149話
食堂に向かう俺を待っていたのは、想像していた少女ではなく・・・山盛りの皿だった。
「・・・うん?」
「ああ。やっぱりこうなってましたか」
「いやこれはどういう?」
「彼女の体の中に、海魔の血が流れているじゃないですか」
「らしいな」
「そのせいです」
「はい???」
さっぱり意味が分からんぞ!
だが理屈的にはそれだけで説明が着くらしい。
海魔の血が流れている人間。その中でも血が濃い存在は非常に大食らいになるそうなのだ。
理由としては、これが海魔自身の特徴であるかららしい。
「人間一人で足りるのにか?」
「あれは食事ではなく、ただの自己強化ですから別ですね」
「ほぉ」
自らが分けた血が、長い年月を掛けて分かれる。
そのうち、極稀に血が濃くなることがある。それが生贄に選ばれる。
この濃くなった血が人間に宿ると、通常では考えらえれない程の効果を発揮する。
「これはそもそもの人間の始まりにまで話が遡るのですが・・・聞きます?」
「後で」
流石に聞いてらんないわ。
とにかく。この生贄娘が非常に一杯食べる奴だってことだ。
皿だけでその姿が見えなくなるくらいには。
だが一応お姫様なのか、残った皿を見ても綺麗に食べているのが分かる。
音もほとんど聞こえないしな。
「てか皿片せよ」
「いや・・・出し方は分かったんですけど・・・」
「そういうことか。キクヒメ」
『清掃用機を起動します』
清掃っても使った皿をキッチンに戻すだけだが。洗うのは洗浄機あるし。
ぞろぞろと外から来た清掃用機たちが皿を纏めて持って行く。
そしてようやく、目的の生贄娘の顔が・・・
「ゴク・・・ゴク・・・」
「・・・姫?」
「そ、そのはずなんですけどね」
アルが言い淀むほどとは。
まぁデカい丸皿に口付けてスープ飲み干してる姫はちょっと姫っぽくないわな。
「プハ・・・ご馳走様でした」
「お粗末さん。今大丈夫か?」
「ハッ!・・・どちら様でしょうか?」
「ん?ああ、俺顔隠れてたか」
『無影』着てたなそういや。
思い出したので、顔の部分だけ『無影』を展開する。
その姿を見て、すぐに思い出したようだ。
「あ、あの時の!」
「そういうこと」
「・・・一体、何が目的なのでしょうか」
「うん?」
「とぼけないでください。私を攫うということは、何か我が国に要求することがあるということでしょう」
「・・・」
やべぇどうしよう何も無いわ。
「いや。俺アカリ達に頼まれて・・・頼まれたわけじゃないがあいつらの為にやっただけだからな」
「アカリ?あなたはアカリの知り合いなのですか?」
「おう。てか同じなんだよ。俺とアカリは」
「つまり、ランナーであると?」
「そういうこと」
やっぱり話してたかあいつ。
まぁそれならそれで困らない。話が早くて済むからな。
「だから、俺から国に要求ってのは無いんだわ」
「・・・でしたら、今すぐに私を戻してください」
「は?」
「私がいなければ、あの国は・・・」
うん?どういうことだ。
こいつは何であそこに戻りたがる。自分を犠牲にしようとしてる連中だぞ?
戻りたがる以前に、嫌っているくらいが普通だと思うんだが。
それにアカリ達の行動がこれでは・・・まさか。
「お前、最初っから助かる気ないのか?」
「・・・アカリ達には、申し訳ないと思っています」
「どういうつもりだ」
「・・・私は、幼き頃より儀式で死ぬことが決まっていました。
それを憐れに思い、母やアカリ達が動いているのも、ずっと前から知っています」
「・・・」
「ですが、これは必要な犠牲なのです」
「必要?」
「ここが・・・モルトン王国の民が富み、豊かでいられるのなら、私はそれでいい」
『脈の変化を確認』
(・・・なるほど)
随分と・・・覚悟が決まってるな。
いや違うか。これは諦めてるのか。
自分が替えが効かない存在だと分かっている。
国の未来が掛かっていると言ってもいい儀式の最重要人物である生贄。
昔から決まっていたことだから、既にそれが当たり前なのだろう。
だからアカリ達が何をしても、自分が犠牲になるつもりでいる。
「それにそうすれば、自分の周りの人間に被害がいかないってか」
「・・・そうですね。それもあります」
これは報われない。
アカリ達がどれほど足掻いても、王や周りの人間はそれを許さない。
だがそれ以前の問題で、こいつは救われることを望んていない。
それが本心であるかどうかは分からないが・・・少なくても、自分の口でそう言えるくらいには、心を決めているようだ。
・・・・・・いやまぁ俺には一切関係ないが。
だが、一つだけ聞いておくべきか。
「もしだ」
「?」
「もし、お前も含めて、誰も不幸にならないって方法があれば・・・どうしたい」
「え?」
「ああいや。結局怪物の加護は無くなるから、国的には損害でるわ」
交易にも支障が出るだろう。
だがその程度だ。そもそも完全に出来なくなるわけじゃない。
ある程度被害は出るだろうが、それでも海を越えることは可能だ。
100%からまぁ・・・この世界の航行技術を知らないから何とも言えないけど、どうにかなる程度の確立になるだろうよ。
「そ、そんな夢物語は」
「ありえたらって話だよ。仮の話だ・・・どうしたい」
「・・・それは」
「生きたい?」
「・・・です」
「ん?なんだって?」
「・・たいです」
「聞こえねぇよ!」
「生きたいに決まってるじゃないですか!!」
『魔力質の変化を確認』
キクヒメを通じて、相手のバイタルは見ていた。
だからその言葉を口に出すごとに、心臓の鼓動が変わっているのが分かった。
それは、嘘をついている人間の動きだった。
だが感情の発露と同時に、異様な魔力が周囲にまき散らされる。
これが海魔の魔力か。
「コウ」
「分かってる。もうちょいだ」
「私だって・・・私だって!みんなと一緒に生きたいですよ!
二人の旅に着いていきたかった。お母さんと一緒に暮らしたかった!!
でもしょうがないじゃないですか。仕方ないじゃないですか!私が死なないと、大勢の人が・・・」
「コウ!」
「ああ。もう十分だ。悪いが後を頼めるか」
「・・・はぁ。あなたは、いや。流れ人は変わってますね。やっぱり」
「お前の主人程じゃねぇよ。多分な」
ようやく年相応になった少女に、アルが近づく。
それと入れ替わるように、俺は食堂を出て行く。
正直な話、あいつが本心から犠牲になることを許容していたのなら、俺はここで辞めてたと思う。
あいつを城に戻して、それでおしまいだ。
アカリやコーリィ達には悪いが・・・本人が望まない以上は助ける意味がない。
だが、ちゃんと思っていた。
生きたいと、死にたくないと。だったら、俺がやろうじゃないか。
「オルカの準備は」
『完了しております。討伐対象の位置も既にマッピング済みです』
「上出来だ。武装は?」
『すべて完璧です』
ならば負ける理由はあるまい。
格納庫に入ると、この世界で生まれた機体が俺を迎える。
『オルカ・ラーゼン』
疾風の名を冠するこの機体は、オルカの名の通り水中において最強。
何が敵であろうと、食らいついて殺す。
俺が着ていないにも関わらず、全身から殺意が溢れているようだ。
「んじゃ。ちょっくら怪物退治といきますか」
機体に触れると、『オルカ・ラーゼン』が頷いた気がした。
よろしければ評価やブクマ登録お願いします




