151話
海魔の体は、もはやそれが動くだけで災害になるだろうと容易に想像できた。
見渡す限り薄気味悪く光る白い体。
先ほどまで光が届かないはずだった世界が、ここだけ妙に明るくなっている。
光源は要らなかったとも思うが・・・この体積はやはり厄介だ。
逃げ場を無くすように、全方位から触手が、氷の槍が、緑の光線が飛んでくる。
「それでも海上要塞以下なのやばいな」
『比べる対象がおかしいかと』
だが割と回避出来るのだ。
触手は『赤星』や『オーディン』でどうにか出来る。
氷の槍も『赤星』で撃ち落とせる。
緑の光線は回避するしかないが、逆に言うと避けないといけないのはこれだけなのだ。
『オルカ・ラーゼン』には普通のバリア機能は無い。
装甲も削ってるから当たると危険。
だから基本は迎撃か回避に集中することになる。
しかし、この時点で余裕が持てているのは良いことだ。
それでも『赤星』の攻撃ではほとんどダメージを与えらえないのはやばい。
体がデカすぎて、当たっても意味がないのだ。
「到着まであと何分!」
『残り7分』
「遠いなやっぱり。『ワダツミ』装着!」
『『オーディン』とのドッキング開始・・・完了。使用可能』
「これでも食らってろ!」
『ワダツミ』という、『オーディン』と合体させることでバズーカになる武器を使う。
これなら『赤星』以上の効果を発揮するはずだ。
まぁ焼け石に水なんだろうが。
ビーム兵器ではあるから、出力を上げることは出来るが・・・それでも無駄だな。
だから目的はダメージを与えることではない。
迫ってくる触手と氷の槍を纏めて撃ち落とすためだ。
右手に『赤星』
左手に『ワダツミ』
二丁の火器を構え、引き金を引き続け蹴る。
大抵の敵なら一瞬で灰に出来る火力だ。
だがそれでも、相手の体には届かない。僅かな隙間を狙わないと、まともに肉体に当てることも出来ない。
それだけの密度はあるのだ。てか触手多すぎ。
「どっから生えてんだあれ!」
『観測の結果、肉体のどこにでも生やすことが可能なようです』
「だろうな!『シャイク』から援護射撃できるか?」
『自機を外す軌道での魚雷斉射なら可能です』
「じゃあそれ実行!」
『了解しました。『シャイク』攻撃開始』
反応でしか分からないが、『シャイク』から援護が来る。
だが全く意にも介さず、俺の方にのみ攻撃が集中している。
先ほど魔力が無い攻撃でかなり大ダメージを受けただろうに、今はもう俺にだけ集中している。
サーベスから降ろした『アトミックサブマリン』が来れば、この状況は好都合ではあるんだがな。
これでは相手を殆ど調べられない。
これだけの巨体。ならばそれを支える為の器官が存在しているはずだ。
そこが分かれば・・・
「まぁ触手生やすようなやつに常識説いてもか」
『推測ですが、殆どの器官は再生可能と思われます。
狙うのでしたら、短期間での火力集中をお勧めします』
「どっちにしろサブマリンが来ないと話にならんか・・・」
いや。『ドルフィンレーン』の時からある機能を使えばどうにかなるか?
『シャイク』の最強モードである『シャイクライン』と併用して使う前提なのが問題だな。
最悪『シャイク』を失う可能性もある。
機能を使っても性能が落ちるわけではないのがあの機能の良い所だが・・・
『勝利の為の手段はあります。無理をする必要はないかと』
「だぁけどねぇ」
何となくだが、『アトミックサブマリン』だけでは仕留めきれない気がするのだ。
もっとこう・・・中に抉りこむ様な攻撃が必要だと思う。
「何だろうな。感じる魔力に違和感がある」
『海魔自身の特殊な反応と推測』
「まぁそうなんだろうが・・・なんだろうなこれ・・・」
後『赤星』を当てた時の感覚も微妙に違和感がある。
何というか・・・脆すぎやせんかという感じだ。
まぁイカっぽいし、海底の生物なら固い方が問題なのかもしれないけどさ。
でも魔力で構成されてる触手と同じ感覚ってのは流石になぁ。
いやむしろ・・・それより脆い?
「・・・肉体と触手の魔力量を調べろ」
『スキャン開始・・・完了』
「流石に読む暇はない!」
『読み上げます。触手の魔力量を100と換算。肉体は50程の魔力しかありません』
「やっぱりか!」
そら脆いわけだ。
魔力が多いなら、その分密度が高くなって固くなる。
なのに今の手ごたえはかなり脆かった。
もちろん海魔の魔力は、通常の生物と比べてはるかに多いし強い。
だがそれでも・・・これだけのサイズの体を魔力で構成するのは無理なようだ。
「ってことはだ」
『本体は別。またはより小さい本体が内部に存在すると思われます』
「周囲のスキャンは出来るか?」
『不可能です。海魔の魔力で妨害されております』
「だったらこっちも!『セイレーン』!!」
『オルカ・ラーゼン』の背部が開き、小さなスピーカーが現れる。
そこから音ではない音・・・魔力の波長が流れる。
センサーを見ると、音が徐々に海魔の魔力を侵食するように広がっていくのが分かる。
海魔もそれを感じたのだろう。攻撃の密度が減って浸食に対抗してきた。
「■■■■■」
「何だこの音!」
『海魔から発生している魔力音です』
「ハッハ!こっちと同じか。そら良いね!!」
大きな音と言うわけではないが・・・まぁ不快ではあるか。
水が弾ける音にも聞こえるが、肉が蠢く音にも聞こえる。
こちらも背後から変な音を垂れ流しているので、最悪のセッションが繰り広げられることになった。
「金は取れんなこれ。今のうちに出来るだけ調べろ!」
『スキャン開始。機体制御補助を停止』
「ついでに火器管制も切れ。短時間なら俺だけでも出来る』
『了解しました』
キクヒメは相手を調べることにだけ集中させる。
こうすることで、魔力で乱れている空間の調査の速度と質を上げるのだ。
対抗出来ているからなのか、海魔の攻撃がまた激しくなってきた。
だがやはり先ほどの比ではない。
『赤星』が迫る触手を撃ち落とし、『ワダツミ』が射線上のすべてを薙ぎ払う。
暗い海の底を、風のようにオルカが翔ける。
まさに機体名通りの動きが出来ている。
こんな状態だが自画自賛したい。
『スキャン完了。周囲に生体反応。及び魔力反応無し』
「じゃああの体の中か!」
『『アトミックサブマリン』射程内に到着。いつでも撃てます』
「こいつは流れが来てんな!『シャイクライン』『ハイオルカ』同時起動!!」
『『シャイクライン』をこちらに戻します』
勝つための全ての札が揃った。
『オルカ・ラーゼン』の機能解放である『ハイオルカ』・・・前はハイドルフィンモードって名前だった。
性能を上げるのではなく、『シャイクライン』を起動した『シャイク』を十全に扱うための機能だ。
だから制限時間は無いし、他のデメリットも存在しない。
どちらかというとモードチェンジに近い。
この機能を同時に使用すると、『シャイク』が変形する。
『オルカ・ラーゼン』が、『シャイク』を下から被るように合体。
これが本来の『オルカ・ラーゼン』と『シャイク』
「名づけるなら・・・『オルカ・シャイク』?」
そのまんまだなおい。まぁ別にいいんだけど。
合体が行われると、機動性が一気に上昇する。
正確には『オルカ・ラーゼン』の機動力が『シャイク』の物と同等になる。
ジェネレーターは『オルカ・ラーゼン』に接続されるから、その分は早くなるのではなく長く加速するようになる。
一気に最大速度まで持って行き、海魔の肉体に突撃する。
ビーム以外の攻撃は、最初と同じようにすべて無効化しながら突き進む。
ビーム?気合で回避一択。
『バンカー設定変更』
「吶喊!!」
そのままの速度で肉体に突き刺さる。
勢いは止まらず、俺ごと海魔の肉体に入っていく。
こうして直接攻撃すると分かる。こいつの体は張りぼてだ。
「今だ!!」
『『アトミックサブマリン』射出開始』
体の中に入り込んだ俺をどうにかして排除したいのか、大きく揺れている。
だがそれでは、外から再び来る攻撃に対処できない。
そして着弾までの数秒で、足りない部分を調べる。
「本体はどこだ!」
『魔力の調査完了。レーダーに表示します』
レーダーの示した場所は・・・最初に見たデカい目玉だ!
「軌道修正!!」
『『アトミックサブマリン』着弾位置変更』
「俺もだよぉぉぉぉ!!!」
今のこのモードでは、殆ど曲がることが出来ない。
無理矢理体を捻じって、進路を強制的に変えるしかないのだ。
体に掛かる負荷がキツイ。
それでも何とか目の方へ軌道を修正する。
『目標確認』
「フルスロットル!」
ブースターを全開にして突っ込む。
バーニア部分から青い火を出し始める。
レーダーが見つけた相手の本体の位置は目玉の中心部。
そこ目掛けて、決して止まらない。
海魔も俺が来ていることが分かったのだろう。レーダー上で相手の位置が動いているのが分かる。
「だけど遅いんだよ!!」
『着弾まで4・・・3・・・2・・・』
残り2秒で、相手の本体を『シャイク』のバンカーが貫く。
そのまま肉体を飛び出し、再び海中に入った瞬間に『アトミックサブマリン』が着弾。
残った肉体を全て吹き飛ばしながら、海中に再び嵐を巻き起こす。
貫いた海魔の本体を見ると、所謂魚人と呼ばれる様な姿だったのが分かる。
だったってのは、バンカーで貫いたから半分くらいしか残ってないからだ。
「捨てとけ」
『バンカー射出。数秒後爆発します』
パイルバンカーが機体から外れて背後に流れていく。
そして見えなくなったところで爆発した。
「海魔の反応は?」
『ゼロ。戦闘終了です』
「お疲れさんっと。このままだと帰りはちょっと早いか?」
『『アトミックサブマリン』の影響で、十数分早くなると思われます』
デカい爆発だからな。その勢いが機体を押し進めてくれるのだ。
『ハイオルカ』の状態だから、元から行きより速かったが更に加速というわけだ。
「あ、海上の天候は?」
『・・・徐々に静まっております。数分で快晴になるでしょう』
「そりゃいいな。勝利の日差しは気持ちいいだろうよ」
水にずっと浸かっておいてなんだが・・・シャワー浴びたいわ。
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