第85話 魔女、元凶を察する
「ふむ、ここはカーマイン男爵の屋敷ですな。それにしてもこの荒れようは数ヶ月は誰も寄り付いていないようですな」
「そんな感じだね。それでどうする? 中に入っても良いのかな」
「カーマイン男爵について何か知っている者はいますか?」
アルバスさんが引き連れてきていた騎士に声をかけると、そのうちの一人が前へ出てくる。
「カーマイン男爵は年齢の関係で既に隠居となっております。所在はわかりませんが数ヶ月前まではここに住んでいたようです」
「家族などは?」
「親族などは居られなかったようです。資産などは死亡が確認され次第国庫へと回されるように書類も提出され受理されております」
「つまりは、中で亡くなっている可能性もあるというわけですな」
アルバスは少し思案した後に中に入ることを決めたようだ。特に門には鍵がかかっておらず、軽く手を触れるとそのまま開いた。そのまま門を通り荒れている中庭を抜けて屋敷の入り口へ到着する。
「とりあえずノックしておきましょうか」
ノッカーを手にとり何度か打ち付けるが中から反応は返ってこない。まあ、そうだろうね。扉にも鍵がかかっていなかったので中に入ると、あたりまえだけど中は真っ暗だった。普通の貴族の屋敷なら玄関ホールは魔導具で灯りを切らすことはないのだけど、しばらく誰もいなかったのならその魔導具も魔力切れで機能していないと思われる。
私が魔法で灯りを灯し、灯りの魔導具の魔石を探そうとしたのだけど、大体どの屋敷も灯りの魔導具の置いている場所は決まっているようで、騎士の一人が見つけて教えてくれた。
魔導具の魔石を取り外して私の手持ちの魔石と交換する。どうやらこの魔道具はこの屋敷全体の灯りと繋がっているようで、玄関ホールを含めて屋敷中の灯りがついたようだ。
「部屋数も多いようだし手分けして探しましょうか。どうやら生きている人の気配はしないから死体探しになりそうだけど」
騎士の皆さんは二人一組で一階から探索してもらうことになった。アルバスとティッシモは私と一緒に二階を探索することにする。軽く調べてみたのだけど、屋敷の中には呪いの気配が無いように感じる。
「それじゃあ行こうか」
「エリーさんには何かわかっているのですか?」
「まあ、地下の入口らしいものは見つけたかな」
私は迷いなく二階を進む。廊下を進み突き当りにある部屋に入る。部屋の中はこの館の持ち主だった人の執務室っぽくみえる。部屋の中には執務机と本棚があり、本棚にはぎっしりと色々な本が敷き詰められている。
「さて、入り口があるのはわかるんだけど、入口を開ける仕掛けはどこかな」
「本棚でしょうか?」
「多分違うんじゃないかな」
私は部屋のカドへ向かって歩き、魔術で足元に穴をあける。
「エリー殿、流石にそれはどうかと思いますが」
「探すの面倒くさいし良いでしょ」
穴を覗き込むと結構角度のキツイ階段が下へと繋がっている。私が先頭で階段を下っていくと一階部分を通り越して地下へと向かう。床に穴を開けたことで、階下から呪いの気配が感じられるようになった。念のためにアルバスさんとティッシモに呪い避けをかけておく。
「アルバスさんもティッシモも気をつけておいてね。呪いの残滓みたいなのがあるみたいだから」
「悪寒を感じますがこれが呪いというわけですな」
「うへ、気分が悪くなってきますね」
「一応呪いよけは掛けたけど、しんどいよなら上で待ってたほうが良いよ」
「いえ、そこまででもないので着いていきますよ」
それならそれで良いのだけど。呪いの気配はあるけど、生者の気配も死者の気配も感じられないから大丈夫だと思う。
「ここが一番下のようだね」
目の前の鉄製の扉を開けて中にはいる。そこには死後数ヶ月は経っているように見えるミイラ化した死体が一つ転がっていた。その死体を見た事ですべてを理解した。この死体の死因は呪い返しによるものだろう、そしてそれはすごく見に覚えのある呪いだった。
「この死体がカーマイン男爵ってことでいいのかな?」
「きっとそうでしょうな」
「それにしてもかなり強い呪いにかかって死んだようですね」
「えっとアルバスさんこの死体って必要です?」
「できれば確保したいところですが、わしにもわかるくらい危険そうですな」
「本来ならこの呪いってこの死んだ人だけにしか作用しないはずなんだけど、なんだか他にも呪いが上乗せされててよくわからなくなってるんだよね」
「ふむ、それでは処理はエリー殿におまかせします。見た所他にも何かありそうですしな」
改めて周りを見ると、他にも色々と呪いに関するものがある。
「それじゃあ、この死体は処理しますね」
私は魔法の結界で死体を囲い、死体に火を付けて燃やす。死体が燃えていくにつれ呪いが薄まっていくのが見える。死体が燃え尽きた所で濃厚な呪いだけが結界内に残った。私はその呪いを結界で圧縮をかけて呪い玉にして、教会でしたように封呪の布に包みポシェットへ放り込む。
◆
死体と呪いを処理したことによって、今回の事件は終わった。王都に広がっていたチェインカースはやはりここが原因だったようだ。数ヶ月前に呪い返しをうけたカーマイン男爵が死の間際に、地下で研究していた呪いを開放し自らを苗床にすることで呪いを増殖させたのだろう。その結果、呪いは地下へ空気を送るための空気管を通ることで、王都へ広がったのだろう。
その呪いがチェインカースとなったのが今回の事件というわけだ。そしてことの発端とも言える呪い返しだけど、なんとなくおわかりかも知れないけど我が愛弟子のニーナちゃんの母親であるアーシアにかかっていた呪いが返された結果みたい。
なぜわかったかというと、地下にあったあれこれの中にアーシアの名前があったからだ。呪い返しの時期とニーナちゃんがポーションを使った時期が大体同じだった事からなんとなくそんな気がしていた。
でもカーマイン男爵も十数年前に依頼を受けて呪ったということなので、依頼主なんかはわからずじまいだ。個人的にはカーマイン男爵って、やったことはともかくすごい人だったと思わざる得ない。呪術師ということを隠し、長年活動を続けたにも関わらずこれまで生きのびてきた。
ニーナちゃんがアーシアのために呪い返しをしていなければ今も生きて天寿を全うしたかも知れない。やっていることは褒められたことじゃないけど、呪術師としては有能だったのだろう。
ん? よく考えると、私が森を出てニーナちゃんに出会わなければ呪いが返ることもなくカーマイン男爵は死ぬことはなかった。そして死ななければ王都に呪いが広がることもなかった……。いやいやないない、巡り巡って私が原因だなんて、これっぽっちもないよ、気のせい気のせい。
何はともあれ、こうして王都の呪い事件は幕を閉じたのでした。





