146話
モルトン王国の王城の入り口は二つ。
正面の大きな門と、港に直接通じている門の二つだ。
この二つは、常に警備がおりここから侵入するのは難しい。
そもそも通常は門が閉じているので、歩いて入ることは出来ない。
だから侵入方法は、前と同じになる。
『城壁に魔法的な防御を確認』
「ん?どういうやつだ」
『推測ですが、接触個所を知らせる物かと思われます』
「うわぁ。一番厄介なやつじゃん」
ここに来る前、コーリィに会ったのは別に勧誘のためだけではない。
城に施されているであろう魔法防衛に関して聞きたかったからというのがある。
そこで聞けた話の中に、そういう魔法があった。
コーリィも流石に完全に知っているわけではないから、自分で調べた結果を教えてくれただけだったが。
まぁ俺には十分すぎる情報が聞けた。実際聞けなかったら触ってた可能性があるしな。
しかしそうなると普通の侵入方法では中に入れない。
「同じ魔法がどこまで掛かってる?」
『周囲を覆う城壁部だけに限定されております』
「じゃあ中の建物には無いんだな?」
『別の魔法が懸念されますが、中に侵入出来れば問題ないかと』
「だろうな・・・じゃあ後はどこにお姫様がいるかだが」
塔か地下か、ここから絞り込むには中に入らないといけない。
中に入って、そこからソナーなどで解析を行って城の様子を詳しく調べる。
外から観測した結果を合わせれば、凡そは分かるはずだ。
コーリィからここも聞ければ良かったんだがな。まぁ無理は言えない。そもそもコーリィも警戒されてるだろうしな。
「んじゃ。入りますか」
『脚部にエネルギーを集中。5秒後に開放』
「・・・今!!」
透明になった状態で、壁を跳び越える。
脚部にエネルギーが集中することで、膨らんで馬力が増すのだ。
機体のどの部分にも出来るが、脚に集中させれば50メートルくらいなら跳び越えられる。
最大跳躍点まで届いたところを、アンカーを城壁ではなく中の建物に引っ掛ける。
勿論人のいないところを狙う。
音も静かで、この程度なら絶対に気が付かれない。
そして、王城の離れらしき所に張り付くことに成功した。
「チェック」
『魔法感知ゼロ。周囲に人間反応4。こちらに気が付いた様子はございません』
「ふぅ。まぁ成功だな」
ここから更に建物内に入る場所を見つける必要があるが・・・それは簡単だ。
城の精密検査を行い、どういう構造なのかを丸裸にする。
いくつか気になる魔法らしき物を感知したが、今回の目的には関係なさそうだ。
「・・・窓が多いな」
ステンドグラスみたいなものか?
どちらにせよここから入るわけにはいかないな。割ったら流石にバレる。
そうなると使えそうなのは扉などの人が出入りする場所になる。
又は、資材の搬入スペースだ。港に隣接しているからか、そこから荷物を運びこむための場所が存在しているようなのだ。
もちろんここも人はいるだろうが、まぁ普通に行くよりマシだな。
少し遠回りになるのがネックだが・・・時間は敵ではないから問題ないか。
「反対の場所なのが面倒だな」
『侵入場所の変更を提案』
「お?どこかあったか?」
『城の上層階に、テラスらしき場所がございます』
「ん?・・・ああ、これか。だけど閉まってる・・・あ、そういうことか」
『上層部から幽閉場所の候補である塔に飛びつくことが可能です』
「そこから跳んで、いるかどうか調べるってか。それで行こう」
進路変更。さらに上にジャンプしてテラス部分にまでたどり着く。
当然入口は閉まっていたが、ここからなら十分だろう。
問題は・・・
「・・・人いるな」
中に人がいることだ。
ある程度離れていた場合は『無影』なら気が付かれずに動ける。
だが流石にこの距離では気が付かれるだろう。
これはちょっと不味いか。
アンカーろ飛ばすにも、エネルギー集中で跳ぶにもバレかねない。
流石に今この段階でバレるのは良くない・・・ん?何かこっち見て・・・ッ!?
『マジックジャマ―起動』
自分の体から5メートルの範囲に、特殊な魔力フィールド形勢する。
これは無理やり周囲の空間に存在している魔力を俺の魔力に合わせるものだ。
これが行われると、俺の周りにいる存在は一部の魔法を使うことが出来なくなる。
生物の体内に影響を与えることは出来ないが、外に放出するタイプの魔法は妨害出来る。
そしてそれは、精霊も例外ではない。
マジックジャマ―を起動し、俺の隣にいつのまにかいた精霊を掴む。
逃げようとするが、ジャマ―の影響で魔素で体を構築している精霊はまともに動くことが出来ない。
「油断だな・・・」
『魔力による感知は無効化しております』
「知ってるよ。だから熱感知だろう」
今掴んだ精霊・・・炎の精霊のようだ。
だから俺の事が見つけられた。そしてその精霊と契約しているこちらを見ている人間も、俺が見えるというわけだ。
・・・仕方ないか
腰に下げている銃に手を伸ばす。
次の瞬間、視界につい先ほどまで話していたやつが飛び出て来た。
「ちょちょ!?!?」
「あ・・・?」
「何しとんねん自分!」
「バレたから口封じ」
「おおう。来てて良かったわ。はよ入って」
どういうことだ?さっきまで店にいたと思ってたんだがな。
色々聞きたいことはある。
「裏切りか?」
「そんなんするかい!あんたに歯向かったら命がいくつあっても足らんわ!」
「じゃあなんでいるんだ。あとそっち誰」
「その前に精霊放したってーな」
「いいだろう」
精霊を離すと、すぐに最初から俺を見ていた人に向かって飛んでいく。
ふむ・・・精霊は懐いているようだな。
悪い人間ではなさそうだが。
「それで、きっちり話してもらうぞ」
「わーっとるわ・・・」
コーリィがここに来た理由。それは俺を助ける為だった。
まず俺の実力や技術を見るに、城に入るなり救出対象の場所を特定するのは問題ないと思っていたらしい。
だがそこから先、最後で確実に躓くと思ったそうだ。
「鍵?」
「せや。姫ちゃんは閉じ込められとる部屋に縛られとんねん」
「どういうことだ?」
「魔法でそこから出れんようになっとるんや。せやからそれを解除せないかんのや」
「ほう・・・ここで待ってた理由は?」
「ここまで来れんと、うちが助ける以前の問題やからな。待たせてもらってたんよ」
「なるほど。んで、そっちの人は?」
「・・・王妃様や」
「・・・は?」
「やから、王妃様や。んで、姫ちゃんの母親でもあるわけや」
「・・・協力者って考えていいんだな?」
「当然や」
ルイーズ・フォン・モルトン
モルトン王国の国王の側室で、今回生贄になる少女の母親。
「正確には、実の母親ではないの」
「はぁ?」
「ちょ、教えてええんですか?」
「構わないわ。私にはそれしか出来ないから・・・」
元々ルイーズ・・・様は貴族であった。
そして生贄の少女は、かつて自分がいた家に仕えていた使用人の娘なのだそうだ。
王妃になったのも、彼女に寂しい思いをさせない為にだそうだ。
何故そんなことをしたのかは・・・まぁ個人的なことらしく話す気はないらしい。
だが少なくても、この人はすべてを掛けてその娘を救おうとしている。
娘を縛り付けている魔法を解除するには、王家の命令が必要だ。
これは王家に属する者なら、国益を損なうことは無いだろうという判断らしい。
だが当然、魔法を解除すれば全部バレる。
そうなればどうなるか・・・想像するのは簡単だ。
「そこまで、か」
「そもそもアルカナ達が姫ちゃんに会えたんは、この人のお陰でもあるんよ」
「そういうことか。まぁ妙だとは思ったけど」
そもそも外の国に隠し続けていた儀式の最重要人物である姫に、貴族とは言えアルカナ達が面会することが出来るのか。
普通に考えれば無理だ。そもそもこういうのは身内にも隠すことでようやく確実性が出てくる。
「じゃあ既に立場も良くないわけだ」
「ッ・・・よぉ分かるわ」
「アカリと違ってな」
「ふふ。面白いお友達がいるのねあの子は」
「友達・・・まぁ友達か」
ゲーム内のフレンドってだけの繋がりだとどうなるか微妙なラインだけどまぁ友達ではあるのか。
立場が悪いと思った理由は、貴族とは言え外部の人間に秘密を教えたのだから。
それにアルカナ達は今儀式を止める為に動いている。
それもほとんど隠されていないだろう。ならそのきっかけとなったこの人の立場が危ういなんてことはすぐに分かる。
そこに来て、魔法を解除までするとなると・・・まぁアウトだろう。
むしろ権限を取り上げられないだけでも上出来だ。
「その魔法は複雑なんよ。それこそ一流と呼ばれる連中が息を合わせんと全く弄れんくらいにはな」
「だから権限は残ってると。何とも運の良いことで」
「まぁせやな。あんたが来なければどうにもならなかったやろうし」
実際の所、コーリィは殆ど諦めていたらしい。
「だってそうやろ。魔法が解除出来たとしても、いつまでも逃げ続けるなんて無理や」
「怪物を倒すのは・・・まぁ無理か」
「腹立たしいことにそうや・・・でも、ルイーズさまは違った。諦めたなかったんや」
最後の最後まで、何か出来ることが無いか。
魔法の解除には、いくつか工程を挟む必要があるが、それも既に準備が終わっているらしい。
「私には、これしか出来ませんから・・・」
「それにしたってよくやるよ。あんたの周りは敵だらけだっただろうに」
「それでも、諦めることはしたくなかったのです」
「ふーん・・・んで?これが終わったらあんたはどうなる」
「・・・」
立場が悪く、魔法も解除された。
犯人はすぐに分かるだろう。そして最終的には・・・
「死罪ってだけで済めばいいがな」
「覚悟の上です」
「大した覚悟だこと・・・コーリィ」
「なんや」
「俺が怪物を倒したとして、どれだけ国は混乱すると思う」
「・・・目の前で倒すんならともかく、そうやないならそもそも気が付きもせんと思うわ」
「何でだ」
「そもそも姿すらちゃんと知らんのやうちら」
「・・・は?馬鹿か?」
「しゃーないやん。あっちは禄に姿見せへんねんで」
儀式の内容は非常に簡単だ。
生贄の少女を、海に投げ入れるだけ。怪物は口を開けて待っていればいい。
そもそも生贄はどういう基準で決めるか。
魔力の量も当然関係あるが・・・一番重要なのは質だ。
モルトン王国は、他の国と比べて全く違う点がある。
それは完全体の精霊などの超常の存在に守られていないことだ。
他にも同じような国はあるが、凡そどこの国も何かしらの存在と契約を結んでいる。
竜国のリアや、封国のアルがそうだ。
彼女達の様に人々の生活に直接関わっていることは少ないが、手に負えないことが起きた場合には力を貸すらしい。
ではモルトン王国には何故そのような存在がいないのか。
その答えを、俺は先にリアから聞いていた。リアが手を出さなかった最大の理由がそれだった。
人の成長を阻害しないという理由はもちろんある。
だがそれはダイジュナやアル達にとっては一番の理由というだけで、アルの理由は別だった。
生贄に選ばれる少女は、ある特殊な魔力を持って生まれる。
その魔力は、海魔と同じ性質を持っている。
その少女を食らうことで。海魔は大きな力を得られるというわけだそうだ。
では何で少女は海魔と同じ魔力の性質を持っているか。
簡単な話だ。海魔とモルトン王国が、儀式を行う契約を結んだ際に海魔の血を取り入れた。
「よく、知っているのね」
「まぁこっちには最強格が何体か味方にいるんで」
リアはこの理由から手を出すことを辞めた。
何故ならこの儀式は、人が望んで始めた物だからだ。
今の人間が決めたことではないのかもしれない、だが確かに人間と海魔の間で結ばれた、正式な契約なのだ。
リアからしたら、その時点で手を出す理由は無くなったわけだ。
契約なら、守って当然だからだ。
だからリアもダイジュナも、俺に自重しろなんて言ってきたんだ。
互いに納得して結ばれた契約の妨害をするのは、普通に悪いことだから。
それが遥昔に結ばれた物であってもだ。
アルが俺に覚悟を聞いてきたのは、そういう部分も関係しているんだろう。
「・・・それが他がうちらに協力せんかった理由かい」
「ん?知らなかったのか?」
「私も初めて聞きました・・・」
「でも今のうちらが結んだものやない。なのに手も貸してくれへんのかい」
「しゃーないさ。何せ時間の流れが違う」
人間にとっては、確かにそうだ。
自分達の祖先とは言え、関係のない人間が勝手に結んだ契約だ。
それで悲劇が生まれるなどというのは、とんでもない災難だろう。
だがそうじゃない連中もいるんだ。
特に長生きしている連中はそうだろう。
だから海魔は、未だに生贄を求める。
だから人外達は人間を助けない。
命の長さが、そのまま感性の違いなのだ。
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