指し示しているのはギルド区の教会長であるステラ・ルーリエだ。そんな彼女が指し示している入口へと視線を向けると、そこにはアルバスが立っていた。
なんだかアルバスって色んな人から使いっ走りみたいなことやらされているよね。いや、私もその一人な気がしなくはないけどさ、何ていうか絶妙な立ち位置なんだよね。もういい歳だし、隠居しているのだからゆっくりしたらいいのにね。
「エリー殿、すまないが請け負ってもらえないだろうか、報酬は別途追加させてもらうのでな」
「そういうことなら請け負うけど、薬学だけでいいんだよね?」
「ああそれでいいよ。錬金術はそうだね。もしあんたが育てるに値する才能を持っていそうなら、って言うまでもないね」
「おばあちゃん、私と何処かであったことある?」
「さあてね」
ステラおばあちゃんが意味深に笑っている。んー会ったことはないはずなんだけどね。私自身ずっと魔の森から出てなかったわけだし、魔の森の師匠の家に来たと言うなら話しは別なんだけど、そんな事無いはずだ。
「むぅ、まあいいよ。アルバスさんその依頼請けおいます」
「すまんな、ほんとうにこやつは昔から無茶ばかり押し付けてきよってな」
「かかか、それはお互い様というところじゃろ」
「なんだか仲良さそうだけど、二人はってどういった関係なの?」
「ほれあれじゃよ。あたしとアルバス、それとアデレートは共に貴族の試練で旅をした仲じゃからの」
ステラおばあちゃんは懐かしそうに目を細めている。
「そうなんだね。えっとそれで何人くらいいるの? その見習い神官の子たちは。それによって色々用意する物が必要なのだけど」
「人数は貴族区とギルド区をあわせて十人、素材に関してはあたしの持っているものを持たせるからそれで簡単なものでいいから作れるようにしてやってほしい」
「そう? ならいいけど」
先日ミーシアがこのギルド区の教会長であるステラに私から錬金術と薬学を習いたいとお願いに行った。それが切っ掛けとなり、今回の追加依頼が発生した形になる。どういった依頼なのかというと、ステラおばあちゃんがさきほど言ったように、見習い神官に薬学を教えてほしいというものだった。
ステラおばあちゃん自身も薬学で薬を作っているから教えられるだろうに、なんで私に依頼したのかはわからない。
「あんたね。どうして自分で教えないのかって言いたいんだろ。簡単なことさ、もうあたしも年だからね、上手く調合ができなくなっちまったんだよ」
お、おう、心の声が読まれたか、表情には出してなかったはずなんだけど。
「別に心は読んじゃいないよ。これでも長年いろいろな人と向き合ってきたのだからね。何を考えているかくらいなんとなくわかるさ」
そういう事らしい。
「それじゃあ、明日からということで。ミーシア行くよー」
「はい、いつでもいけます」
アルバスとステラおばあちゃんに挨拶を済ませてから、ミーシアと連れ立って日課の屋台での大量買いをしながら冒険者ギルドへ向かう。
「ティアもう集まってる?」
「エリーさん。ええ集まってますよ」
「それと聞いてるかな、明日からのことは」
「はい、そのエリーさんも大変ですね」
「あはは、本当にね。見習い神官の件はともかく、残っている子はやる気があるからね」
「それでも食べさせてあげているご飯なんかは自腹ですよね」
「まあねー、ご飯で釣っているとも言えるけどね。それでも残る子もいれば来なくなる子もいる事を考えるとね」
「そうですね。食べていくだけなら、支援クエストで良いですからね」
支援クエストと言われるそれは、孤児などに提供されるクエストのことだ。この王都に来る途中の街にもあったあれだ。もともとここ王都には孤児というものは少ない。それでもゼロではないので、王都で出来る雑用なんかをうけられるようにしている。
王都に孤児が少ない理由は王都周辺は安全ってことでもある。それでも事故やらなんやらで孤児になる子もいる。そういう子は国営の孤児院に引き取られ、少ないながらも食事と寝床は提供される。
ある程度の年齢になると冒険者ギルドで出される支援クエストを受けて、お金を自分で稼ぎそれを元手に独立するように仕向けている。男の子なんかはクエストでお金をためて装備を整え冒険者として独立し孤児院を出ていく事が多い。
女の子の場合は、なかなかそうもいかないのが現状だったみたい。中にはまあ冒険者志望の女の子もいるから全員が全員というわけでもないけど、冒険者に向かない子もいる。
今までなら、孤児院の運営にそのまま携わるようになったり、才能があれば教会の見習い神官として引き取られたり、働き口を探して住み込みで働ける所へいったりとしていた。
そんな中ちょうど私という、錬金術と薬学を教えられる存在が現れた事で、この国に不足している錬金術師と薬師を育てようという流れになったわけだ。主導したのがアルバスなんだけどね。
私は私でアンジュが戻るまで旅に出るわけにも行かないので、暇つぶしも兼ねて請け負ったわけだね。ついでとばかりに教会に駆り出されたのは想定外だったけど、呪いの騒動で倒れた神官が復帰するまでと条件付きで引き受けた。
ニーナちゃんがアーシアを治療したことの副次的な要因である呪い返しの結果だったとはいえ、私が気に病むものでもないんだけどね。乗りかかった船的な? そんなわけで請け負った。それ相応の報酬はもらっているけど。
つい先日、呪いの影響を受けていた神官一同が復帰したので私はお役御免となるはずだったのに、孤児を対象に開いていた錬金術と薬学のお勉強会に見習い神官が加わったというのが今回の流れだ。
「それじゃあ行くね」
ティアにそう言って私とミーシアは訓練場へ向かう。なぜか前より人が増えているけど、一人二人増えた所でやることは変わら無い。明日からは十人ほど増えるわけだけどね。
「みんな集まってるね。それでは今日も始めましょうか」
ちなみに屋台で買ったご飯は、お勉強会が終わった後に好きなだけ食させてあげています。





